如何に言語の多様性が生物多様性を守りうるのか

如何に言語の多様性が生物多様性を守りうるのか

 東京農工大学大学院農学研究院の赤坂宗光准教授、オーストラリア クイーンズランド大学(東京農工大学グローバルイノベーション研究院・特任准教授を兼任)の天野達也博士ら世界中の60人の研究者が参加した研究プロジェクトは、日本語を含む英語以外の16の言語で公表された生物多様性に関わる419,679報の査読付き論文をスクリーニングして得た1234報を定量的に評価しました。その結果、非英語で公表された科学的知見を活用することで、これまで英語で集約されてきた生物多様性の保全に関わる知見が劇的に拡大することを明らかにしました。この成果は英語以外で公表された知見の価値の見直しにつながり、非英語論文を国際的に利用することで、世界的に生物多様性の保全が加速することが期待されます。

本研究成果は、Plos Biology誌(10月7日付)に掲載されました。
URL:https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3001296

現状
 重要な科学的知見は、英語で取得可能であるという考えから、科学的な知識の整理・統合(科学的な情報を多様な情報源から整理統合する過程)において、日本語を含む非英語言語で発表された研究の存在は重要視されてきませんでした。しかし、非英語で公表された研究成果が科学界に果たす役割はほとんど定量的に評価されてきませんでした。そこで本研究は、非英語で公表された研究が、科学的な知識の整理・統合に果たす役割を定量的に評価しました。

研究体制
 オーストラリア クイーンズランド大学(兼任 東京農工大学グローバルイノベーション研究院・特任准教授)の天野達也博士が代表となり、同大農学研究院自然環境保全学部門の赤坂宗光准教授を含む世界中の60人の研究者が参画しました。プロジェクトの詳細はプロジェクトのホームページ(https://translatesciences.com/)で公開されています。

研究成果
 生物多様性の保全に関わる情報は、英語で公表された知見のみに頼ると地球上の限られた場所、特に欧州や北米でしか取得されていませんでした。しかし、非英語で公表された知見を含めると知見の得られる地域が25%拡大しました。さらに、国際自然保護連合(IUCN)が認識している生物種のうちその種の保全策についての情報が得られている種は、英語で公表された情報のみに頼ると両生類191種、鳥類677種、哺乳類727種であったものの、非英語で公表された知見も考慮すると両生類200種、鳥類894種、哺乳類791種に大幅に上昇しました。
 また、実際に保全に関わる人々が科学的根拠に基づいた対策を講じる上で、非英語で公表された知見が極めて重要な役割を果たすことが期待されますが、非英語で公表された科学的な根拠は中南米や日本を含む東アジアなどの生物多様性が豊かで保全が最も必要な地域に多く存在していました。この結果は、世界中で英語により公表された研究のみに注目が集まることで、人類が得ている知識を地球上の生物を守るときに十分に活用できていないことを意味します。
 また、日本語を母語する多く研究者が感じているであろう、日本語で公表された知見が国際的には存在を認識されていないという感覚が、世界的に共通することを意味する成果であるとも捉えられます。
 
今後の展開
 この研究は生物多様性に焦点を当てていましたが、科学のどの分野についても、非英語で公表される研究を包括的に扱うことで、多くの利益を得られるのではないかと考えられます。つまり、科学の世界は英語のみに注目することで、膨大な量の科学的な知見を失っているということができます。
 今後、非英語知見の国際的な利用を如何に促進していくか、意識的な面と技術的な面の両方から検討を進めていく予定です。

図. 英語以外の言語で公表された研究の実施場所の空間分布。黒色のグリッドは英語で公表された研究がないことを示す。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院
自然環境保全学部門 准教授
赤坂 宗光(あかさか むねみつ)
TEL:042-367-5829
E-mail:muuak(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

クイーンズランド大学
生物科学学部
ARC フューチャー・フェロー
天野 達也(あまの たつや)
E-mail:t.amano(ここに@を入れてください)uq.edu.au

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