2014年2月7日 福島水田除染作業によるセシウム蓄積軽減

水田の表土剥ぎによる除染作業でおたまじゃくしへの放射性セシウムの蓄積が軽減

国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院国際環境農学部門の境優 特任助教と五味高志 准教授は、北海道大学大学院農学研究院の布川雅典 博士研究員と筑波大学生命環境系の恩田裕一 教授と共同研究を行い、福島県川俣町の除染水田における除染1年後のおたまじゃくしへの放射性セシウム蓄積量の評価を行った。その結果、除染を行った水田におけるおたまじゃくしは、除染を行っていない水田のおたまじゃくしと比較して、放射性セシウム量は5分の1の蓄積量まで低下していた。本研究は、除染事業が生態系での生物への放射性物質蓄積へもたらす効果を評価した先駆的な事例である。

現状:福島県の水田では、福島第一原発事故による放射能汚染への対策として、表土剥ぎなどの除染事業が進行している。各地の除染水田では、除染事業の効果を検証するため、稲への放射性セシウムの蓄積が調査されている。しかし、水田は、農業生産の場としてだけではなく、自然湿地の代替地として多様な生物を擁する重要な場でもある。したがって、水田の放射能汚染の影響や、除染作業の効果については、稲以外の生物についてもモニタリングする必要がある。そこで、福島県川俣町の除染水田と無処理水田においてトウキョウダルマガエルのおたまじゃくしと、水田土壌への放射性セシウムの蓄積について調査を行った。

研究体制:筑波大学チームによって調査地の除染作業および除染直後の土壌が採取された。東京農工大学・北海道大学チームは、除染1年後に土壌とおたまじゃくしの採取を行った。調査地は筑波大学が中心となり除染水田のモニタリングが行われている。東京農工大学・北海道大学において、生物や土壌サンプルの放射性セシウム濃度などの分析を行い、得られたデータの解析と論文発表を行った。

研究成果:除染1年後において、乾燥重量でのおたまじゃくしのセシウム134、セシウム137濃度は、それぞれ、除染水田で600、890Bq/kg、無処理水田で3000、4500Bq/kgであった。また、除染を行った水田のおたまじゃくしと表層土壌(深さ0~5cm)の放射性セシウム濃度(セシウム134とセシウム137の濃度の合計)は、いずれも無処理水田と比べて約5分の1の濃度であった。このことから、除染作業による放射性セシウムの減少は、水田の土壌とおたまじゃくしに同様の効果をもたらすことがわかった。
しかしその一方で、除染水田における表層土壌の放射性セシウム濃度は、除染直後と比べて1年後では、3.8倍になっていることもわかった。


今後の展開:除染作業は、水田に生息するおたまじゃくしでも、土壌と同様にセシウムの蓄積量を減らす効果があることがわかった。一方で、水田土壌中の放射性セシウムは、除染後増加していることも判明した。これらは除染されていない周辺の山林から、風や水路の流れを通して汚染物質が水田へと流入することが原因であると推察された。効果的な除染事業を行う上で、未除染地域からどのように汚染物質が流入するのかをモニタリングすることが、水田土壌の再汚染、さらには水田生物の再汚染を評価するために重要である。

掲載論文について
本研究成果は、1月27日付でEnvironmental Pollution誌(別リンクで開きます)に掲載されました。

論文名:「Soil removal as a decontamination practice and radiocesium accumulation in tadpoles in rice paddies at Fukushima」
雑誌名:Environmental Pollution Volume 187, April 2014, Pages 112–115
著 者:Masaru Sakai , Takashi Gomi , Masanori Nunokawa , Taeko Wakahara , Yuichi Onda

※ 本研究は、環境省環境研究総合推進費ZD1202「上流域水系ネットワークにおける森林-渓流生態系の放射性物質移動と生物濃縮の評価」および平成24年度科学技術戦略推進費「重要政策課題への機動的対応の推進」プログラム:放射性物質の分布状況等に関する調査研究により実施されました。

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