石炭灰中に含まれる微量含有元素の挙動を解明 - 石炭灰処理/利活用の新たな指針となることが期待 -

石炭灰中に含まれる微量含有元素の挙動を解明
- 石炭灰処理/利活用の新たな指針となることが期待 -

 国立大学法人東京農工大学農学研究院生物システム科学部門 橋本洋平准教授、大学院生物システム応用科学府 長尾有記(博士課程生、UBE株式会社)の研究グループは、石炭火力発電所における発電ボイラーで石炭を燃焼させた際に発生する副産物である石炭灰(フライアッシュ)中に含まれる微量元素の挙動を解析しました。その結果、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、ヒ素(As)、セレン(Se)といった元素の石炭灰中の化学状態を明らかにすることができました。本研究結果は、石炭灰中に含まれるこれら元素の適切な除去/溶出抑制技術を実施/選択する際の一端に貢献するとともに、石炭灰処理/利活用の新たな指針となることが期待されます。

本研究成果は、Waste Management(Impact factor 8.81, 12月10日付)に掲載されました。
論文タイトル:Characterization of trace elements in coal fly ash by extraction, micro-PIXE, TOF-SIMS, and XAFS
URL:https://doi.org/10.1016/j.wasman.2022.11.041

現状
 石炭灰は、石炭火力発電所における発電ボイラーで石炭を燃焼させた際に発生する副産物であり、現在その70%はセメント分野の原料利用で処理されています。しかしながら今後、国内におけるセメント需要の減少が予想され、それに伴い石炭灰処理量の減少も懸念されます。またエネルギー事情においても、石炭火力発電は今後もベースロード電源として必要不可欠であることから、石炭灰発生量は今後も維持の傾向にあり、新たな用途先の確保/有効活用策の具体化が必要となります。
 一方、石炭灰を利用するためには、高い安全性も求められます。石炭灰中には、無機成分に加えて、微量成分が含まれていますが、その中には、ホウ素(B)、フッ素(F)、クロム(Cr)、ヒ素(As)、セレン(Se)といったように、土壌環境下で使用する際に水中への溶出が規制されている元素(規制対象元素)が存在します。一般的な石炭灰においてこれら全ての元素の溶出量が基準値以下となるのはまれであり、それぞれの用途先で使用する際にはこれらの元素の化学状態を明らかにした上で、適切な除去/溶出抑制技術を実施/選択することが必要ですが、これまでは断片的にしか明らかにされていませんでした。

研究体制
 本研究は東京農工大学および、UBE株式会社で実施されました。

研究成果
 本研究チームは、異なる石炭火力発電所由来の石炭灰について、元素分析や溶出試験、微量元素に関しX線吸収微細構造解析(XAFS)注1により詳細解析を行い、化学的特性および鉱物学的特性を把握しました。また、それら元素の分布状態を把握するために、粒子線励起X線分析(PIXE)注2および飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)注3を行い解析しました。これら解析により、微量元素の価数および石炭灰中における化学状態を明らかにし、解析技術を確立することができました。図1に示すように、粒子線励起X線分析(PIXE)を本研究のような石炭灰中に含まれる微量元素の分析/解析に適用した例はこれまでになく、クロム(Cr)やヒ素(As)が偏って分布していることが分かります。
 
今後の展望
 本研究において明らかにした石炭灰中規制対象元素の化学状態は、それら元素の溶出メカニズムを解明した上で、適切な除去/溶出抑制技術を実施/選択する際の一端に貢献するとともに、石炭灰処理/利活用の新たな指針となることが期待されます。また、本手法を他分野の副産物へも適用することにより、それらの用途開発や拡大につながることが期待されます。

用語解説
注1)X線吸収微細構造解析(XAFS)
X-ray Absorption Fine Structureの略称。入射するX線のエネルギーを変えながら物質による吸光度を測定することで、対象の原子近傍の局所的な構造や化学状態を分析する手法。
注2)粒子線励起X線分析(PIXE)
Particle Induced X-ray Emissionの略称。試料にイオンビーム(陽子)を照射し、発生する特性X線のエネルギーと強度から、構成元素を分析する手法。通常の元素分析手法に比べ、検出感度が高いことに特徴がある。
注3)飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)
Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometryの略称。試料にイオンビーム(1次イオン)を照射し、表面から放出されるイオン(2次イオン)を、その飛行時間差(飛行時間は元素の平方根に比例)を利用して質量分離する手法。

図:石炭灰のPIXE画像(元素分布)。低倍率(上段)および高倍率(下段)。円で示した領域を拡大している。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院生物システム科学部門
准教授 橋本 洋平(はしもと ようへい)
TEL/FAX:042-388-7276
E-mail:yhashim(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp


◆報道に関する問い合わせ◆
東京農工大学総務・経営企画部企画課広報係
TEL/FAX:042-367-5930
メール:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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