2014年2月12日 植物体への超音波処理による病害防除技術を開発

植物体への超音波処理による病害防除技術を開発
― 物理的刺激を与え、病気に対する抵抗性を誘導 ―


農研機構と、国立大学法人東京農工大学は、共同研究により超音波を利用した病害防除技術の開発を進めています。
近年の食への安全・安心および環境への負荷低減という観点から、農薬を使用しない新たな病害防除技術として物理的刺激である超音波を利用した病害防除技術を開発しました。本技術では、40kHzの超音波を断続的なパルスパターンでイネ苗やトマト苗に照射することにより、イネいもち病やトマト萎凋病の発病を抑制することが可能です。
これまでの研究開発で、一定の防除効果が確認されたことから、現在、実用化に向けた装置の改良と様々な病害に関する防除効果試験を実施しています。

セラミック型超音波発振装置

超音波処理法の一例

開発の背景と経緯
1.近年、食への安全・安心が求められていることから、農薬の使用量を減らした栽培方法に関心が集まっており、エコファーマー制度や有機JAS認定制度などが導入されています。また、環境負荷低減の観点からも農薬の使用量低減が望まれており、農薬を使用しない新たな防除技術の開発が重要な課題となっています。
2.しかしながら、植物の病気は多種多様であり、農薬を使用せずに病気を防除することはなかなか難しいのが現状です。特に胞子で空気中を伝搬するイネいもち病や、土壌中に病原菌が生息して土壌伝搬するフザリウム病などは、殺菌剤や土壌消毒剤を使用しないと防除が難しい病気です。
3.一方、農薬の使用を低減する環境保全型農業に関する研究が推進されており、農薬を使用しない病害防除技術の開発も同様に進められてきました。その中に、植物体に物理的刺激を与え、病気に対する抵抗性を誘導して病気を防除する技術が開発されました。その一例が「光」を利用した防除技術です。
4.生研センターでは、これまでに徳島県、山口大学、ニューデルタ工業と共同で、果樹園のヤガ類を防除する超音波ヤガ類防除装置を開発してきましたが、その研究開発の中で出力音圧の大きいセラミック型の超音波発振装置を開発しました。「超音波」も「光」と同様に物理的刺激です。そこで、本装置を利用して、物理的刺激である超音波を植物体へ照射することにより、抵抗性を誘導して病気を防除することができるのではと考え、東京農工大学と共同で研究を進めてきました。

超音波処理による病害防除技術の概要
1)病害防除に利用する超音波発振装置は、セラミック型の発振子を用いたもので、周波数40 kHz、音圧約120 dbの超音波を断続的なパルスパターンで出力します。この周波数および音圧は、ヤガ類の防除にも十分な効果がある仕様であることが分かっています。
2)本装置を利用して、イネ苗に超音波を2週間連続で照射し、その後にイネいもち病菌を接種して、一定期間を経過した後、イネのいもち病病斑数をカウントして発病程度を評価した結果、超音波を処理したイネでは、イネいもち病の発生を無処理のイネの1/2程度に抑制できました。
3)本装置を利用して、トマト苗に超音波を2週間連続で照射し、その後にトマト萎凋病菌(フザリウム病)を接種して、萎凋病の病害防除効果試験を行いました。病気の評価は、トマト萎凋病の特徴的な病徴である維管束の褐変を1〜4段階に分けて発病度として評価しました。その結果、超音波処理を行ったトマトでは、無処理のトマトと比較して、トマト萎凋病を1/3程度に抑制できました。

今後の予定・期待
現在、超音波処理により、イチゴうどんこ病等他の病害にも防除効果が認められることを試験で確認しています。今後、超音波が有効な病害の種類を拡大できる可能性があることから、様々な防除効果試験を行っていくとともに、実用化を目指して装置の改良を進めていきます。

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