二酸化炭素を原料とするイオン伝導性高分子材料~安全な固体リチウム二次電池開発に貢献~

二酸化炭素を原料とするイオン伝導性高分子材料~安全な固体リチウム二次電池開発に貢献~

 

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門の富永洋一准教授と同大学院博士後期課程在籍の木村謙斗氏らの研究グループは、二酸化炭素(CO2)を原料とする高分子(ポリマー)材料の一種であるポリエチレンカーボネートとリチウム(Li)塩の複合体から成る固体高分子電解質が示す特異的イオン伝導挙動のメカニズムを解明し、その特性から高電圧リチウム二次電池用電解質として応用可能であることを見出しました。固体高分子電解質を用いた二次電池(蓄電池)は、引火・爆発の危険性が高い可燃性電解液を含まないため従来のものより本質的に安全性が高く、特に近年急速に普及している電気自動車や、家庭用大型蓄電源などへの応用が期待されます。本研究成果は、安全な次世代二次電池開発の進展、および二酸化炭素の機能性材料用原料としての有効利用の両側面から、持続可能なエネルギー社会の構築に貢献すると期待されます。

図1 二酸化炭素を原料とする高分子(ポリマー)材料を安全な固体二次電池用電解質として応用

本研究成果は、高分子学会広報委員会が選定するパブリシティ賞を受賞し、同会よりプレスリリースされました。また、2017年9月20日(水)~22日(金)に愛媛大学城北キャンパスで開催された第66回高分子討論会にて発表されました。
発表題目:濃厚系ポリカーボネート電解質の高リチウムイオン伝導メカニズムと優れた電気化学特性

現状
極性高分子(注1)と金属塩を複合化すると、塩が陽イオンと陰イオンに分離し、固体でありながらイオン伝導性を示す場合があります。これを固体高分子電解質と呼び、安全な二次電池(注2)用イオン伝導体として期待されています。これまで極性高分子としてポリエーテルを用いたものが広く研究されてきましたが、イオン伝導度や電極材料との適合性が低く、新たな材料設計戦略が必要となっていました。
ポリエチレンカーボネート(PEC)は、重量の約半分が二酸化炭素由来である高分子(ポリマー)材料(注3)の一種です。これまでの研究で、このPECを高分子マトリックスとする電解質が、従来系(ポリエーテル電解質など)と比べ高い塩溶解能や高リチウムイオン伝導度など、優れた特性を示すことがわかっていました。しかしそのメカニズムは不明でした。

研究体制
本研究は、東京農工大学大学院工学研究院応用化学部門・グローバルイノベーション研究院の富永洋一准教授と同大学院生物システム応用科学府博士後期課程・日本学術振興会(JSPS)特別研究員の木村謙斗氏らにより行われました。また本研究は、JSPS科研費(25288095、16H04199、16J04407)、およびJST先端的低炭素化技術開発-次世代蓄電池(ALCA-SPRING)の助成により行われました。

研究成果
本研究では、分光学的手法によりイオン伝導メカニズムの解析を行いました。その結果、イオンは従来系とは異なり凝集状態で存在しており、その構造が特異的な性質に寄与していることが分かりました。さらに、得られた知見に基づき、高塩濃度の電解質ではイオンが凝集した状態で存在することにより、高耐酸化性やリチウム二次電池の正極用集電体(注4,5)として用いられるアルミニウムの腐食抑制効果など、優れた特性を示すことを見出しました。本成果は、2017年9月20日に第66回高分子討論会にて発表されたほか、本研究内容の一部は、米国化学会発行の学術誌The Journal of Physical Chemistry C (http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.jpcc.6b03277) に掲載されています。

今後の展開
本研究成果から、PEC電解質は高い作動電圧を有する正極材料との適合性に優れると期待されます。実際に、ポリエーテルなどの従来系では難しかった、4 V以上の電圧で作動するマンガン酸リチウム(LiMn2O4)などを正極として用いたリチウム二次電池との適合性が高いことが、予備的な実験により分かっています。さらに、固体高分子電解質の高性能化のためには塩濃度を低く設定し塩を良く解離させることが望ましいとする、これまでの学説を覆すものであり、これまで研究対象とされてこなかった高分子の利用など、新たな材料設計の可能性を拓くものであると考えられます。本成果を反映し、引火や爆発の危険性が低く安全で高性能な固体二次電池が実現すれば、電気自動車のさらなる普及や再生可能エネルギーの有効利用にも貢献し、持続可能なエネルギー社会の構築につながると期待されます。

注1) 極性高分子
いくつもの原子が鎖状に長くつながってできた分子量の大きな分子のことを高分子(ポリマー)という。通常分子鎖同士の絡み合いにより柔軟性のある固体状やガラス状となり、プラスチック材料の原料として用いられる。中でも、エーテル基やカーボネート基などイオンに配位する能力を有する官能基を含むものは極性高分子という。
注2) 二次電池
充電可能で繰り返し使える電池。蓄電池ともいう。リチウムイオン二次電池やニッケル-水素電池、鉛蓄電池などに分類される。電子を回路に流し電流を発生させるための化学反応を生じさせる電極(負極、および正極)と、その際に生じたイオンを伝導させ電極中の電荷を一定に保つための電解質から構成される。リチウムイオン二次電池では、電解質として揮発性・引火性の有機電解液が用いられていることが安全性上の懸念を生じさせている。
注3) 二酸化炭素/エポキシド共重合体
高圧の二酸化炭素をエポキシド(環状エーテルの一種)と反応させると、共重合(複数の物質が反応し高分子となること)を起こし、ポリカーボネートと呼ばれる高分子が生成する。この反応は、1960年代後半に東京大学のグループにより初めて報告され、二酸化炭素を固定化し有効利用するための手法として期待される。
注4) 正極
二次電池の充電の際に、陽イオンを電解質に放出し電子を回路に流す役割をする側の電極。放電の際には、逆に回路から電子を受け取り電解質から陽イオンを吸蔵する。通常この放出・吸蔵反応が高い電位で発生するほど電池の作動電圧が高くなり得られる電力が向上するが、電解質の電気的酸化による劣化が起こりやすくなる。
注5) 集電体
充電・放電の反応を起こす正極材料は通常粉末であるため、粘着性のある高分子材料と混合し電流の導通を担う金属箔に塗り付けて使用される。この金属箔を集電体と呼び、リチウムイオン二次電池の正極用集電体としては種々の理由からアルミニウム箔が使用される。

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院工学研究院
 応用化学部門 准教授
 富永 洋一(とみなが よういち)
 TEL/FAX:042-388-7058
 メール:ytominag(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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