2014年7月4日 微生物が磁気微粒子の形を制御するメカニズムを解明

微生物が磁気微粒子の形を制御するメカニズムを解明
~多様な形のナノ磁石合成が可能に~

国立大学法人東京農工大学大学院 工学研究院生命機能科学部門の新垣篤史准教授と同大学大学院 博士後期課程学生の山岸彩奈らは、磁性細菌 (注) の磁気微粒子合成に関わるタンパク質を解析し、これまでに知られていなかった結晶の形態制御メカニズムを明らかにしました。さらにこのメカニズムを遺伝子工学的に利用すると、新しい形態の磁気微粒子が合成できることを示しました。今後、形態の制御された高品質な磁気微粒子を大量生産し、医療分野での治療・検査処理の試薬、磁気記録媒体の材料、ポリマー合成の触媒などに応用することが期待されます。

(注)磁性細菌
川や海などに生息し、大きさが数十~100ナノメートルの酸化鉄磁気微粒子を合成する細菌の総称。細胞の中に磁気微粒子が一列に整列していることから、磁場に応答する性質を持つ。

図1. 磁性細菌の電子顕微鏡写真(A)。
切頂八面体の形の磁気微粒子を合成する(B)。

図2. 遺伝子欠損株が合成する多様な形の磁気微粒子。
(A) ダンベル状、(B – D) ロッド状。Scale bar = 10 nm

背景:自然界の多くの生物は、環境から取り込んだ無機イオンを原料として形や大きさの整った結晶を作り、体の一部として利用しています。しかしながら、生物がどのように結晶の形態を制御しているかについては未だよくわかっていませんでした。

研究成果:新垣准教授のグループは、ナノサイズの酸化鉄磁気微粒子を合成する磁性細菌(図1)をモデルとして、結晶の形態制御機構の解明に取り組みました。特に、磁気微粒子の結晶表面に局在する4つのタンパク質に着目してそれぞれの遺伝子欠損株を作製し、タンパク質の機能解析を行いました。遺伝子欠損株の解析から、4つのタンパク質は全て酸化鉄の結晶の成長に関わることを明らかにしました。また、それぞれのタンパク質が促進する結晶成長の方向や結晶表面が異なることがわかりました。この結果から、磁性細菌の細胞内では、これらのタンパク質の発現バランスによって磁気微粒子の大きさと形態が決められていることが考えられました。さらに、このような遺伝子欠損株は、人工的に化学合成することが困難なロッド状の形態や、これまで報告例のないダンベル状の磁気微粒子を合成することがわかりました(図2)。

今後の展開:今回、微生物がタンパク質により磁気微粒子の形を制御するメカニズムを世界で初めて明らかにしました。今後、微生物のタンパク質の発現を制御することで、多様な形態の磁気微粒子を目的用途に合わせて自在に設計して作ることが可能になると考えられます。形態や表面の制御された磁気粒子は、MRI造影剤、がん治療における磁気ハイパーサーミア用の材料、高感度免疫測定や遺伝子検査用の試薬、高密度磁気記録媒体用の材料、ビニルエーテル等のポリマー合成用の触媒などとしての応用が期待されます。

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