ペチュニアの花の模様が変化するしくみ~内在ウイルスの介在を解明~

ペチュニアの花の模様が変化するしくみ
~内在ウイルスの介在を解明~

 国立大学法人東京農工大学大学院農学府生物制御科学専攻 栗山和典(大学院修士課程)、グローバルイノベーション研究院(GIR)特任助教 田原緑、農学研究院生物制御科学部門 森山裕充准教授と福原敏行教授(GIR兼務)、東北大学 高橋英樹教授、北海道大学 金澤章准教授、テキサスA&M大学 Hisashi Koiwa教授(GIR特任教授)の研究グループは、星咲きや覆輪といった2色咲きのペチュニアの花の模様が変化するしくみを解明しました。この花の模様の変化は、ペチュニアのゲノムに内在し普段は増殖しないウイルスが、植物体の老化やストレスにより活性化し増殖することが原因であることを突き止めました。本成果により、今後、作物や花の安定生産や、内在ウイルスを利用し花色を自由に変えられるような新品種の開発が期待されます。

本研究成果は、The Plant Journal誌への掲載が決定し、暫定版が公開されました。
論文名:Disturbance of floral color pattern by activation of an endogenous pararetrovirus, petunia vein clearing virus, in aged petunia plants
暫定版公開日:2020年2月25日
URL: https://doi.org/10.1111/tpj.14728 

背景
 ペチュニア、ダリア、リンドウなどの園芸品種では、2色模様の星咲きや覆輪咲きと呼ばれる模様のある花を咲かせる品種があります。星咲き系統のペチュニアは、アントシアニン色素が蓄積した有色の花弁の脈に沿った領域が白色になり、図1左のような星形の模様の花を咲かせます。この白い領域は、RNA干渉(RNAサイレンシング)(注1)と呼ばれる遺伝子発現制御機構によりアントシアニン合成酵素遺伝子の発現が抑制され、アントシアニン色素の合成が阻害され色素の無い白い領域ができることが知られています。しかしながら、このような品種で花の模様が変化することは報告されていませんでした。

研究体制
 東京農工大学農学研究院 福原敏行教授は、グローバルイノベーション研究院(GIR)を兼務し、テキサスA&M大学 Hisashi Koiwa教授(GIR特任教授)と国際共同研究を展開しています。同時に、東北大学 高橋英樹教授、および北海道大学 金澤章准教授と、ウイルスの新規な機能の発見および自然発生RNA干渉が植物におよぼす影響について共同研究を展開しています。

研究成果
 本研究チームの栗山和典さん(農学府生物制御科学専攻修士課程2年生)は、ペチュニアを用いて星咲きの模様の花ができるしくみをRNA干渉機構に焦点をあて研究する過程で、長く栽培し老化した植物体には模様が変化した花(図1右)が咲くことを見つけました。このペチュニアは、市販されているロンド・ローズスターという品種です。本研究では、花弁の白い領域の脈に沿った部位にアントシアニン色素が復活することから、この領域でRNA干渉が阻害されることでアントシアニン合成が復活すると仮説を立て国際共同研究を開始しました。また、ペチュニアのゲノムには、ペチュニア葉脈透過ウイルス(petunia vein clearing virus: PVCV)と呼ばれるパラレトロウイルスが約50コピー内在し、植物体がストレスに晒されるとウイルスが活性化することが報告されていたことや、多くの植物ウイルスが宿主植物のウイルス感染防御機構に対抗するため、植物のRNA干渉を妨害するタンパク質 (VSR)(注2)を持っていることが報告されていたことから、この内在ウイルスとRNA干渉との関係に着目し研究を展開しました。

図1 星咲き系統(ロンド・ローズスター)の花(左)と老化した植物に出現した花(右)

 その結果、(1)栽培後2カ月の若い植物体では、ゲノム中のPVCVのDNA配列は高度にメチル化(注3)され不活性化されているが、長期栽培による老化もしくはストレスにより一部のPVCV配列においてメチル化の頻度が下がりPVCVが活性化したこと、(2)花弁のアントシアニンの蓄積(着色)が回復した領域にのみPVCVが増殖していること、(3)PVCVは宿主のRNA干渉を妨害するタンパク質(VSR)を有することを明らかにしました。この結果から、長期の栽培によってストレスに晒されたペチュニアの星咲きの花では、ゲノムに内在するウイルス(PVCV)が活性化し、花弁の脈で増殖したPVCVのVSRによりRNA干渉が妨害され、アントシアニン合成が復活し模様が変化するというしくみを明らかにしました(図2)。なお、着色が回復した領域ではPVCVの活性化を抑制するためにRNA干渉機構が活性化し、宿主DNAに新規なメチル化が誘導されていることも発見しました。
 このような花色の変化は、多くの星咲き系統のペチュニア品種と覆輪(ピコティー)系統の品種(図3)についても観察されたことから、RNA干渉により2色咲きの花を咲かす品種に普遍的な現象であると考えられます。

図2 植物体の老化に伴う内在ウイルスの活性化と花の模様の変化
図3 覆輪系統(バカラ・ローズピコティー)の花(左)と老化した植物に出現した花(右)

今後の展開
 今回報告したペチュニアとPVCVの関係は、内在ウイルスの活性化を花の色(模様)の変化でビビットに捉えることのできる実験系であり、宿主植物とウイルスの攻防を研究するための優れた研究材料といえます。また、PVCVのように植物のゲノムに内在し普段は増殖しないウイルス(パラレトロウイルス)は、ペチュニアだけでなくダイズやトマトなど多くの作物やダリアなどの花卉のゲノムに普遍的に存在することが知られています。これまで知られていなかった、内在ウイルスの活性化により植物の性質が変わるしくみを明らかにした本成果により、今後、作物や花の安定生産や、内在ウイルスを利用して花の色や模様を自由に変えられるような新品種の開発が期待されます。

本研究は、JSPS科研費・新学術領域研究「ネオウイルス学」(16H06435, 16H06429, 16H21723)の助成を受けたものです。

注1)21-24ヌクレオチドの小分子RNAによる遺伝子発現制御機構。遺伝子からタンパク質が作られる過程(翻訳)の阻害と、DNAのメチル化という2つの機能をもつ。
注2)植物ウイルスは、自身の増殖のために宿主植物の防御機構(RNA干渉)を妨害するタンパク質VSRを持っている。
注3)DNAがメチル化されると遺伝子の発現(mRNAの転写)は抑制(阻害)される。

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院農学研究院
 生物制御科学部門 教授
 福原 敏行(ふくはら としゆき)
  TEL/FAX:042-367-5627
  E-mail:fuku(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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