2013年10月28日 グアニン四重鎖構造を超高速かつ大量に検出する手法を開発

グアニン四重鎖構造を超高速かつ大量に検出する手法を開発

グアニン四重鎖蛍光プローブとマイクロアレイによるグアニン四重鎖の検出

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の長澤和夫教授、池袋一典教授および国立成育医療研究センターの秦健一郎部長、中林一彦室長、サントリー生命科学財団 寺正行博士の研究グループは、DNA中の特殊な高次構造であるグアニン四重鎖構造を、グアニン四重鎖と選択的に結合する蛍光プローブ分子およびDNAマイクロアレイを用いることで、迅速かつ大量に検出する手法を開発した。DNA中のグアニン四重鎖は、生命現象を担う新しい鍵構造として注目されているが、これまでごくわずかの領域でしかその存在が知られていなかった。今後この成果により、グアニン四重鎖に基づく生命現象の解明および難治性疾患に対する創薬研究への発展が期待される。

現状:染色体に存在するDNAは、私たち生命の全ての遺伝情報(ゲノム)を含んでいます。このゲノムをもとに、RNAが合成され(=転写)、タンパク質が合成(=翻訳)されることで、細胞一つ一つが必要とする要素を作り上げています。しかし、ヒトゲノムの解読(塩基配列解析)が完了した今でも、ゲノム中の大部分の領域での機能は不明なままです。
ところでDNAは通常二重らせんを形成していますが、最近グアニン四重鎖と呼ばれるDNAの特殊な構造が発見され(テロメア、c−mycプロモーター、c−kitプロモーターなど10数種類)、これが転写や翻訳を制御することで、様々な生命現象を担っていることがわかってきました。またこのグアニン四重鎖は、ヒトゲノムの様々な領域に存在することが最近の計算科学(バイオインフォマティクス研究)により示唆され、ますますグアニン四重鎖構造群の多様な生命現象への関与に注目が集まっています。ところが従来のグアニン四重鎖構造は偶然または経験的な予想により発見されたものであり、これまで実験的に新たなグアニン四重鎖を見つける手法がありませんでした。従って新しいグアニン四重鎖の機能研究の推進も非常に困難な状況でした。

研究体制:長澤和夫教授、池袋一典教授(東京農工大学大学院工学研究院)。秦健一郎部長、中林一彦室長(国立成育医療研究センター)。寺正行博士(サントリー生命科学財団)。

研究成果:グアニン四重鎖は、グアニン塩基を豊富に含むDNAからなる特殊な三次元構造です。長澤和夫教授の研究グループではこれまでに天然有機化合物であるテロメスタチンの化学構造をもとに、グアニン四重鎖に特異的に結合する分子として大環状ポリオキサゾール系分子(OTD)を開発してきました。今回研究チームは、グアニン四重鎖を可視化するために、OTDに蛍光物質を連結した化合物(蛍光プローブ)を合成しました。この蛍光プローブはグアニン四重鎖だけを選択的に可視化する理想的な特性を有していました(二重らせんを含む他のDNA構造は可視化しません)。そこでこの蛍光プローブを、DNAマイクロアレイと呼ばれる多くの種類のDNAが固定化された基板上に作用させたところ、約90,000種類のDNA配列中から、約2,000種類もの大量の新規グアニン四重鎖を可視化し、検出することができました(下図)。なおこの検出に要する時間はわずか3~4時間です。
これら新たに発見されたグアニン四重鎖の中には、転写、代謝、発生、ガン関連疾患等、重要な生命現象に関わることが知られている領域が多数含まれていました。さらに検出されたグアニン四重鎖は計算科学によりその形成が予測されていたものの他に、予測されていなかった配列も数多く含まれていることがわかりました。

今後の展開:今回開発した手法で、高速かつ大量に新規グアニン四重鎖を見いだすことに成功しました。本手法を応用することで、ゲノム中のグアニン四重鎖を全て同定することが可能です。また今回見いだされたグアニン四重鎖群の多くは、基礎的な生命現象やガンなどの疾患に関連していることから、グアニン四重鎖を介した生命現象の解明および難治性疾患に対する創薬研究に大きく貢献することが期待されます。
なおこの研究は、東京農工大学の学長裁量による経費補助を受けた重点研究の結果を一部に活用しています。

発表論文
Keisuke Iida, Takahiro Nakamura, Dr. Wataru Yoshida, Dr. Masayuki Tera, Dr. Kazuhiko Nakabayashi, Dr. Kenichiro Hata, Kazunori Ikebukuro and Kazuo Nagasawa
Fluorescent-Ligand-Mediated Screening of G-Quadruplex Structures Using a DNA Microarray
Angewandte Chemie International Edition
Article first published online: 21 OCT 2013 | DOI: 10.1002/anie.201305366

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