斜めの液膜では粒子膜生成はどう変わる?分散液乾燥での新たな法則を発見

斜めの液膜では粒子膜生成はどう変わる?
分散液乾燥での新たな法則を発見

 東京農工大学大学院生物システム応用科学府の安倍紘平(現:日本学術振興会特別研究員PD、沖縄科学技術大学院大学)と工学研究院応用化学部門の稲澤晋教授は、水と空気の境目を傾けた状態で分散液を乾かすシンプルな実験で以下の事柄を明らかにしました。
   ・粒子膜の成長速度が場所によって変わる。
   ・粒子膜が十分な長さに成長すると場所ごとの成長速度に差はなくなる。
 ものづくりでは液膜が傾いた状態で乾かす乾燥プロセスが頻繁に用いられます。今回の発見は、固体粒子膜の生成を精密に制御する技術開発につながることが期待されます。

本研究成果は、Physical Chemistry Chemical Physics誌に4月26日に掲載されました。
( Journal back coverに採択 https://pubs.rsc.org/en/content/articlepdf/2023/cp/d3cp90126b )
論文名:Position-dependent rates of film growth in drying colloidal suspensions on tilted air-water interfaces著者名:Kohei Abe, Susumu Inasawa
URL:https://doi.org/10.1039/D3CP00966A 

現状
 小さな微粒子が含まれる水を塗って乾かすと、微粒子が集まった固体薄膜が得られます。電池電極をはじめ薄膜を作る実用操作として塗布乾燥は広く使われています。その一方で、微粒子がいつ充填されるのかなど蒸発中の塗布液の中で何が起きているのかは、学術として未解明点が多く残っています。例えば、ものづくりでは塗布した液膜と空気の境目(界面)が傾いたまま乾くことが多いですが、この場合に一様な粒子膜成長が起こるのかについての検討例がなく、詳細は不明でした。

 

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院生物システム応用科学府の安倍紘平氏(2022年3月博士後期課程修了)と大学院工学研究院の稲澤晋教授によって実施されました。なお、本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP21J10968およびJP21K18843)の助成を受けて実施されました。

研究成果
 シリカ(SiO₂)粒子(直径330 nm)が分散した水溶液を手製のガラスセルに入れ、水と空気の境目の角度が異なる条件で乾燥させると、角度90°の場合は場所によらずほぼ均一に粒子膜が成長する(図1a, b)のに対し、角度45°の場合は位置によって長さが異なる粒子膜が成長することを明らかにしました(図1c, d)。角度や乾燥条件を変えて検証した結果、図1dで示される長さ2と長さ1の成長速度の差は、粒子膜がなす角度θを用いたcosθに比例するシンプルな関係にあることを突き止めました。複雑な現象であるにもかかわらず単純な関係式で表現できることは驚くべき点です。さらに、この結果を用いた数理モデルが、実験データを定量的に再現よく表現できることを示しました(図2)。水と空気の境目が傾いた状態で粒子膜がどのように成長するかを直接観察した結果は、複雑な粒子充填現象の実験データとしても貴重です。

今後の展開
 実際のものづくりでは空気と塗布液の境目が傾いている例が多数あります。今回の成果は、そうした場では「均一な」粒子膜の成長を行うことが難しいことを示しています。粒子膜の成長だけではなく、蒸発に由来する分散液の流れも詳細に解析すれば、これまで十分に制御出来なかった粒子膜の成長を精密に制御する技術開発につながります。

 

図1 水と空気の角度が90°の場合(a, b)と45°の場合(c, d)の観察画像。それぞれ(a, c)が乾燥前、(b, d)が一定時間乾燥後。90°では粒子膜がほぼ均一に成長し角度が90°を維持する(b)のに対し、傾いた場合では粒子膜の長さは場所に応じて変化するため角度θが初期角(45°)よりも大きくなっていく(d)。
図2 粒子膜長さの差((長さ2) – (長さ1))の時間変化の測定値(プロット)と数理モデルを用いた予測結果(実線)。色は異なる実験条件での結果を意味する。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
応用化学部門 教授
稲澤 晋(いなさわ すすむ)
E-mail:inasawa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

プレスリリース(PDF:483KB)

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