Stochastic modeling of the effects of human-mobility restriction and viral infection characteristics on the spread of COVID-19 ~ロックダウンによるコロナウイルス感染拡大抑制効果の相対的な予測に向けて~

Stochastic modeling of the effects of human-mobility restriction and viral infection characteristics on the spread of COVID-19
~ロックダウンによるコロナウイルス感染拡大抑制効果の相対的な予測に向けて~

 東京農工大学・黒田研究室及び水谷研究室らは、タンパク質の凝集を解析するための格子モデルを人間の移動とウイルス感染を解析するためのモデルに応用しました。本モデルでは、粒子を「タンパク質」から「人」に換え、粒子の状態に影響する「タンパク質間の分子間相互作用」を「感染確率」に換えています。また、パラメーターとして、(i)ウイルス感染確率、(ii)ウイルス検出感度、(iii)人の移動範囲、の3つを用いています。本モデルは、人の移動制限(ロックダウン)の時期や範囲などによって感染者数の増大を定性的または相対的に予測することが可能です。

 本研究成果は、medRxiv(7月30日受付(日本時間7月29日付))に掲載されました。(査読中)
 doi: https://doi.org/10.1101/2020.07.28.20163980

図1:上段:先行研究で開発したタンパク質の凝集を解析するための格子モデル。 下段:今回開発した格子モデルは、粒子を「人」と解釈する。白・黒でそれぞれ、未感染・感染した粒子を示す。図では4粒子しか示していないが、計算では格子数を1000から1万、粒子数を2000から2万で計算を行った。

現状
 COVID-19は、2019年12月に中国・武漢で発病が初めて確認されてから数か月で、世界中に広がりました。以来、世界中で1,400万人を超える患者が報告されており、60万人以上が死亡しています (執筆時点2020年7月)。 COVID-19感染は、人と人との密接な接触から起きると考えられているため、多くの国で対人接触を減らすための移動制限政策が実施されました。特定の治療がないCOVID-19の感染拡大を防ぐには、移動制限対策が一番とされています。しかし、社会インフラの維持には、対人接触を最小限に抑えた経済的および社会的活動の再開が必要なため、ほとんどの国がロックダウン制限の緩和を探っています。

研究体制
 本研究は、東京農工大学・工学部・黒田研究室(黒田裕教授及び大学院生の松沢佑紀氏と安東紫帆氏)が、水谷哲也教授(東京農工大学・農学部)、鶴井博理博士(順天堂大学)とデミエン・ホール博士(名古屋工業大学)との共同研究として行われました。本システムは論文受理後に公開予定ですhttp://domserv.lab.tuat.ac.jp/COVID19.html(準備中)。

研究成果
 本研究グループは、タンパク質の凝集を解析するために用いている格子モデルを人間の移動とウイルス感染の解析に応用しました。粒子を「タンパク質」から「人」に換え、粒子の状態に影響する「タンパク質間の分子間相互作用」を「感染確率」に換えています。本モデルでは、人を一次元の格子上で移動させ、同じ格子点に2人が配置されると、ある確率で感染が起きます。パラメーターとして、(i)ウイルス感染確率、(ii)ウイルス検出感度、(iii)人の移動範囲、の3つを用いました。
 シミュレーションの結果、一般的な予想通り、完全な移動制限が最良の結果、つまり感染総数が最も少ないことを示しました。一方で、感覚では想定しにくい傾向も見えました。例えば、個人の移動が臨界値以下では感染確率がゼロであり、臨界値を超えると感染のリスクが急速に人口密度に依存する一定の値に達することが明らかとなりました。さらに、本モデルによれば、発症患者の検出率が40%を超えるよう検疫を組み合わせる必要があり、ロックダウンだけでは効果的ではないことも解明しました。また、発症前患者を20%程度の確率で検出・隔離できれば、対策を打たないときより感染者数が10分の1以下に減少すると予測されました。最後に、ソーシャルディスタンスやマスク着用によりウイルス感染確率を40%未満に保つことができれば緩やかなロックダウンでも、厳しいロックダウンと同じくらいの効果が見込めることが予測されました。

図2:出力結果の一例。上段:感染者の累計を示す。下段:各時点での新規感染者数を示す。下段で、15時間ステップの移動制限を3回行った。そのことによって感染者数のピークが3つ出現していることも分かる。この例(感染確率80%、検出確率80%)では、約半分の粒子が感染し、その後は流行が終息する(1,000人中500人が感染)。

今後の展開
 ウイルス感染の拡大を解析する疫学モデルの多くは、分子散乱の数理モデルに倣っており、数式が複雑になりやすいです。一方、今回解析に用いた一次元の格子モデルは、数式的にも非常に簡単であるため、使用するパラメーターの解釈が比較的容易です。そのため、今回紹介したシナリオより複雑な状況に容易に適応できます。一方で、すべてのシミュレーションと同様に、本モデルの計算結果の解釈には注意が必要です。たとえば、単位時間、移動性を現実の世界の時間と距離に対応させる際には、あいまいさが伴います。これらの制限を加味してもなお本モデルは、移動制限や感染拡散にどのような効果があるかを評価するための有用な定性的および相対的な情報を提供すると考えます。

用語解説
格子モデル: 格子モデルは粗視化モデルの一種であり、複雑系の動作を解析するためのシミュレーションである。粗視化モデルは、生体分子の分子モデリングなどに広く使用されている。

◆ 研究に関する問い合わせ ◆
東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門 
教授 黒田 裕(くろだ ゆたか)
TEL/FAX:042-388-7794

東京農工大学農学部附属国際家畜感染症防疫研究教育センター 
教授 水谷哲也 (みずたに てつや)
TEL/FAX:042-367-5749

プレスリリース(PDF:457KB)

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