ミトコンドリアの柔らかさの調節機構を発見~ミトコンドリアの構造・機能連関の理解に向けて

ミトコンドリアの柔らかさの調節機構を発見
~ミトコンドリアの構造・機能連関の理解に向けて

 国立大学法人東京農工大学大学院工学府の米田真由氏(当時 博士前期課程2年)、アクリマ・ヤンナトゥル氏(当時 博士後期課程3年)、工学研究院生命機能科学部門の太田善浩教授、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターの大澤郁朗博士らのグループは、1個のミトコンドリアのライブ計測技術を用いて、ミトコンドリアがエネルギーを作る働きにより柔らかさを変化させていることを見出しました。この成果は、エネルギー分子であるATPをミトコンドリアが変形を利用して効率的に合成する仕組みの理解に迫るものです。

本研究成果は、Archives of Biochemistry and Biophysics(3月15日)に掲載されました。
URL:https://doi.org/10.1016/j.abb.2022.109172
タイトル:Effects of proton pumping on the structural rigidity of cristae in mitochondria

現状
 ミトコンドリアは、細胞の活動に必要なエネルギーを作る細胞内器官です。細胞内では形を時々刻々変化させており(注1、図1)、その形はエネルギー合成機能にとって重要なことが知られています(図2)。しかし、ミトコンドリアの形が、どのように制御されているのか不明でした。この謎が解ければ、ミトコンドリアが効率的にエネルギーを合成する仕組みが、またひとつ分かることになります。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院修了生の米田真由氏(当時 工学府生命工学専攻 博士前期課程2年)、アクリマ・ヤンナトゥル氏(当時 生命工学専攻 博士後期課程3年、現在 チッタゴン大学助教)、および工学研究院生命機能科学部門太田善浩教授、東京都健康長寿医療センターの大澤郁朗博士らのグループにより行われました。なお、本研究の一部は産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)(JPMJOP1833)の支援を受けて行われたものです。

研究成果
 本研究は、ミトコンドリアの形がエネルギー状態によって制御されるか調べた研究です。ミトコンドリアを細胞から取り出してエネルギー合成の様々なステップに置き、低浸透圧液に浸して膨らむ力を加えました。ミトコンドリアは内膜が伸びると膨らむので、膨らみやすさを調べることでクリステの減りやすさを調べることができます(図3)。実験の結果、ミトコンドリアがクリステスペースに水素イオンをためると膨らみやすい、すなわち、クリステが減りやすいことが分かりました。次に、同様の現象が細胞内でも観察できるか調べました。細胞内で伸びた状態にあるミトコンドリア内膜に、クリステスペース内の水素イオン濃度が減少する試薬を加えるとミトコンドリア内膜は大きく縮みましたが、細胞内の水素イオン濃度を高めておくと縮みませんでした(図4)。この結果は、先ほどの細胞から取り出したミトコンドリアで得られた結果を支持するものです。以上から本研究の結果は、クリステスペースに水素イオンがたまっていないエネルギー状態が悪い時には、ミトコンドリアは内膜を縮ませてクリステの面積を増やし自らのエネルギー合成を促進させる、ことを示唆するものと言えます(図5)。
 
今後の展開
 ミトコンドリア内膜には多数のクリステが存在し、クリステスペース内の水素イオン濃度はクリステごとに異なっている可能性が報告されています。次の段階として、クリステ1個のレベルでクリステスペースの水素イオン濃度とクリステの増減のしやすさを計測し、個々のクリステの増減がミトコンドリの伸縮にどのように関わるのか調べます。また、水素イオン濃度を感知してクリステを増減させているタンパク質を調べます。これらが分かれば、ミトコンドリアが形態制御を通じて効率的にエネルギーを合成している仕組みが、より具体的にわかります。加えて、エネルギー状態が良い時にミトコンドリア内膜がクリステを減らして伸びることの生理的意義も調べます。

用語解説
注1)ミトコンドリア
 細胞のエネルギー合成で中心的な役割を果たす細胞内器官。外膜と内膜の2つの膜を持ち、内膜はひだ状に折れ畳まれている。内膜が縮む際には、このひだ(クリステ)の面積を増やし、縮んだ状態から伸びる際にはクリステを減らす(図1)。また、クリステが作る狭い空間(クリステスペース)に水素イオンを移動させてためた後、もとに戻すことでエネルギーを作る(図2)。

図1 細胞内ミトコンドリアの変形
図2 ミトコンドリアのエネルギー合成
図3 低浸透圧による膨らみ
低浸透圧に曝すとミトコンドリアに膨らむ力が加わり、クリステが短くなると膨らむ。
図4 細胞内ミトコンドリアの形態変化
ミトコンドリア周囲の水素イオン濃度を高めると、クリステを挟んだ水素イオン濃度勾配をなくす試薬を添加しても、ミトコンドリアは収縮しない。
図5 ミトコンドリアへの水素イオンの出入りとクリステの伸縮(本研究の結論)

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 教授
 太田 善浩(おおた よしひろ)
 E-mail:ohta(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp 

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