2014年8月12日 スギ花粉のアレルゲンを認識するDNAアプタマーを開発

スギ花粉アレルゲンに対する新規分子認識素子を開発
~新たなスギ花粉検出技術への応用に期待~


国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の池袋一典教授は株式会社ディーエイチシーの荻原和真研究員と共同で、主要スギ花粉アレルゲンの一つであるCry j 2に対する分子認識素子を開発しました。分子認識素子の素材には、化学合成が可能で、温度に対して安定であるDNAアプタマーを用いました。DNAアプタマーの特長から、本研究で得られたCry j 2認識DNAアプタマーは日常生活における様々な環境でのCry j 2の検出に適していると考えられ、スギ花粉アレルゲンを効率良く回避するための新たなスギ花粉症対策ツールとして応用が期待されます。概要は以下の通りです。

本研究成果は、Biosensors and Bioelectronics(電子版7月19日付)に掲載されました。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0956566314005314#
論文名: DNA aptamers against the Cry j 2 allergen of Japanese cedar pollen for biosensing applications.
著 者: Ogihara, K. Savory, N. Abe, K. Yoshida, W. Asahi, M. Kamohara, S. and Ikebukuro K.

現状: スギ花粉症は日本において国民病とも言えるアレルギー疾患であり、原因物質の一つとしてスギ花粉に含まれるCry j 2というアレルゲンが知られています。スギ花粉症対策ではメガネやマスクの着用が一般的ですが、身の回りのアレルゲンの存在を知ることが可能となれば、アレルゲンを効率良く回避することができると考えられます。共同研究グループは、スギ花粉アレルゲンCry j 2を認識する素材としてDNAアプタマー (※) に着目しました。

(※)DNAアプタマーとは、標的分子に対して特異的に結合するDNA断片のことで、抗体に替わる分子として
注目されています。

研究体制: 本研究は東京農工大学 池袋一典教授と株式会社ディーエイチシー 荻原和真研究員が共同で実施しました。

研究成果: 本研究では、スギ花粉アレルゲンCry j 2を認識するDNAアプタマーを開発しました。本研究で得られたDNAアプタマーを使ってスギ花粉の染色を行ったところ、抗体を使った場合と同様の染色像を得ることができました (図1)。この結果は、DNAアプタマーがスギ花粉中のCry j 2を認識したことを示しています。また、特異的結合能が最も高いDNAアプタマーのCry j 2への親和性は一般的な抗体の標的分子への親和性に匹敵することがわかりました。さらに、屋内のホコリに対して行ったCry j 2の添加実験により、DNAアプタマーを使ってホコリ中のCry j 2が検出できることを確認しました (図2)

今後の展開: 本研究で得られたスギ花粉アレルゲンCry j 2に結合するDNAアプタマーは、家庭で使用可能な簡便な検出デバイスと組み合せることで、身近に存在するCry j 2の検出につながると期待されます。池袋一典教授のグループはDNAアプタマーの標的分子に対する結合能や特異性をコンピューター内で進化させる独自技術を有しているため、今後、検出方法などに応じたアプタマーの改良を進めることで、実使用に向けたセンサーの開発を目指します。

図1. アプタマーを用いた破裂スギ花粉の染色

図2. ホコリ抽出物からのCry j 2 の検出



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