2014年1月9日 爆風が脳に引き起こす現象を再現することに成功

爆風が脳に引き起こす現象を再現することに成功
: 爆風による傷害の治療法開発に道



国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門・西舘泉准教授と防衛医科大学校防衛医学研究センター情報システム研究部門および防衛医学講座の共同研究グループは、爆風が脳に引き起こす重要な現象をレーザーにより再現、解析することに成功しました。この成果は今後、テロや工場事故等で発生する爆発が生体に及ぼす傷害の予防や治療の研究に貢献するものと期待される。

レーザー照射の様子

現状:近年世界的にみて、爆発物によるテロが紛争地のみならず一般市街地においても多発し、爆風による頭部外傷患者が急増しています。この中で特に問題となっているのは、通常の画像診断により異常が認められなくとも、記憶障害や正常な社会的行動ができなくなる高次の脳機能障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を来す症例で、米国を中心に深刻な社会問題となっています。我が国においても国際貢献活動等の安全確保のため、対策が急務となっています。しかしながら爆風による頭部外傷の発症メカニズムは不明で、有効な予防法、治療法は開発されていません。このため動物を用いた研究が求められていますが、爆薬を使った実験は安全上、倫理上の制約があります。

研究体制:国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門、防衛医科大学校防衛医学研究センター情報システム研究部門、防衛医科大学校防衛医学講座の研究グループの共同研究。

研究成果:光を吸収する物質に高強度のパルスレーザーを照射することにより衝撃波(レーザー誘起衝撃波)を安全に発生させ、ラット頭部に作用させることにより爆風が脳に引き起こす重要な現象を再現し、詳細な解析を行いました。その結果、レーザー誘起衝撃波を作用させた部位を起点として神経が過剰な興奮状態になるとともに脳活動が抑制され、その状態が波となって毎分数ミリメートルの速度で脳内に拡がることがわかりました。またその波の拡がりに伴って脳が酸欠(低酸素血症)になり、その状態が1時間から数時間にわたって続くことがわかりました。この現象は脳に出血や組織損傷(挫傷)を生じなくとも、衝撃波の刺激のみで発生しました。このような長時間の酸欠状態は神経細胞に異常を来たし脳機能障害を引き起こしうることから、これらをコントロールすることが治療の重要なポイントになると考えられます。

今後の展開:爆発は戦闘地域やテロのみならず、工場での事故、さらに昨年ロシアで発生した隕石の爆発や火山の爆発などの自然現象でも発生します。今回の研究成果は、広くこれら爆発が生体に及ぼす傷害の予防や治療の研究に貢献するものと期待されます。

雑誌名: PLOS ONE
論文名: Real-Time Optical Diagnosis of the Rat Brain Exposed to a Laser-Induced Shock Wave: Observation of Spreading Depolarization, Vasoconstriction and Hypoxemia-Oligemia
著 者: Shunichi Sato, Satoko Kawauchi, Wataru Okuda, Izumi Nishidate, Hiroshi Nawashiro, Gentaro Tsumatori

観測結果の図解

実験系の模式図

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