安定かつ高効率な燃焼プロセスの確立に向けて―高温条件で灰粒子が付着する原因を解明―

安定かつ高効率な燃焼プロセスの確立に向けて
―高温条件で灰粒子が付着する原因を解明―

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の岡田洋平助教、神谷秀博教授、ならびに同大学院生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻の堀口元規(一貫制博士課程4年)らは、燃焼により生じた灰粒子が高温条件で付着する現象について、その原因を灰の化学組成の観点から明らかにしました。この成果により、幅広い性質の灰の付着性を予測し、適切な付着防止対策を講じることが可能となり、燃焼プロセスの高効率化を実現できます。

本研究成果は、アメリカ化学会ACS Sustainable Chemistry & Engineering誌(2月24日付)に掲載されるとともに、同誌のSupplementary Coverで取り上げられました。
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssuschemeng.0c08483

現状
 発電や廃棄物処理などを目的とした燃焼システムは、我々の生活を支える重要な技術であり、燃焼プラントの安定運転が求められます。また、エネルギー有効利用の観点から、燃焼により生じる熱エネルギーを高効率で回収することも重要です。ところが、燃料中の不燃分由来で発生する灰の粒子が、約600-1000°Cのプラント内部の壁面や伝熱面に付着し、プラントの安定運転やエネルギー回収を妨げ、プラントの運連停止など深刻な事態を招くおそれがあります。燃焼プラントの安定運転ならびに高効率エネルギー回収を実現するためには、灰粒子付着の原因を明確にした上で、適切な付着防止策を講じる必要があります。

研究体制
 本研究は、東京農工大学の堀口元規(大学院生物システム応用科学府一貫制博士課程4年)、別府優汰(大学院生物システム応用科学府博士前期課程2年) 、吉永健太郎(大学院生物システム応用科学府博士前期課程2年) 、神谷秀博(大学院工学研究院教授)、岡田洋平(大学院工学研究院助教)の研究チームで実施しました。

研究成果
 我々のグループでは、燃焼プラント内部のような高温条件において粒子の集合体である粉体層の引張力やせん断力(2021年3月11日プレスリリース済み)を測定できる手法を開発し、様々な燃料由来の灰の付着性を評価してきました。ところが、実際の灰は化学組成や物理特性(粒子のサイズや形)など付着性に関わるファクターが多く、付着機構の解析は困難でした。そこで、実験室レベルで「合成した」灰を用いて解析する戦略を用いました(図1A)。今回は、灰付着を誘発するおそれがあるナトリウム・カリウムと、多くの灰の主成分であるケイ素・アルミニウムの4成分にターゲットを絞り、これら成分と付着性の関係を調査しました。その結果、ナトリウムは少量存在するだけで高温条件での付着性増加を誘発すること、カリウムは少量では付着性増加を引き起こさず多量に存在することで付着性を増加させることが分かりました(図1B)。このようなナトリウムとカリウムの間の差異は、アルミニウムの存在により生じていることが明らかとなりました。酸化アルミニウムナノ粒子を添加してナトリウムまたはカリウムの比率を相対的に減らすことで、付着性を低減できることも明らかし、付着性増加抑制のための戦略を構築できました。以上より、ナトリウムまたはカリウムとアルミニウムの比が、高温条件での付着性を決める重要な要素であることが見出されました。論文誌を飾るSupplementary Cover(図2)において、プラント運転を支える白い歯車は付着性増加機構を解析するための鍵となったアルミニウムとシリカを含む粘土鉱物母材を、粉雪は付着性増加を抑制できる酸化アルミニウムナノ粒子を表現しています。

今後の展開
 合成した灰を用いることで、実際の灰の分析では困難であった「化学組成に基づく付着性増加機構の解析」を実現できました。今後は、ナトリウムやカリウム以外の成分についても同様の分析を実施して成分と付着性の関係性に関するデータベースを積み重ねていくことで、それを基に様々な燃料由来の灰の付着性を予測し、制御する手法の確立につながり、多様な燃料を効率よく燃焼可能となることが期待されます。

図1. (A) 実際の灰と比較した合成した灰の特徴と、(B) アルミニウムに対するナトリウムまたはカリウムの比率と、900°Cにおける粉体層強度(付着性)の関係。複数の合成した灰を作製し分析したことで、アルミニウムとナトリウムまたはカリウムのバランスが高温付着性を予測し、制御するための鍵になることを見出した。
図2. 論文誌のSupplementary Coverに採用されたグラフィック。燃焼プラントの運転が白い歯車(アルミニウムとケイ素を含む粘土鉱物)と粉雪(酸化アルミニウムナノ粒子)により支えられていることを表現。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
応用化学部門 助教
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-388-7068
E-mail:yokada@cc.tuat.ac.jp
 

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