室温で高速・高感度な広帯域テラヘルツセンサの開発に成功 ~シリコン素材による、低コストでCMOS互換な次世代テラヘルツセンシング技術~
室温で高速・高感度な広帯域テラヘルツセンサの開発に成功
~シリコン素材による、低コストでCMOS互換な次世代テラヘルツセンシング技術~
国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の張亜准教授、平川一彦客員教授、工学府電子情報工学専攻博士前期課程の江端一貴氏、飯森未来氏、竹内遼太郎氏、博士後期課程の劉千氏、趙子豪氏、中国科学院上海マイクロシステム情報技術研究所の黎華教授、兵庫県立大学の前中一介教授らの共同研究チームは、シリコン素材を用いて室温動作可能であり高速・高感度で広帯域検出可能なテラヘルツMEMSボロメータの開発に成功しました。本成果により、低コストで大量生産が可能で、CMOS回路との集積も容易な次世代テラヘルツイメージングや分光技術の実用化が大きく前進すると期待されます。
本研究成果は、Microsystems & Nanoengineering(7月7日付)に掲載されました。
論文タイトル:Uncooled, broadband terahertz bolometers using SOI MEMS beam resonators with piezoresistive readout
URL:https://www.nature.com/articles/s41378-025-00996-2
■本研究成果に基づき取得した特許
特許第7619708号「光センサ、光検出装置、及びテラヘルツ・赤外フーリエ分光器」
現状
テラヘルツ(THz)波は、電波と光波の中間に位置する特殊な電磁波で、非破壊検査や空港での安全検査、がんなどの疾病診断、次世代の超高速通信など、幅広い分野で利用が期待されています。また、近年では、実験室での使用から、生産現場や医療応用などでのオンサイト計測を可能とする小型ポータブルなTHz測定器への展開も急速に進んでいます。このようなTHz計測技術の社会実装を進めていくためには、極低温冷却を必要としない高感度・高速のTHz検出器(センサ)の開発が不可欠です。
しかし、従来の量子型THz検出器は通常、室温での動作が困難です。ショットキー・バリア・ダイオードなどを用いて室温で動作可能な整流型THz検出器では、その動作周波数が1.5THz以下の低周波帯に限られています。室温動作が可能な広帯域赤外検出器として、焦電素子や酸化バナジウムボロメータが用いられてきましたが、これらのセンサは、検出の速度が最大でも数Hzから数十Hzにとどまり、高速なTHz検出には適していません。
研究体制
本研究は、国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の張亜准教授、平川一彦客員教授(東京大学名誉教授)、工学府電子情報工学専攻博士前期課程の江端一貴氏、飯森未来氏、竹内遼太郎氏、博士後期課程の劉千氏、趙子豪氏、中国科学院上海マイクロシステム情報技術研究所の黎華教授、兵庫県立大学の前中一介教授によって実施されました。本研究の一部は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)A-STEP 産学共同(JPMJTR23R2)、日本学術振興会科学研究費補助金(21K04151, 24K00937)、双葉電子記念財団自然科学研究助成の助成を受けて実施されました。
研究成果
光子エネルギーが非常に小さいTHz・赤外領域では、検出器において光を一旦熱に変換し、その温度上昇による抵抗の変化などを信号として用いるボロメータ技術が有効です。本研究では、SOI(Silicon On Insulator、絶縁体上のシリコン)で作製された、微小電気機械システム(MEMS)共振器を用いた室温動作・高感度・高速・広帯域THz検出器の開発に成功しました(図1)。MEMS梁に入射されたTHzを熱に変換し、MEMS共振器の機械的共振周波数シフトとして検出します。一般に固体の抵抗や誘電率などの物理量は、低温ではわずかな温度変化でも大きく変化しますが、室温での変化は非常に小さいです。それに対して、機械的な共振は室温付近でも熱膨張の効果により、温度変化に対して直線的に応答します。この特性を利用することで、開発したSOI MEMS検出器は、ノイズ等価電力NEPが約36 pW/√Hzの高感度、熱応答時間約88マイクロ秒の高速応答を実現しました。このことは、従来から広く赤外検出器として用いられてきた焦電検出器の約100~1,000倍の応答速度が得られ、高速なTHz・赤外計測に適しています(図2)。さらに、1~10 THzの広い周波数帯で平坦な感度スペクトルを示し、近赤外領域までの拡張も可能であることから、分光など広帯域計測への応用にも適しています。
今後の展開
今後は、このSOI MEMS検出器の実用化に向けて、実際の応用環境での性能検証を進めます。また、大規模な検出器アレイとしての実用化を目指します。さらに、ナノスケールへの小型化により感度と速度を飛躍的に向上させることで、究極的な検出感度の実現を目指します。


◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
先端電気電子部門 准教授
張 亜(ちゃん や)
TEL/FAX:042-388-7663
E-mail:zhangya(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
- 東京農工大学 張亜准教授 研究者プロフィール
- 東京農工大学 張亜准教授 研究室WEBサイト
- 張亜准教授が所属する 東京農工大学工学部知能情報システム工学科