「日焼け」したベンゼンが有用物質に?―光エネルギーを用いたベンゼンの変換技術を開発―

「日焼け」したベンゼンが有用物質に?
―光エネルギーを用いたベンゼンの変換技術を開発―

 国立大学法人東京農工大学大学院生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻一貫性博士課程の中山海衣(研究当時)ならびに同大学院農学研究院応用生命化学部門の岡田洋平准教授は、有機化合物の代名詞とも言える「ベンゼン」を、光エネルギーを用いた穏やかな反応で有用な物質へと変換する手法を開発しました。今回の成果は、極めて安定で反応に乏しいベンゼンを、医薬品などの原料として活用することに繋がると期待されます。

本成果は、The Journal of Organic Chemistry誌(アメリカ化学会)への掲載に先立ち、4月25日にWeb上で公開されるとともに、同誌のSupplementary Coverに採用されました。
タイトル:Arene C-H Amination with N-Heteroarenes by Catalytic DDQ Photocatalysis
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.joc.3c00293

現状
 有機合成化学は、我々の生活にとって必要不可欠な医薬品や機能性材料などの「ファインケミカル」を製造するために無くてはならない技術です。特に近年では、単に目的とする化合物を作るだけではなく、毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒の使用を最小限に抑えた、環境に優しい「作り方」にも注目が集まっています。また、反応に用いるエネルギーについても、化石燃料の消費を伴う熱から脱却し、電気や光といった持続可能なものを積極的に採り入れることが求められています。
 有機化合物の代名詞とも言える「ベンゼン」は、多くの医薬品や機能性材料に含まれる構造です(図1)。一方で、ベンゼンそのものは極めて安定で反応性に乏しく、有用な物質へと変換するためには、一般に毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒を用いて加熱条件に供する必要があります。電気や光といった持続可能なエネルギーを用いる穏やかな反応でベンゼンを有用な物質へと変換することができれば、医薬品などの原料として活用することに繋がると期待されます。

図1. ベンゼンの構造と特徴

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻 中山海衣(研究当時)ならびに同大学院農学研究院応用生命化学部門 岡田洋平准教授の研究チームで実施しました。

研究成果
 本研究グループでは、電気や光といった持続可能なエネルギーを活用した、有機合成化学における新しい方法論の開発に取り組んできました。これまでに、穏やかな反応で炭素と炭素を繋ぎ合わせる独自の物質変換法(2019年11月5日2016年8月23日プレスリリース)や、エネルギー効率を最大限に高めた反応技術(2022年3月15日プレスリリース)を報告しています。本研究では、光エネルギーを用いた穏やかな反応で、極めて安定なベンゼンを有用な物質へと変換する技術の開発に取り組みました。
 上述した通り、有機化合物の代名詞とも言えるベンゼンは極めて安定で反応性に乏しく、有用な物質へと変換するためには、一般に毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒を用いて加熱条件に供する必要があります。これに対して近年、有機合成化学で古くから用いられてきた2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)と呼ばれる穏やかな反応剤が、光を浴びることによってベンゼンを効率的に有用な物質へと変換できることが報告されています。従来の技術では1つのベンゼンと1つのDDQが反応するため、ベンゼンと同じ数だけDDQが必要でした(図2)。

図2. 可視光とDDQを用いるベンゼンの変換技術(従来法)

本研究では、このような変換技術をより環境に優しいものへと発展させることを目指して、DDQの使用量を削減することに取り組みました。様々な反応条件を調べた結果、用いる光の波長を可視光から紫外光にするだけで、必要なDDQの量を5分の1以下に削減できることを見出しました(図3)。詳細なメカニズムはまだ明らかになっていませんが、反応に用いる僅かな光の波長の違いがこれだけ大きな影響を及ぼしたことは予想外のことです(図4)。

図3. 紫外光とDDQを用いるベンゼンの変換技術(本研究)
図4. The Journal of Organic Chemistry誌のSupplementary Cover

今後の展開
 今回の成果は、極めて安定で反応に乏しいベンゼンを、医薬品などの原料として活用することに繋がるものです。詳細なメカニズムを解き明かし、さらに本変換技術が発展していくことが期待されます。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学 大学院農学研究院
応用生命化学部門 准教授
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-367-5667
E-mail:yokada(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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