2015年1月15日 透過率の高い金属メタマテリアルを開発

透過率の高い金属メタマテリアルを開発
―フィン状の周期構造の巨大複屈折を利用―

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の岩見健太郎准教授と梅田倫弘教授、大学院生 石井美帆氏のグループは、細く高い金属ナノフィンの周期構造を製作することで、可視光の波長域で最大40%を超える高い透過率と、2分の1波長に迫る大きな位相差 (注1) 170°を合わせもつ金属メタマテリアル (注2) を実現しました。この成果は今後、超高速光通信や3Dプロジェクターへ応用されることが期待されます。


本成果は米国物理学協会発行のアプライド・フィジックス・レターズ誌1月15日号に掲載されました。
掲載誌: Applied Physics Letters(別リンクで開きます)
論文名:An Au nanofin array for high efficiency plasmonic optical retarders at visible wavelengths
著者名:Miho Ishii, Kentaro Iwami and Norihiro Umeda


(注1)位相差
製作したフィン状構造では、フィンに平行な方向に振動する光と、垂直な方向に振動する光との間で屈折率が異なるため、光の伝わり方が異なります。位相差とは、フィンを透過した後の光の状態がどれだけ変化したかに対応する量で、これが大きいほど、大きく光の波を変化させたことになります。
位相差が2分の1波長あると、ある特定の方向に振動している光(直線偏光)を入射した際に、その振動方向を任意の方向に変換できるという性質があります。
(注2)メタマテリアル
自然界には存在しない性質を備えた人工の物質。今回作成したフィン状構造は、フィンに平行な方向に振動する光に対しては空気中よりも屈折率が低くなり、垂直な方向に振動する光に対しては高くなるという性質があります。

現状:金属を光の波長程度(髪の毛の数100分の1)のサイズで平面的にパターニングした金属メタマテリアル(メタサーフェス)は、超小型な光学素子を製作できることから、様々な分野での応用が期待されています。しかしながら、金属メタサーフェスを光が透過する際の損失が大きく、透過率が低いという問題点があり、大きな複屈折と高い透過率を両立することが困難でした。また、使用する光の波長と同程度の加工寸法を要するため、波長の長い赤外光における研究が多い割に、波長の短い可視光における研究が少ないことが現状でした。岩見准教授らはこれまで、電子線描画と金属蒸着を組み合わせた手法で、金属の周期細線を並べた格子構造を用いて、可視光で動作する金属メタサーフェスの偏光変換素子を製作してきましたが、透過率は3%程度と少ないことが従来法の問題でした。世界的にも、位相差が本手法の半分の4分の1波長板において透過率50%という例はあるものの(2分の1波長板になると25%相当),金属メタサーフェスで2分の1波長板を実現した例はありませんでした。

研究体制:本研究は、大学院工学府機械システム工学専攻の大学院生石井美帆氏、岩見健太郎准教授、梅田倫弘教授らによる研究です。

研究成果:従来透過率が低かった原因は、透過面内で金属の占める面積が大きいため、光が反射・吸収される割合が大きくなってしまうことが主な原因でした。本研究では、格子構造を形成する金属の細線1本1本を、細く高いフィン状構造として、面内で金属の占める面積を減らすことで、透過率を向上させることを目指しました。しかし、一般的に、このようなフィン状の構造をナノスケールで形成することは非常に難しいものです。本研究では、ナノコーティング法とよばれる製作方法(図1)を採用することで、フィン状構造体(図2)の製作に成功しました。製作した構造の透過率および複屈折位相差を測定したところ、透過率に関しては、可視光の広い帯域で、40%~60%の高い値を得ることができました。(図3)また、位相差についても、波長633nmで170°と、2分の1波長(180°)に迫る大きな位相差を得ることができました。このように、高い透過率と大きな位相差を両立させることができました。

今後の展開:本研究の成果を応用することで、超高速光通信のための光制御素子や、3D動画プロジェクターのための空間光変調器へ応用されることが期待されます。将来的には、透明マントなどの光メタマテリアル研究の発展に貢献すると思われます。

図1 ナノコーティング法による製作プロセス
※(1)→(2)→(3)の順で、(6)までの工程を経て完成。

図2 フィン構造の電子顕微鏡像

図3 構造の透過性

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