狭い隙間からの水の蒸発は、少量のポリマー添加で阻害される

狭い隙間からの水の蒸発は、
少量のポリマー添加で阻害される

 東京農工大学大学院生物システム応用科学府の田中優彦(博士後期課程2年)と工学研究院応用化学部門の稲澤晋教授は、液体のりとしても使われている高分子(ポリマー)を添加すると、水が狭い隙間から蒸発する速度を著しく低下させることを明らかにしました。様々なものづくりで用いられる固体粒子とポリマーを同時に混ぜた分散液の乾燥では、粒子間の狭い空隙から水が蒸発します。この成果は乾燥工程での粒子膜形成の制御に役立つことが期待されます。

本研究成果は、Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects誌に5月20日に掲載されました。
論文名:Drying kinetics of colloid-polymer suspensions confined in a two-dimensional geometry
著者名:Masahiko Tanaka and Susumu Inasawa
URL:https://doi.org/10.1016/j.colsurfa.2023.131693

現状
 水の中に溶けずに浮遊している直径100 nm(1mmの1万分の1)程度の微細な固体粒子(コロイド粒子)が水の蒸発等によって充填されると、粒子の間に10 nm程度の隙間が生じ、この隙間からさらに水が蒸発していきます。身近な例では、砂や土に水を撒くと、バラバラであった砂粒や土がまとまります。このまとまった砂粒や土の小さな粒の間から水の蒸発が起こることに似ています。ものづくりでは砂や土の粒よりもさらに小さい粒子を頻繁に用います。この極めて狭い隙間から水がどのように蒸発していくのかについては複数の研究例があります。しかし、ものづくりでは、固体粒子にポリマーなど様々な他の成分を加えた溶液を使用することが多く、水に溶けている物質が、粒子間の狭い隙間から水が蒸発する際にどの程度影響するのかについては検討例がありませんでした。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院生物システム応用科学府博士後期課程2年の田中優彦氏と大学院工学研究院の稲澤晋教授によって行われました。日本学術振興会科学研究費補助金(JP21K18843)および東京農工大学未来価値創造研究教育特区(FLOuRISH)の助成を受けました。

研究成果
 直径110 nmのシリカ(SiO2)粒子が分散した水溶液に少量(体積分率で1%未満)のポリマー(ポリビニルアルコール*1)を添加し乾燥させると、水の蒸発速度は時間の経過とともに初期の1/10程度まで下がりました(図1左)。これに対し、ポリマーを添加しない粒子分散液では蒸発速度はほとんど変わりませんでした。乾燥条件を変えて、①ポリマー水溶液(コロイド粒子なし)、②コロイド粒子分散液(ポリマーなし)および③ポリマー添加コロイド粒子分散液の蒸発速度を比較すると、③のみ明確に蒸発速度が低下することがわかりました(図1右)。コロイド粒子とポリマーが共存することで、水の蒸発が著しく阻害されることを示す結果です。

今後の展開
 コロイド粒子など微細な粒子が充填された膜の内部には、無数の狭い空隙が存在します(図2)。こうした狭い空隙であるからこそ、少量のポリマーが添加されただけで水の蒸発速度に大きく影響することがわかりました。狭い空隙内にどのようにポリマーが蓄積していくのか、水が蒸発する過程でポリマーが狭い空隙をどのように移動するのか、などを丹念に追跡すれば粒子膜内部でのポリマー蓄積分布や水の蒸発速度の制御が可能になると期待できます。また、狭い空間内でポリマーと水が共存することの新たな効果を検証する実験系としても有効です。

用語解説
 *1 ポリビニルアルコール 市販の「液体のり」の成分としても利用される汎用的な高分子

図1(左)ポリマーを添加したコロイド粒子分散液の蒸発速度。青、赤、緑の色は、添加したポリマーの分子量がそれぞれ異なる。また、○、◇、△はそれぞれ添加したポリマー濃度が異なることを示す。×がポリマー添加なしのコロイド粒子分散液の蒸発速度。(右)○:ポリマー水溶液(コロイド粒子なし)、◇:コロイド粒子分散液(ポリマー添加なし)、△:ポリマーを添加したコロイド粒子分散液、の蒸発速度。図の右に行くに従って、乾燥が進んでいることに対応する。左グラフ中の画像は、実際に充填されたコロイド粒子の電子顕微鏡像。粒子1個の直径は110 nm。
図2 溶液中に分散しているとコロイド粒子は1個1個バラバラ(左)だが、水が蒸発すると粒子が充填され接触する(右)。粒子同士の間に狭い隙間ができ(右図の赤色部分)、この隙間にポリマーが溜まると水の蒸発速度が著しく低下する。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
応用化学部門 教授
稲澤 晋(いなさわ すすむ)
E-mail:inasawa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

プレスリリース(PDF:506KB)

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