先進宇宙開発を支える「マイクロ推進システム」について、研究者が自ら論文で解説

先進宇宙開発を支える「マイクロ推進システム」について、研究者が自ら論文で解説

 国立大学法人 東京農工大学 大学院工学研究院 先端機械システム部門の篠原 俊二郎卓越教授(注1)と東京大学 大学院新領域創成科学研究科 小泉宏之准教授らが世界の研究者たちと執筆した、宇宙でのマイクロ推進システムに関するレビュー論文がアメリカ物理学協会の学術誌『Applied Physics Reviews』2月22日号に掲載されました。

 プラズマを用いた超小型人工衛星(マイクロ衛星やナノ衛星と呼ばれ、重さ1 kg ~ 100 kg)は多目的かつ経済的に使えるため、急速に発展して宇宙開発の主要な分野となりつつあり、宇宙探査にも重要です。超小型人工衛星では、姿勢や軌道の制御のために、電気推進機からプラズマを噴出して推進力とする「マイクロ推進システム」が必要となります。2017年6月、この分野で世界を牽引する研究者がイタリアのバーリに集まり、先進の研究成果と今後の進展に関して、集中的な議論を行いました。この議論をベースに国際共同解説論文(11ケ国からの著者で総数20人)が執筆されました。

 上記会議の主要メンバーであり、本解説論文の著者でもある篠原卓越教授は長年の高密度ヘリコンプラズマ科学研究分野において、世界最大や最小サイズなど世界記録を更新する多くの特徴あるプラズマ源の開拓と、生成機構や波動現象解析などの解明を鋭意行ってきました。更に、それらの成果をベースに次世代の先進プラズマ推進ロケットを開発するなど、種々の応用研究でも世界を牽引してきました。このヘリコンプラズマは、磁場のあるところでアンテナに高周波電流を流して生成するプラズマです。ヘリコンプラズマを使うことで、1ミリリットルあたり10兆個という非常に高い電子密度が得られます。このため、基礎科学だけでなく半導体製造やプラズマロケットなど、様々な分野への展開が期待され、注目を集めています。今回は篠原卓越教授の豊富な成果(注2)を基に、ダブル高周波電源使用と高い周波数印加など工夫して、世界最小サイズを更新(直径1 mmまで)するユニークなヘリコンプラズマの生成と特性評価で論文に貢献しています。

 このレビュー論文によって総括した知見と展望により、今後更にプラズマを用いたマイクロ/ナノ衛星や宇宙探査船などの開発分野への幅広い多角的展開が期待されます。 

本研究成果は、Applied Physics Reviews(2月22日付)に掲載されました(注3)。
本論文は、下記のURLからご覧いただけます。

掲載:『Applied Physics Reviews』誌オンライン版(URL https://doi.org/10.1063/1.5007734
論文タイトル:「Space Micropropulsion Systems for Cubesats and Small Satellites: From Proximate Targets to Furthermost Frontier」
著者:Igor Levchenko, Kateryna Bazaka, Yongjie Ding, Yevgeny Raitses, Stéphane Mazouffre, Torsten Henning, Peter J. Klar, Shunjiro Shinohara, Jochen Schein, Laurent Garrigues, Minkwan Kim, Dan Lev, Francesco Taccogna, Rod W. Boswell, Christine Charles, Hiroyuki Koizumi, Yan Shen, Carsten Scharlemann, Michael Keidar, and Shuyan Xu

注1)卓越教授(ディスティングイッシュトプロフェッサー)とは、優れた研究業績等を有する教授または准教授であると東京農工大学から認定を受けた教育職員のことです。詳細は、下記からご覧いただけます。http://www.tuat.ac.jp/research/distinguished_professor/ 。
注2)篠原卓越教授の多くの先進成果は下記のURLに記載されています(本研究関連だけでも100編にも及ぶ査読論文)。例えば著名なNature Physicsにも2008年に掲載され、H22年度文部科学大臣表彰科学技術賞やH28年度プラズマ・核融合学会技術進歩賞などを受賞しています。これらの研究は日本学術振興会の科学研究費補助金である基盤研究(S) 2122609及び(B) 20340163、17H02295などの助成を受けたものです。http://web.tuat.ac.jp/~sinohara/(別ウィンドウで開きます)
注3)アメリカ物理学協会はアメリカ合衆国の物理学系学会の連合組織で12.5万人のメンバーを有します。この協会の雑誌『Applied Physics Reviews』は権威ある学術雑誌として知られ、学術雑誌の影響力(論文引用回数を反映)を測る指標であるインパクトファクターは、2016年には13.7と高い値を獲得しています。

図1 プラズマを用いた電気推進機のイメージ図(中央は地球から飛び出すために必要な化学推進ロケット、周辺に宇宙空間で活躍する典型的な4つのタイプの電気推進機が描かれています)
図2 篠原卓越教授が開発した小型ヘリコンプラズマ装置(a)と、この装置で生成した世界最小直径1 mmの高密度・高周波プラズマの発光 (b)

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学 大学院工学研究院
先端機械システム部門 卓越教授
 篠原 俊二郎(しのはら しゅんじろう)
 TEL/FAX:042-388-7097 

東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授
 小泉 宏之(こいずみ ひろゆき)
 TEL/FAX:03-5841-1838

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