2013年10月17日 根粒菌のダイズへの新規共生経路の発見

根粒菌のダイズへの新規共生経路の発見
~病原菌から共生菌への進化の解明に向けて~

本研究成果は、2013年9月30日米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)のオンライン版にて先行発表されました。

国立大学法人東京農工大学 大学院農学研究院国際環境農学部門の岡崎伸助教らの研究グループは、京都産業大学・金子貴一准教授、かずさDNA研究所・佐藤修正博士、奈良女子大学・佐伯和彦教授らとの共同研究により、マメ科植物と根粒菌の共生成立過程において一般的に必須と考えられている経路(Nodファクターと受容体による経路)とは別の新規共生経路(III型分泌系による経路)を発見した。病原菌が宿主に病原因子を打ちこむための装置として知られているIII型分泌系が、マメ科植物の共生経路のスイッチを入れるという今回の研究成果により、病原菌から共生菌への進化の解明が期待される。

現状:土壌細菌の一種である根粒菌は、ダイズなどのマメ科植物の根に根粒を形成し共生している。根粒菌は空気中の窒素をアンモニアに還元して植物に供給するため、マメ科植物は窒素の少ない土壌でも生育することができる。1980年代後半からの研究により、根粒形成に至るプロセスは、根粒菌がNodファクターを分泌し、これを宿主であるマメ科植物が受容することが必須であると考えられていた。

研究体制:東京農工大学、かずさDNA研究所、京都産業大学、奈良女子大学の研究グループの共同研究

研究成果:本研究では、ダイズ変異体と根粒菌変異株をさまざまに組合せて接種試験を行い、共生が行われるかを調査した。通常、Nod ファクター受容体を欠くダイズnfr変異体に根粒菌を接種しても、根粒菌が分泌するNod ファクターを受容することができないために根粒が形成されない。しかし、III型分泌系保有根粒菌を接種した場合では、ダイズnfr変異体に根粒を形成することが可能であった。この結果から、III型分泌系保有根粒菌は、Nod ファクターと受容体による感染経路とは別の、III型分泌系による経路で感染していることが考えられた。また、マイクロアレイによって、ダイズの遺伝子の発現を調べたところ、III型分泌系による感染経路でも、根粒形成に必須と考えられているダイズ共生遺伝子の発現が上昇していることが確認された。

今後の展開:III型分泌系は、主に植物体に病気をもたらす病原菌が保有していることが知られている。病原菌はIII型分泌系を経由して、病原因子を植物体に打ち込んでいる。しかし、今回の研究成果により、共生菌である根粒菌はIII型分泌系を経由して、ダイズの根粒形成に至るプロセスのスイッチを入れていることが明らかとなった。今後、病原菌から共生菌へと進化に至る過程の解明へとつながると期待される。将来的には、イネや小麦などNodファクター受容機構のない非マメ科植物を根粒形成させる技術の開発に貢献すると期待される。

発表論文:Shin Okazaki,Takakazu Kaneko, Shusei Sato and Kazuhiko Saeki. Hijacking of leguminous nodulation signaling by the rhizobial type III secretion system. PNAS 2013 ; published ahead of print September 30, 2013, doi:10.1073/pnas.1302360110

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