奄美群島の固有カエル、競争不在の徳之島で大型化!

奄美群島の固有カエル、競争不在の徳之島で大型化!

 

ポイント

  • 奄美群島の固有カエルについて、競争相手の有無で大きさ、食性が変わっていることを発見しました。
  • 奄美大島、徳之島に生息するアマミハナサキガエルは、より大型のオットンガエルとの競争がある奄美大島では小型に、競争のない徳之島では大型になっていました。
  • 島ごとに異なる競争関係により、アマミハナサキガエルが種分化の過程にある事が分かりました。これは、世界自然遺産候補地の奄美群島が、生物進化のプロセスを観察できる貴重な生態系である事を示しています。

 

本研究成果は、Zoological Science(10月1日付)の掲載に先立ち、Early View版がWebで公開されています。
掲載誌:Zoological Science
論文名:Ecological character displacement in non-congeneric frogs
    (異なる属のカエルでの生態的形質置換)
著者名:Hirotaka Komine, Yuya Watari, Koichi Kaji (小峰浩隆、亘悠哉、梶光一)
DOI:10.2108/zs190037
Web版: https://zdw.zoology.or.jp/EarlyView
Zoological Science: https://bioone.org/journals/zoological-science/scope-and-details  

概要
 東京農工大学の小峰浩隆特任助教と梶光一名誉教授、森林総合研究所の亘悠哉主任研究員は、世界で奄美大島と徳之島のみに生息する絶滅危惧種アマミハナサキガエル(以下ハナサキという)が、競争相手であるオットンガエル(以下オットンという)がいない徳之島では、競争相手がいる奄美大島と比べて体のサイズが大型化している事を明らかにしました。両島でのハナサキの食性の変化や餌となる節足動物相の類似性を踏まえると、発見したサイズの変化は、競争種の影響によって種が分化する過程(生態的形質置換 注*)であると考えられます。この結果は、世界自然遺産候補地である奄美群島が、今まさに種分化しつつあるその進化のプロセスを観察出来る貴重な生態系である事を示すものです。

研究背景
 これまでは、奄美大島と徳之島(図1)にハナサキが生息している事は知られていましたが、体のサイズの違いや、その生態的、進化的意味は検証された事がありませんでした。しかし、それぞれの島で種の構成が異なるため、同じハナサキという種でも、それぞれの生態系に合わせて形態や生態が変化している事が予想されました。本研究では、両島におけるハナサキの体サイズ、食性、餌資源の違いを検証しました。さらに、徳之島には生息しておらず、奄美大島には生息している、オットンが競争相手として考えられる事から、オットンの体サイズ、食性とも比較を行いました。

研究成果
 その結果、両島において餌となる節足動物相の類似性は高いにも関わらず、競争がない徳之島のハナサキは、競争のある奄美大島より体のサイズが大型であり(徳之島:体長中央値96.4 mm、奄美大島:体長中央値83.0mm:図2a)、それに合わせてより大型の餌を捕食している事が示されました(図2b)。さらに、徳之島のハナサキの食性は、同種である奄美大島のハナサキよりむしろ、異なる種であるオットンに近い事が示されました(図2b)。
 これらの結果は、ハナサキが競争相手のいる奄美大島、競争相手のいない徳之島というそれぞれの生態系を反映し、体サイズ、食性を変化させ、新たな種へ分化しつつある事を示しています(図3)。

今後の展開
  奄美大島と徳之島のハナサキの行動や形態、種間関係などをより詳細に調べることで、種分化の過程にどのような現象が見られるのかを解明できると期待できます。また、ハナサキの系統は奄美群島から東南アジアにかけての広い地域に分布しているため、それぞれの環境にどのように適応し、進化しているのかを研究することで、生態的な種分化の過程の解明に繋がる事が期待されます。
 さらに、ハナサキが生息する地域一帯は世界自然遺産の候補地になっていますが、今回の結果により、当該地域が進化のプロセスを観察出来る貴重な生態系である事が示された事となります。現在の生物多様性の保護だけではなく、将来にわたる進化の可能性を保護するためにも、奄美大島と徳之島をはじめとする地域の生態系を保全していく必要があると考えられます。

図1 奄美大島と徳之島の位置関係
図2 奄美大島と徳之島のハナサキの体長と競争種オットンの体長(a)。奄美大島と徳之島のハナサキの食べ物の重さと競争種オットンの食べ物の重さ(b)。徳之島のハナサキは競争がないので体サイズが大型であり、食べ物もより大きなものを食べていた。徳之島のハナサキの食べ物のサイズは同種である奄美大島のハナサキよりむしろ、異なる種である競争種オットンに近かった。
図3 ハナサキの分化の模式図。奄美大島のハナサキは競争を避けるために小型だが、徳之島のハナサキは競争がないので大型である事が分かりました。

注*生態的形質置換:他の種との競争によって形態、食性が分化するパターン及びプロセス。種分化の初期段階に見られる現象。

研究体制
 本研究は、国立大学法人東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の小峰浩隆特任助教、農学研究院の梶光一名誉教授、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の亘悠哉主任研究員らの研究グループによって行われました。本研究はJSPS科研費15J08743の助成を受けたものです。

本研究に関する画像(撮影:小峰浩隆)がZoological Science誌最新号の表紙(©日本動物学会)に採用されています。

◆研究に関する問い合わせ◆
国立大学法人 東京農工大学大学院
グローバルイノベーション研究院
小峰浩隆 特任助教
E-mail:komitorihiro(ここに@を入れてください)gmail.com


国立大学法人 東京農工大学
梶光一 名誉教授
TEL:042-367-5738
E-mail:kkaji(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

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