セファラチン類の不斉全合成に成功:提唱する新規生合成経路を合成化学的に検証

セファラチン類の不斉全合成に成功:
提唱する新規生合成経路を合成化学的に検証

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の小田木 陽助教、長澤和夫教授、大学院工学府生命工学専攻の的羽泰世氏は、ハスノハカズラ属の植物が産生し、抗腫瘍活性や抗ウイルス活性などを有するハスバナンアルカロイドに属するセファラチン類の生合成経路を新たに提唱し、これに基づく合成経路により効率的なセファラチン類の不斉全合成に成功しました。本成果は、未だ解明されていないセファラチン類の生合成経路解明への第一歩になります。また本合成経路を基にした創薬開発への展開が期待されます。

本研究成果は、アメリカ化学会が発行するThe Journal Organic Chemistry誌の掲載に先立ち、web上で11月30日に掲載されました。
URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.joc.1c02371

現状
 ハスバナンアルカロイドは、主にハスノハカズラ属 (Stephania sp.) の植物から単離される天然物の一群です。当該化合物群は、ハスバノニン(1)やメタファニン(2)に代表されるように、共通してハスバナン骨格を有していることが一般的であり、ABC環上の官能基の種類や酸化度の違いにより、40種類を超える類縁体が知られています(図A)。その中の一部は、抗腫瘍活性や抗ウィルス活性など有用な生物活性を示すことから、1950年代にはじめて発見されて以来、全合成の標的として、また創薬リードとして、合成化学者や創薬化学者の注目を集め続けています。セファラチン類は、2011年に単離された比較的新しいハスバナンアルカロイドであり、官能基の違いによりAからDの4種類(3–6)が知られています。構造的特徴として、ハスバナンアルカロイドとして他に類を見ない特異なアザビシクロ[3.3.1]ノナン構造から成るC,D環部を有しています。これまでに、ハスバナンアルカロイドであるシノアクチン(7)からセファラチン類が生合成される経路が提案されています(図B)。すなわち、C9位アミン側鎖の脱離によりジエノン8が生成し、C8位エノールエーテル部位の水和及び生じたケトンとアミン側鎖とのヘミアミナールの形成により、セファラチンA(3)が得られるというものです。しかしながら、この提唱された生合成経路での8から3の変換には、希塩酸水溶液中、加熱還流という過酷な反応条件が必要であることが実験化学的に明らかとなり、より自然環境下に近い温和な反応条件下で進行する生合成反応の存在が示唆されていました。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の小田木陽助教、長澤和夫教授、大学院工学府生命工学専攻博士前期課程の的羽泰世氏らによって実施されました。また本研究は、JSPS科研費 基盤研究(B)17H3052、基盤研究(C)20K05488、新学術領域研究“中分子戦略”公募研究18H04387の助成を受けて実施されました。

研究成果
 本研究では、セファラチン類の特異なアザビシクロ[3.3.1]ノナン構造がアザビシクロ[4.3.0]ノナン構造を前駆体としたレトロ-アザマイケル反応とヘミアセタール形成を含むカスケード反応により生合成されると仮説を立て、これを実験化学的に検証しました(図C)。当該仮説に基づき、アザビシクロ[4.3.0]ノナン構造を有する仮定生合成前駆体13の合成に着手しました。まず、市販品より大量合成が可能なビスフェノール誘導体9に対する、C10位の立体化学を足がかりとしたジアステレオ選択的な酸化的フェノールカップリング反応(図C-①)を試みたところ、para位環化体10とortho位環化体11が1:1の生成比で得られることを見出しました。C13位に望む立体化学を有するortho位環化体11を用いて、還元的に臭素原子を除去した後、塩酸を作用させることでC5位選択的な分子内アザ-マイケル反応(図C-②)が進行し、アザビシクロ[4.3.0]ノナン構造を有する中間体12を得ました。得られた中間体12のC6位を水酸化した後、Boc基をMe基へと変換することで、仮定生合成前駆体13を合成しました。この仮定生合成前駆体13を用い、推定した生合成に基づき生合成模倣型カスケード反応を検討しました。その結果、無溶媒条件下、室温にて静置するだけという「非常に温和な条件下」で、望むカスケード反応が進行し、(–)-セファラチンA(3)が得られることを見出しました。すなわち、仮定生合成前駆体13のレトローアザマイケル反応によりエノール14が生じた後、ケト−エノール互変異性によりケトン15となり、ついでケトン15の生じたC6位カルボニル基とC13位アミン側鎖との間でヘミアミナールが形成することで、アザビシクロ[3.3.1]ノナン構造が構築されました。本結果は、セファラチン類の特徴的なC,D環部が、新たに提唱した生合成経路により構築されることを強く示唆します。また、既知の手法に則り、(–)-セファラチンA(3)から(–)-セファラチンC(5)が合成できることを確認しました。さらに、para位環化体10を用いることで、天然体の鏡像異性体である(+)-セファラチンB(4)及びD(6)の不斉全合成にも成功しました。

今後の展開
 本研究では、新たに提唱したセファラチン類に特徴的なアザビシクロ[3.3.1]ノナン構造構築に対する生合成経路を、化学的全合成により検証しました。アザビシクロ[3.3.1]ノナン構造は、セファラチン類のみならず、多数のアルカロイドに含まれる構造です。本成果は、それらアルカロイド類の生合成の解明に大きく寄与します。またセファラチン類は、抗腫瘍活性をはじめ多様な生物活性を有することから、これらをリード化合物とする新たな創薬研究への展開が期待されます。

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 助教
小田木 陽 (おだぎ みなみ)
TEL/FAX:042-388-7295
E-mail:odagi(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 教授
長澤 和夫 (ながさわ かずお)
TEL/FAX:042-388-7295
E-mail:knaga(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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