ゼリーは小さく作るほど硬くなる?細胞の様な鋳型に入れるとゼリーの硬さが変化する現象を発見

ゼリーは小さく作るほど硬くなる?
細胞の様な鋳型に入れるとゼリーの硬さが変化する現象を発見

【ポイント】
・生物の細胞に類似した小さな鋳型でゼリーを作ると、通常のゼリーよりも約10倍硬くなる。
・硬くなる理由は、鋳型を覆う脂質膜によりゼリーを構成するタンパク質の構造が大きく変化するため。
・小さなゼリーを使った食品・医薬品・化粧品などの機能制御に貢献する成果。

 東京農工大学大学院工学研究院先端物理工学部門の柳澤実穂テニュアトラック特任准教授、大学院生の酒井淳氏、村山能宏准教授、慶應義塾大学理工学部生命情報学科の藤原慶専任講師、九州大学先導物質化学研究所の木戸秋悟教授らのグループは、細胞の様な鋳型を用いて100分の1ミリメートルスケールのミクロなゼリー球を作製しました。その小さなゼリーの硬さを測ることにより、ゲル化(注1)させる際の鋳型のサイズによって、ゼリーの硬さが大きく変化することを発見しました。またこの硬さの変化は、ゼリーの原料であるゼラチン(注2)がゲル化する際に、鋳型を覆う脂質膜によってもたらされる構造変化によることを見出しました。以上の発見を、ミクロなゼリーを用いる食品・医薬品・化粧品の開発に応用することで、更なる機能制御が期待されます。また細胞は、脂質を主成分とする膜で覆われたミクロスケールのゲル構造を備えている点で似通っており、今後、生細胞の力学的性質や機能解明へ貢献することが期待できます。

本研究成果は、アメリカ化学会誌のACSセントラルサイエンス(英語:ACS central science(略称ACS Cent. Sci.))オンライン版(3月15日付:日本時間3月16日)に掲載されます。
【※報道解禁:3月16日午前4時(日本時間)】

掲載誌:ACS Central Science
論文名:Increasing elasticity through changes in the secondary structure of gelatin by gelation in a microsized lipid space
著者名:Atsushi SAKAI,Yoshihiro MURAYAMA,Kei FUJIWARA,Takahiro FUJISAWA,Saori SASAKI,Satoru KIDOAKI,Miho YANAGISAWA.
URLhttps://pubs.acs.org/journal/acscii

現状 :ゼラチンからなるミクロなゼリー(以下、ミクロゲル)は、食品や化粧品、医薬品など、日用品には欠かせない物です。それらの食感や質感、強度などの機能を強く支配する力学的性質は、ミクロゲルが分散した水溶液や大きなゲルに対してはよく知られているものの、一つのミクロゲルが示す力学的性質は測定がその小ささ故に困難であり、詳細な解析が渇望されていました。

研究体制 :本研究は、東京農工大学・柳澤実穂特任准教授、東京農工大学大学院生・酒井淳氏、東京農工大学・村山能宏准教授、慶應義塾大学・藤原慶専任講師、九州大学・木戸秋悟教授、佐々木沙織特任助教、九州大学大学院生・藤澤貴宏氏が共同で実施しました。

研究成果 :本研究では、非常に細いマイクロキャピラリーを用いてミクロゲルを引っ張ることにより、一つのミクロゲルの硬さを測定することに成功しました。そして、ゼラチンがゲル化する際に、脂質膜で覆われたマイクロメートルサイズの空間に閉じ込められていることで、ゲル化後の硬さが通常の大きなゲルに比べて10倍程度上昇することを見出しました。さらに、このミクロゲルの分子構造を調べたところ、通常のゼラチンが作る三重らせん構造だけではなく、βシート構造と呼ばれるユニットが連なった構造も同時に作っていることがわかり、この構造変化によってゲルが硬くなっていることが明らかになりました。

今後の展開 :この発見によって、ゼラチンなどの生体高分子ゲル(注3)の力学的性質や構造に対し、新たな知見を得ることができました。ミクロゲルは細胞を支える骨格としても機能していることから、細胞内の生体高分子ゲルの特性解明に貢献できると期待されます。また本成果は、ゲルの硬さを利用した機能性材料の設計に新しい視点を与え、今後の食品・医薬品・化粧品として活用されるミクロゲル材料の創成へ応用されることが期待されます。

図1:(a)ミクロゲル作成法を示す模式図と(b)一つのミクロゲルの硬さを測定するため細長いマイクロキャピラリーで引っ張る様子を示した顕微鏡画像。
図2:本研究成果の概要

語句解説
注1) ゲル化:ゼリー球に含まれるゼラチンは、温度を下げると液体から固体へ変化(ゲル化)する。
注2) ゼラチン:ゼリーの材料。生体内にあるコラーゲンを分解したもの。ゲル化する際には、コラーゲン様の三重らせん構造を作ることが知られていた。
注3) 生体高分子ゲル:主に生物の体内に存在する分子量の大きな分子からなるゲル。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
先端物理工学部門 特任准教授  柳澤 実穂(やなぎさわ みほ)
TEL/FAX:042-388-7113、E-mail:myanagi(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

◆報道に関する問い合わせ◆

  • 東京農工大学 総務課広報・基金室
    TEL:042-367-5895、FAX:042-367-5553、Email:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
  • 慶應義塾広報室
    TEL:03-5427-1541、FAX:03-5441-7640、E-mail:m-koho(ここに@を入れてください)adst.keio.ac.jp
  • 九州大学広報室
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