「複数の薬を異なる速度で放出できるゲル」の開発に成功 ~ 「より効率的ながん治療」や「薬の飲み忘れがない在宅医療」の実現へ ~

「複数の薬を異なる速度で放出できるゲル」の開発に成功
~ 「より効率的ながん治療」や「薬の飲み忘れがない在宅医療」の実現へ ~

東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の村上義彦准教授の研究グループは、「複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲル」の開発に成功しました。薬物キャリア(体内に薬を運ぶための入れ物)として従来より利用されている構造体(ミセル)に着目し、「薬物キャリアをゲルの内部に固定化する」という新しい材料設計アプローチによって、「物質の放出を制御できる機能」をゲルに与えました。この材料によって、「より効率的ながん治療」や「薬の飲み忘れがない在宅医療」が実現すると期待されます。

 

本研究成果は、界面科学の専門誌Colloids Surface B: Biointerface電子版に2017年2月29日に掲載されました。
http://dx.doi.org/10.1016/j.colsurfb.2017.02.008

<現状>
がんを薬で治療する際には、一種類の抗がん剤のみを投与することは少なく、複数の抗がん剤や補助薬を併用することで薬効の増大や副作用の軽減が図られています。このような「多剤併用療法」においては、使用する薬物の種類が増えるほど薬物の投与スケジュールが複雑になるという問題点があります。また、病院におけるがん治療に限らず、在宅の一般的な投薬治療においても、「処方された複数の薬の投薬スケジュールを守り、飲み忘れることがない」ための技術開発は、今後ますます深刻になる高齢化社会では極めて重要になると考えられます。

<研究成果>
本研究グループでは、「『物質の放出速度が異なるミセル』をゲルの内部に固定化する」という材料設計での独自のアイデアによって、「複数の物質の放出挙動を自在に制御できるゲル」の開発に成功しました(図1)。これまでは、薬物キャリアは単体で血液中に投与して用いられてきましたが、ゲルの内部に固定化する技術を確立することによって新しい材料の設計が可能になりました。高分子(直鎖状)とミセルを混合するだけで、数秒以内に迅速にゲルが形成します。ミセルを形成する分子(ブロック共重合体)の組成によってミセル内部の「固さ」を選ぶことができるため、ミセルからの物質の放出を容易に制御することができます(内部が固いミセルからの物質放出は遅く、内部が柔らかいミセルからの物質放出は速い)(図2)。さらに、複数の物質がゲルから放出される様子を、蛍光顕微鏡によって観察することにも成功しています(図3)。

<今後の展開>
高分子(直鎖状)とミセルを混合するだけで迅速にゲルが得られるため、各成分を溶解した二つの水溶液を体内に注入し、治療用のゲルを体内で形成して留置するだけの「患者に優しい」新しいがん治療法が実現する可能性があります。また、ゲルだけではなく、皮膚に貼付するパッチ材料の中に複数の高分子ミセルを固定化することによって、高齢者でも簡単に使える「投薬スケジュール通りに複数の薬が放出されるゲル状のシート」が実現する可能性があります。今後は、抗がん剤などの各種薬物を用いてゲルを作製し、その治療効果を評価する予定です。

<用語の説明>
ミセル・・・分子間力によって多数の分子が集合したもの

図1 複数の薬を異なる速度で自在に放出できるゲル
図2 物質の放出速度を制御する原理
図3 ゲルからの放出挙動の観察

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学 大学院工学研究院 応用化学部門
 准教授 村上義彦(むらかみよしひこ)
  TEL/FAX:042-388-7387
  E-mail:muray(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

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