ブロードイオンビーム試料断面作成法と高分解能走査電子顕微鏡法の組み合わせは木材のインタクトな構造解析を可能にする

ブロードイオンビーム試料断面作成法と高分解能走査電子顕微鏡法の組み合わせは
木材のインタクトな構造解析を可能にする

 国立大学法人東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程大学院生の波多野友博氏(日本電子株式会社所属)、東京農工大学大学院農学研究院環境資源物質科学部門の半 智史准教授、堀川祥生准教授、船田 良教授らは、木材など木質バイオマスの性質を決定する、樹木の形成層細胞が生産する二次組織(二次木部や二次師部)の形態や構造をインタクトに(試料作成時の損傷を防いで本来の状態で)解析する方法を開発しました。研究グループが確立した、ブロードアルゴンイオンビーム(BIB)による試料断面作成法と高分解能走査電子顕微鏡法を組み合わせた方法は、硬い細胞と柔らかい細胞が混在している木材のインタクトな構造解析を可能にしました。本研究の成果は、再生可能な資源・エネルギーで大気中の二酸化炭素(CO₂)を固定する木材の材料特性を解明し、さらなる高度有効利用に貢献するといえます。

本研究成果は、Scientific Reports誌に掲載されました(2022年6月1日にオンライン公表)
論文名:A combination of scanning electron microscopy and broad argon ion beam milling provides intact structure of secondary tissues in woody plants
著者:Tomohiro Hatano, Satoshi Nakaba, Yoshiki Horikawa & Ryo Funada
掲載URL:https://doi.org/10.1038/s41598-022-13122-3

現状
 石油や石炭など化石資源の大量消費や熱帯林の減少などにより、温暖化ガスである大気中のCO₂濃度が上昇しており、地球環境の急激な変動が危惧されています。樹木の形成層細胞が生産する木材など木質バイオマスは、CO₂を固定する場として重要です。したがって、循環型社会を構築して持続可能な開発目標(SDGs)を達成し、パリ協定を遵守するためには、再生可能な資源・エネルギーである木材の高度有効利用が不可欠です。木材の材質は、樹幹の形成層細胞由来の二次組織(二次木部や二次師部)の細胞形態や構造により決定されます。しかしながら、二次組織を構成する細胞のサイズや細胞壁の厚さは多様性(不均一性)に富んでいるため、顕微鏡観察用試料の作成時に天然の木材には存在しない人為的な構造(アーティファクト)を生じる可能性が高いです。したがって、二次組織のインタクトな細胞形態や構造を可視化する方法の開発は、高度な材料機能を有する木材を創出する上で重要な基礎的要素技術といえます。

研究体制
 本研究は、国立大学法人東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程大学院生の波多野友博氏(日本電子株式会社所属)、同大学院農学研究院環境資源物質科学部門の半 智史准教授(同グローバルイノベーション研究院兼務)、堀川祥生准教授(同グローバルイノベーション研究院兼務)、船田 良教授から構成される研究グループにより行われました。本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金・新学術領域研究(20120009)と基盤研究B(24380090、15H04527、18H02251、21H02253)により行われました。

研究成果
 ブロードアルゴンイオンビーム(BIB)は、硬さや成分が大きく異なる物質が複雑に混在している試料においても、非常に滑らかな断面切削が広範囲で可能です。そこで本方法を、木材を構成する二次組織(二次木部や二次師部)の切削に用い、高分解能走査電子顕微鏡(電界放出型走査電子顕微鏡)を用いて断面を観察したところ、細胞形態や構造の可視化ができました。イオンビームを用いた切削は、発生する熱により生物試料の構造が損傷する場合が多いことが欠点ですが、薄い銅箔に試料を接着するなど熱ダメージを低減する前処理を施すことでインタクトな細胞形態や構造が保持されました。針葉樹であるアカマツ(Pinus densiflora)の師部柔細胞内(図a)において、細胞小器官の3次元ネットワーク像が得られ、また師部柔細胞内(図a)や樹脂道を取り囲むエピセリウム細胞(分泌細胞)や軸方向および放射柔細胞内(図b)に存在するデンプン粒や脂質粒など貯蔵物質の形状も良く保存されていました。さらに、アカマツの傾斜した樹幹下側に形成される圧縮あて材(compression wood)仮道管(図c)や日本産で最も重く硬い広葉樹であるウバメガシ(Quercus phillyraeoides)の傾斜した樹幹上側に形成される引張あて材(tension wood)木部繊維(ゼラチン繊維;図e)の厚い細胞壁の断面も極めて円滑でした。一方、木材の断面の作成に広く用いられてきたミクロトームやカミソリによる切削では、圧縮あて材仮道管細胞壁の著しい割れ・裂け(図d)やゼラチン繊維の細胞壁内層に存在するセルロースに富んだゼラチン層の剥離(図f)が認められました。これらの細胞壁構造は、試料作成時の機械的なダメージにより生じたアーティファクトと考えられます。

今後の展開
 研究グループが開発したBIBによる試料断面作成法と高分解能走査電子顕微鏡法を組み合わせた可視化技術は、硬い細胞と柔らかい細胞が複雑に混在している木材のインタクトな構造解析を可能にしました。今後、本可視化技術は、多様性や高機能性に富んだ生物材料の構造解析に広く使用され、材質特性の発現機構の解明に貢献することが期待されます。

図 高分解能走査電子顕微鏡による木材の断面観察

a:アカマツ二次師部柔細胞の放射断面(BIBによる断面切削)、b:アカマツ二次木部の樹脂道、エピセリウム細胞、軸方向柔細胞、放射柔細胞の横断面(BIBによる断面切削)、c:アカマツ圧縮あて材仮道管の横断面(BIBによる断面切削)、d:アカマツ圧縮あて材仮道管の横断面(カミソリによる断面切削)、e:ウバメガシ引張あて材木部繊維(ゼラチン繊維)の横断面(BIBによる断面切削)、f:ウバメガシ引張あて材木部繊維(ゼラチン繊維)の横断面(カミソリによる断面切削)、N;核、O;脂質粒、P;細胞質、R;樹脂道、S;デンプン粒、V(図a);液胞、V(図b);細胞間の空隙
Scale bars = 20μm(図a、b)と10μm(図c、d、e、f)

 

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院環境資源物質科学部門
教授 船田 良(ふなだ りょう)
TEL/FAX:042-367-5666/042-360-7167
E-mail:funada(ここに@をいれてください)cc.tuat.ac.jp

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