森の掃除屋さん~シカの死体に群がる動物たち~

森の掃除屋さん
~シカの死体に群がる動物たち~

ポイント

  • タヌキやツキノワグマをはじめとする様々な動物がシカの死体を食べ物として利用していた。
  • 哺乳類によるシカの死体の採食は鳥類より多く観察され、季節で利用状況が異なる種もいた。
  • 森林生態系では様々な脊椎動物が大型動物の死体の除去に重要な役割を果たしている。
  • 全国的なシカの増加は生態系の仕組みやこれらの動物の生態に影響を与える可能性がある。

本研究成果は、米国の生態学誌「Ecology and Evolution(略称:Ecol Evol)」オンライン版(1月21日付)に掲載されました。

論文名:Vertebrate scavenger guild composition and utilization of carrion in an East Asian temperate forest
著者名:Akino Inagaki, Maximilian L. Allen, Tetsuya Maruyama, Koji Yamazaki, Kahoko Tochigi, Tomoko Naganuma, Shinsuke Koike
URL:https://doi.org/10.1002/ece3.5976

概要
 国立大学法人東京農工大学大学院農学府自然環境保全学専攻の稲垣亜季乃大学院生(修士課程、当時)、農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介准教授、イリノイ大学Maximilian L Allen准教授、東京農業大学地域環境科学部森林総合科学科の山﨑晃司教授らの国際共同研究チームは、ニホンジカ(以下、シカ)の死体は、様々な種類の脊椎動物によって食べられることで消失していくことを明らかにしました。この結果から、日本の森林において、タヌキやツキノワグマ(以下、クマ)などは死体を分解する、という重要な役割を担っているという新しい知見が得られました。

研究背景
 動物の死体は捕獲などのコストをかけずに得ることが出来る高栄養な食物資源であるため、様々な動物(以下、スカベンジャー:注1)が死体を食物として利用します。死肉を食べることをスカベンジング(注1)と言い、生態系の維持や物質循環の上で重要な役割を担っています。ところが、ハゲワシなどのスカベンジングに特化した動物がいない日本などでは、どのように大型動物の死体が消失するのかはよくわかっていません。一方で、近年の日本ではシカやイノシシなどの大型動物の数が急激に増加しています。

研究成果
 本研究では、日本における大型動物死体のスカベンジャーになりうる動物種の把握と、それらの動物による死体の利用状況を調べました。2016年から2017年にかけて栃木県内の森林において、死後直後のシカ死体42個体を設置し、自動撮影カメラ(注2)を用いることで、死体の消失過程を記録しました。得られた撮影記録から、シカ死体を食べた脊椎動物種を特定するとともに、シカ死体への訪問の頻度、シカ死体に訪問したうち、実際にスカベンジングを行った訪問の頻度、スカベンジングを行っていた時間を算出しました。また、それらの季節(夏:6~8月、秋:9~11月)による違いも検証しました。
 映像からは、クマ、イノシシ、タヌキ、キツネ、ハクビシン、テンの哺乳類6種、そしてクマタカ、トビ、ハシブトガラスの鳥類3種、合計9種がシカ死体のスカベンジングを行っていることが明らかになりました(図1)。
 また、スカベンジングは、哺乳類の方が鳥類よりも多く観察され、特にタヌキとクマが最も頻繁にシカ死体に訪れ、スカベンジングを行っていました(図2)。また、いくつかの種ではスカベンジングの状況が季節によって異なりました(図2)。例えば、クマは夏から秋にかけてシカのスカベンジングが減少しており、冬眠に備えて大量のエネルギーを効率よく摂取する必要がある秋には、脂肪分が高く、まとまって実るドングリを優先して食べていると考えられます。このように、動物によっては、他の食べ物の存在がスカベンジングに影響を与えている可能性が考えられます。

今後の展望
 本結果より、ハゲワシのようにスカベンジングに特化した生き物が存在しない地域では、様々な脊椎動物がスカベンジャーとして大型動物の死体を分解するという重要な役割を果たすことで、物質循環などを通じて生態系が健全な状態であり続けることに貢献していることが明らかになりました。
 一方で、近年の日本ではシカの急激な増加による植生の改変などの生態系への影響が大きな問題となっています。本結果で様々な動物がシカ死体のスカベンジングを行っていたことから、シカの急激な増加はこれらの動物の本来の生態を変えてしまう可能性があります。シカの管理を行う上では、他の動物種の保護管理と彼らの生息地である森林の管理を同時に考えていく必要があることを強く示唆しています。
 なお、本研究はJSPS科研費 JP16H04932、JP16H02555、JP17H00797、JP17H05971、「平成30年度乾太助記念動物科学研究助成基金」、東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の助成を受けたものです。

用語説明
注1)動物の死肉を食物資源として採食する動物のこと。腐肉食動物とも言う。死肉を食べる行動そのものをスカベンジングと言う。
注2)カメラの前に現れた動物の体温を感知して、自動的に撮影を行うことが出来るカメラ。

図1.シカの死体の採食(スカベンジング)を行うツキノワグマ(左:a)とタヌキ(右:b)。
図2.各動物種のシカ死体の食物としての利用状況。左の図の青色は夏、オレンジ色は秋に各動物種がシカ死体に訪れた頻度(%)を表す。設置したシカ死体数に対して、各動物が訪れた死体数を百分率で示した。さらに、濃い色は、シカ死体に訪れたうちで、シカ死体の採食(スカベンジング)を行った訪問の頻度(%)を表す。アスタリスク(*)は、夏と秋とでスカベンジングの頻度に有意な違いがみられた動物種を示す(p < 0.05)。右図は、シカ死体への1回訪問当たりの平均推定採食時間とその95%信頼区間。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院
自然環境保全学部門 准教授
小池 伸介(こいけ しんすけ)
E-mail:koikes(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

学校法人東京農業大学 戦略室
矢木 伸平(やぎ しんぺい)
堀 詩以奈(ほり しいな)
TEL:03-5477-2300
E-mail:koho(ここに@を入れてください)nodai.ac.jp

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