もっと青い花を!~新規糖転移酵素の単離に世界で初めて成功~

もっと青い花を!~新規糖転移酵素の単離に世界で初めて成功~についてのご紹介です。

2010年10月25日
国立大学法人 東京農工大学


もっと青い花を!
― 新規糖転移酵素の単離に世界で初めて成功 ―


東京農工大学の小関良宏教授・佐々木伸大助教・松葉由紀日本学術振興会特別研究員(大学院工学研究院生命機能科学部門)の研究グループは、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センターの競争的資金により、キリンホールディングス株式会社との共同研究において、デルフィニウムの青色花弁からアントシアニン分子の 7 位にブドウ糖を結合させる新規の糖転移酵素遺伝子を世界で初めて発見し、遺伝子解析の結果、この糖転移酵素はこれまでに報告のあった酵素とはまったく別の種類の酵素であることを明らかとしました。
橙色、赤色、紫色、青色、これら多種多様な花の色は主にアントシアニンと呼ばれる植物色素によって発色していることが知られています。とりわけデルフィニウムやサイネリア(シネラリア)、ヒマラヤの青いケシなど、最も青い花を持つ植物はこのアントシアニン分子の基本骨格の 7 位がブドウ糖によって修飾されていることが知られています。そのため、アントシアニン分子の 7 位にブドウ糖を付加することが出来れば、青い花の開発が可能になると考えられていました。しかしこれまでにアントシアニンの 7 位に糖を転移する酵素や遺伝子についての報告はありませんでした。
本研究成果は植物科学分野で最も権威ある学術誌である The Plant Cell 誌(5年インパクトファクター、10.679)の2010年10月22日オンライン版で公開されました。
なお、この研究は、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センターが実施している、生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業(研究課題名:「イオンビームとゲノム情報を活用した効率的な花き突然変異育種法の開発」)の研究の一環として行われました。

◆研究内容◆
三大切花の一つであるカーネーションのアントシアニンはその分子の3位と5位がブドウ糖によって修飾されています。共同研究チームはイオンビーム照射によって得られた突然変異品種群の中から、5位のブドウ糖が脱落したアントシアニンを持つカーネーションの変異体を見出し、これを解析することによって、アントシアニン分子の 5 位にブドウ糖を転移する新規の酵素が存在することを突き止めました。この酵素を精製してそのアミノ酸配列を決定し、その情報をもとにして新規のアントシアニン 5 位配糖化酵素遺伝子を単離し、この遺伝子をカーネーション花弁に遺伝子導入することによってアントシアニンの 5 位にブドウ糖を転移する能力があることが示されました。この酵素の性質を詳細に解析したところ、これまで報告されていた糖転移酵素は異なり、有機酸にブドウ糖が結合したアシルグルコースと呼ばれる物質からアントシアニン分子へブドウ糖を転移する反応を触媒することを明らかとしました。
最も青い花の一つであるデルフィニウムは 3 位と 7 位がブドウ糖で修飾されたアントシアニンを持っています。そこで、カーネーションのアントシアニン 5 位配糖化酵素の遺伝子情報をもとに、デルフィニウム青色花弁における相同遺伝子を獲得しました。この遺伝子がコードするタンパク質を大腸菌で生産させ、その酵素活性を検討したところ、この酵素がアントシアニン分子の 7 位にブドウ糖を転移する活性を持つことが確認されました。デルフィニウムではアントシアニンの3位が糖によって修飾された後に、本研究で発見された酵素によって 7 位の糖修飾がなされ、更にそのブドウ糖が有機酸やブドウ糖によって修飾されることで青い花となっており、ここで得られた遺伝子にコードされる酵素が青色を発色するのに必要な鍵となる酵素であることを明らかにしました。

◆今後の展望◆
青い花の多くが7位をブドウ糖で修飾されたアントシアニン分子を持つことから、本研究で単離したアントシアニン 7 位配糖化酵素遺伝子は青い花を作出するための鍵酵素であると考えられます。今後この遺伝子を用いて、遺伝子組換え技術を用いた青い花の作出が期待されます。
また、植物が持つ生薬などの強い生理活性を持つ物質の多くは糖による修飾をされて水溶性を増すことでその効果を発揮します。本研究で新たに発見された糖転移酵素のグループに属する酵素を用いることで様々な生理活性物質を糖修飾することができるようになると期待されます。

◆お問い合わせ先◆
東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門 教授 小関良宏
Tel:042-388-7239
E-mail:ozeky(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

資料

新聞等掲載状況

平成22年11月 4日 日刊工業新聞
平成22年11月12日 科学新聞
平成22年12月 7日 朝日新聞

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