身体運動の“コツ”・ “クセ”を見破る手法の開発 -効果的なスポーツトレーニング、リハビリテーションの提案を見据えて-

身体運動の“コツ”・ “クセ”を見破る手法の開発
-効果的なスポーツトレーニング、リハビリテーションの提案を見据えて-

 国立大学法人東京農工大学大学院 工学研究院 先端電気電子部門の瀧山健准教授の研究チームは、ベーシックな機械学習手法を応用して身体運動データから“コツ”・“クセ”を抽出する手法を開発しました。これまでの研究では、実験室環境で精密に測定された身体運動データに対する解析手法が主流でした。また、特定の運動パターンや特定のタイミングの運動のみを対象とした解析手法が中心でした。一方で、様々な運動パターン・様々なタイミング・様々なタイプのデータを汎用的に解析可能な手法は少なく、スポーツやリハビリテーションの現場で計測可能なデータの解析手法は確立されていませんでした。
 現在、データ計測技術が目覚ましく発展し、スポーツやリハビリテーションといった現場への利用が期待されていますが、解析手法が整っていないことが、データの効果的な応用や、現場で得られたデータに基づく身体運動制御・身体運動学習の研究の発展を妨げる原因となっていました。本研究では、身体動作の中からパフォーマンス(例えば、球を投げる際の“球速”)に関連する成分を抽出する解析手法を提案しました。本研究成果により、パフォーマンスに関連する動作、すなわちコツの抽出が可能となります。今後プロスポーツ選手やリハビリテーション現場を対象に、スポーツ・伝統芸能のコツや、各人の動作のクセを抽出することが容易になり、各選手に適した効果的なトレーニング方法の提案や、各患者に適した効果的なリハビリテーション方法の提案などが期待されます。

本研究成果は、Scientific Reports(5月10日付:日本時間5月10日)に掲載されます。
報道解禁日:5月10日午後6時(日本時間)

論文名: Decomposing motion that changes over time into task-relevant and task-irrelevant components in a data-driven manner: application to motor adaptation in whole-body movements
著者名: Daisuke Furuki & Ken Takiyama
論文URL: www.nature.com/articles/s41598-019-43558-z


現状
 歩く、ボールを投げる、スマートフォンを操作するなど、我々は日常生活における身体運動動作を難なくこなすことができます。しかしながら、ある身体運動を達成するためには、360もの関節、650以上もの筋肉を協調させて制御する必要があり、我々がどのように身体という大自由度系を制御しているかは未だ明らかになっていません。一つの仮説としては、目標を達成するために必要不可欠な運動要素のみを制御し、目標達成に必要ない運動要素は制御していないというものです。そのため、多くの研究が、目標を達成するために必要不可欠な運動要素を抽出し、その性質を議論していました。
上記の仮説やそれに基づく研究では、目標を達成するために必要不可欠な運動要素を議論する必要があるため、ものを掴む際における手先の軌道、ダーツ投げにおける投げた瞬間のダーツの位置と速度と終点位置の関係性など、運動と結果の関係性が明らかである状況のみが対象となっていました。加えて、精密な実験設備のみで計測可能なデータを想定しており、スポーツやリハビリテーションの現場で選手や患者への負担が少なく計測可能なデータや、投球動作における足の動きの役割など運動と結果の関係性が明らかでないものを対象とすることは困難でした。

研究体制
 本研究は、東京農工大学・瀧山健 准教授の研究チームにより実施しました。本研究は、科研費18K17894によりサポートされています。

研究成果
 本研究ではベーシックな機械学習手法を身体運動解析に適用することにより、様々なデータタイプ、様々な運動パターンにおいて、身体運動の“コツ”・“クセ”を抽出する手法を提案しました。本研究では具体的な応用例として、跳躍動作の一連の流れから跳躍高に関連する身体動作成分、すなわち跳躍高に関連するコツと、跳躍高に関連しない身体動作成分、すなわちクセを抽出しました。提案手法は、先行研究にて提案されていた複数の手法の利点を統合し、欠点を克服する新たな身体運動解析手法となることを示しました。
 さらに、難易度を急激に変化させる運動学習と、難易度を徐々に変化させる運動学習との比較を行い、身体運動の”コツ”・”クセ”がどのように変化するか定量化を行いました。その結果、難易度を急激に変化させる運動学習では身体運動の“コツ”・“クセ”が学習後にも変化しやすく、難易度を徐々に変化させる運動学習では身体運動の“コツ”・“クセ”が学習後に変化しづらいという、身体運動学習における新たな知見を得ました。

今後の展開
 提案手法を様々なレベル、様々なスポーツの選手の身体動作に適用することにより、プロに特有な身体運動の“コツ”を抽出することが今後の展開の一つとして挙げられます。加えて、スポーツ選手の身体動作を長期的に計測・解析することにより、身体運動の“コツ”・“クセ”の変化を捉え、怪我の予兆を捉える可能性も期待できます。
 一方、在宅時の患者の身体動作データに適用することにより、身体運動の“クセ”の変化を捉え、在宅時に置いても回復過程の定量化が期待できます。加えて、在宅時の高齢者の身体動作データに適用することにより、身体運動の”クセ”の変化を捉え、疾患の予兆を捉える可能性も期待できます。
すでにコンピュータービジョンや機械学習において身体動作計測手法は目覚ましい進歩を遂げています。その一方、身体動作解析手法は未だ発展途上です。本手法を今後計測されていく膨大な身体動作データに適用することにより、スポーツからリハビリテーションまで、様々なレベルの応用が期待できます。

図1: 本研究の概要

◆研究に関する問い合わせ◆

 東京農工大学大学院工学研究院
 先端電気電子部門 准教授
   瀧山 健 (たきやま けん)
   TEL/FAX:042-388-7444
  E-mail:ken-taki(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

関連リンク(別ウィンドウで開きます)

 

CONTACT