〔2016年4月11日リリース〕金属ナノ板列をガラス中に埋め込むことにより偏光素子の高効率化を実現

金属ナノ板列をガラス中に埋め込むことにより偏光素子の高効率化を実現
―メタマテリアルの実用化に貢献―


東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の岩見健太郎准教授と梅田倫弘教授、大学院生 石井美帆氏のグループは、細く高い金属ナノフィンの周期構造をガラス中に埋め込むことで、可視光の広い波長域にわたって50%を超える高い透過率と、2分の1波長に迫る大きな位相差(注1)165°を合わせもつ金属メタマテリアル(注2)を実現しました。この成果は今後、超高速光通信や3Dプロジェクター、さらには将来の透明マント実現のための高効率メタマテリアルへ応用されることが期待されます。

本研究成果は、米国光学会のオープンアクセスジャーナルであるオプティクス・エクスプレス4月18日号に掲載されます。 (オンライン掲載時期:2016年4月6日)
掲載誌: Optics Express Vol. 24, Issue 8, pp. 7966-7976 (2016)
論文名:Highly-efficient and angle-independent zero-order half waveplate at broad visible wavelength based on Au nanofin array embedded in dielectric
著者名:Miho Ishii, Kentaro Iwami and Norihiro Umeda
論文URL: https://www.osapublishing.org/oe/abstract.cfm?uri=oe-24-8-7966

現状:自然界の物質では実現不可能な光学特性をもつ人工物質(メタマテリアル)が注目されています。メタマテリアルは光の波長程度(髪の毛の数100分の1)のサイズに加工された物質からなります。このうち金属を平面的にパターニングした金属メタマテリアル(金属メタサーフェス)は、超小型な光学素子を製作できることから、様々な分野での応用が期待されています。具体的な光学特性としては、負の屈折率や巨大な複屈折性・旋光性が挙げられます。しかしながら、金属メタサーフェスを光が透過する際の損失が大きく、透過率が低いという問題点があり、大きな複屈折と高い透過率を両立することが困難でした。また、使用する光の波長と同程度の加工寸法を要するため、波長の長い赤外光における研究が多い割に、波長の短い可視光における研究が少ないことが現状です。岩見准教授らはこれまで、電子線描画と金属蒸着を組み合わせた手法で、金属細線を周期的に並べた格子構造によって、可視光で動作する金属メタサーフェスの偏光変換素子を製作してきましたが、透過率は3%程度と少ないことが問題でした。世界的にも、位相差が本手法の半分の4分の1波長板において透過率50%という例はあるものの(2分の1波長板になると25%相当)、金属メタサーフェスで2分の1波長板を実現した例はありませんでした。岩見准教授らは従来の平面的なメタサーフェスに替えて、立体的な構造であるフィン状構造体を製作し、大きな複屈折位相差と高い透過率を両立させることができました。しかしながら、位相差が特定の波長でしか測定できなかったことと、光の偏光方向によっては透過率が低下してしまうこと、また機械的な強度が低く壊れやすいことが問題でした。

研究体制:本研究は、大学院工学府機械システム工学専攻の大学院生石井美帆氏、大学院工学研究院先端機械システム部門の岩見健太郎准教授、梅田倫弘教授らによる研究です。

研究成果:これらの問題を解決するため、フィンをガラス中に埋め込むことを考えました (図1)。図2のような方法で実際に製作に成功し、図3のような断面形状を持つ構造体が制作できました。埋め込みによって図4に示すように構造体の透過率が広い波長帯域にわたって向上しました。また、理論的な設計手法を確立し、広い波長帯域で図5のようにほぼ一定の複屈折位相差を実現しました。さらに埋め込みによって機械的な強度が向上し、ピンセットで触ったり、拭いたりしても壊れない堅牢な素子を作ることができました。これらの成果はメタマテリアル素子の実用化に向けた課題を解決するものと言えます。

今後の展開:本研究の成果を応用することで、超高速光通信のための光制御素子や、3D動画プロジェクターのための空間光変調器へ応用されることが期待されます。将来的には、透明マントなどの光メタマテリアル研究の発展に貢献すると思われます。

用語説明
(注1)位相差
製作したフィン状構造では、フィンに平行な方向に振動する光と、垂直な方向に振動する光との間で屈折率が異なるため、光の伝わり方が異なります。位相差とは、フィンを透過した後の光の状態がどれだけ変化したかに対応する量で、これが大きいほど、大きく光の波を変化させたことになります。
位相差が2分の1波長あると、ある特定の方向に振動している光(直線偏光)を入射した際に、その振動方向を任意の方向に変換できるという性質があります。
(注2)メタマテリアル
自然界には存在しない性質を備えた人工の物質。今回作成したフィン状構造は、フィンに平行な方向に振動する光に対しては空気中よりも屈折率が低くなり、垂直な方向に振動する光に対しては高くなるという性質があります。

図1 (a) 従来の構造 (b)今回製作した構造

図2 ナノコーティング法による製作プロセス
※ (1)→(2)→(3)の順で、(6)までの工程を経て完成する。

図3 埋め込まれたフィン構造の
断面電子顕微鏡像

図4 構造の透過率

図5 構造の位相差

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