東京農工大学

アフリカ熱帯林の焼畑-休閑サイクルにおいて休閑初期の草本植生の侵入が土壌肥沃度の回復を早めることを発見

アフリカ熱帯林の焼畑-休閑サイクルにおいて休閑初期の草本植生の侵入が土壌肥沃度の回復を早めることを発見

 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の杉原創特任准教授、同大学院農学研究院生物生産科学部門の田中治夫准教授、京都大学大学院地球環境学堂の舟川晋也教授、新潟食料農業大学食料産業学部の柴田誠助教、愛知大学国際コミュニケーション学部の小﨑隆教授、カメルーンDschagn大学農学部のMvondo Ze A.D.教授らの国際研究チームは、カメルーン東部の熱帯林における焼畑‐休閑サイクルにおける土壌肥沃度回復機構を解明し、休閑初期に繁茂する草本植生由来の炭素がその後の土壌肥沃度回復に大きく貢献していることを明らかにしました。これまでは、焼畑後の土壌肥沃度回復には数十年単位での休閑期間が必要だと考えられていました。本研究成果により、休閑初期に草本植生をうまく利用することで、休閑期間の短縮や農地の集約化と、それに伴う熱帯林保全につながることが期待されます。

本研究成果は、Scientific Reports誌(7月8日付)に掲載されました。
論文名:Forest understories controlled the soil organic carbon stock during the fallow period in African tropical forest: a 13C analysis
著 者:Soh Sugihara, Makoto Shibata, Antoine D. Mvondo Ze, Haruo Tanaka, Takashi Kosaki, and Shinya Funakawa
URL:http://www.nature.com/articles/s41598-019-46406-2   


 本研究は、JSPS科研費(17H06171、18H02315、24255019、24228007)および地球規模課題対応国際科学技術プログラム(SATREPS)「カメルーン熱帯雨林とその周辺地域における持続的生業戦略の確立と自然資源管理」の支援を受けました。

現状
 熱帯林の保全は、気候変動の緩和や生物多様性の保全のためにも極めて重要な課題です。しかしその一方で、当地で生活している原住民にとっての熱帯林は、彼らの生業に不可欠な有用資源でもあり、その持続可能な利用方策の検討が求められています。加えて、アフリカに分布する熱帯林の大部分は貧栄養な土壌環境の上に成立しているため、過度な農地利用による土壌劣化の進行も危惧されます。しかしながら、当地の不安定な社会情勢や隔離された地理環境などによって、科学的知見が極めて少ないのが現状です。そのため、アフリカ熱帯林域の焼畑‐休閑サイクルにおいて土壌肥沃度が回復する機構の正しい理解と、それに基づく持続可能な土壌資源の利用法の構築が求められています。


研究体制
 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院(兼農学研究院生物生産科学部門)の杉原創特任准教授、同大学院農学研究院生物生産科学部門の田中治夫准教授、京都大学大学院地球環境学堂陸域生態系管理論分野の舟川晋也教授、新潟食料農業大学食料産業学部の柴田誠助教、愛知大学国際コミュニケーション学部の小﨑隆教授、Dschagn大学農学部のMvondo Ze A.D.教授らの国際研究チームにより実施されました。
 
研究成果
 開墾後の畑作地(Cropland)、休閑後の年数が4~7年の森(Fallow-F)、20~30年の森(Young-F)、50年以上の森(Old-F)の4地点における土壌断面中の炭素蓄積量(有機物の多さを示し高いほど土壌肥沃度も高い)を評価した結果(図1)、休閑年数が長いほど土壌炭素蓄積量が減少することが明らかになりました。通常は、休閑期間が長いほど、立派に成長した森林が落とす葉や枝等の有機物が蓄積することで、土壌肥沃度が徐々に回復するとされています。この理由を明らかにするために、土壌に蓄積した炭素の由来について、炭素安定同位体比を土壌粒子の大きさ毎に分析することで、C3植物由来(主に森林)とC4植物由来(主に草本)とに分けて評価しました(注1)。その結果(図2)、休閑初期(Fallow-F)で土壌炭素蓄積量が最大となった理由に、森林の伐採・焼却によって添加された木本(C3植物)由来炭素に加えて、休閑初期に侵入してきた下層植生(C4植物)由来炭素が大量に存在していたためであることがわかりました(図3)。これはアフリカ熱帯林の焼畑‐休閑サイクルにおける土壌肥沃度回復過程において、下層植生として侵入・繁茂する草本植生が極めて重要な役割を果たしていることを示しています。
 
今後の展開
 本研究によって、アフリカ熱帯林の焼畑‐休閑サイクルにおける土壌肥沃度回復過程では、下層植生が重要な役割を果たしていたことが示せました。今後、この下層植生を利用した休閑期間の短縮が農業生産という観点において真に持続的かどうか、をその利用方法も含めて明らかにすることができれば、休閑期間の短縮や農地の集約化、そしてそれによる農地利用を目的とした過剰な熱帯林の伐開・損失の防止(=熱帯林を保全)も可能となることから、アフリカでの『持続可能な農業』と『熱帯林の保全』の両立という重要な課題解決に貢献できると期待されます。

注1) C3植物とC4植物
植物が持つ光合成システムの違いによる分類です。(世界の植物種の90%以上がC3植物ですが、高温、乾燥地域ではC4植物の生育が盛んです。)光合成の過程において、C3植物とC4植物では異なる酵素を利用するため、その結果としてC3植物とC4植物の間で炭素安定同位体比に違いが生じます。このことを利用すると、土壌中の炭素安定同位体比を測定することで、土壌炭素の起源となったC3植物とC4植物の割合を推定できます。

図1:カメルーン東部の熱帯林における焼畑‐休閑サイクルの景観と土壌断面の写真。当地の土壌は、風化が極めて進んだ貧栄養なオキシソルという土壌になります。
図2:休閑年数が異なる圃場に蓄積した土壌炭素の由来を画分毎、層位毎に評価した図。M-POMは0.25-2mmの、m-POMは0.053~0.25mmの、Clay+siltは0.053mm以下の画分をそれぞれ示しています。斜線部分がC4植物由来炭素(草本由来)で、塗りつぶし部分がC3植物由来炭素(木本由来)です。Fallow-FからOld-Fになるにつれて斜線部分の量が減少していることから、休閑年数の増加に伴う草本由来炭素の減少が土壌炭素蓄積量の減少の理由であることがわかりました。
図3:本研究で明らかになった、アフリカ熱帯林における焼畑‐休閑中の土壌炭素動態(=土壌肥沃度回復過程)の概念図。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院(兼農学研究院生物生産科学部門)
土壌学研究室 特任准教授
杉原 創(すぎはら そう)
TEL/FAX:042-367-5676
E-mail:sohs(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

京都大学大学院・地球環境学堂・陸域生態系管理論 教授
舟川 晋也(ふなかわ しんや)
TEL/FAX: 075-753-6101, 075-753-6103(FAX)
E-mail:funakawa.shinya.2w(ここに@を入れてください)kyoto-u.ac.jp

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TEL:052-937-6762
FAX:052-937-4816
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◆取材に関する問い合わせ◆
東京農工大学企画課
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