〔2016年7月14日リリース〕磁性ナノ粒子の形や大きさを制御する新手法を開発

磁性ナノ粒子の形や大きさを制御する新手法を開発
~磁性細菌を利用して常温常圧で可能に~


国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の新垣篤史准教授を中心とする研究グループは、磁性細菌の遺伝子発現調節により、磁性ナノ粒子の形や大きさを制御するまったく新しい手法の開発に成功しました。さらにこの手法は、常温常圧の穏やかな条件下で行うことが可能です。形や大きさが精密に制御された磁性ナノ粒子の合成が可能になることで、がん治療における磁気材料や遺伝子検査用の試薬、高密度磁気記録媒体等での幅広い応用が期待されます。

本研究成果は、Scientific Reports(7月15日付:日本時間7月15日18時)に掲載されます。
掲載予定URL:www.nature.com/articles/srep29785
報道解禁日:7月15日18時(日本時間)

現状:磁性ナノ粒子は、大きさが数ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)から数十ナノメートル程度の微小な磁石で、磁気記録や医療分野で利用される重要な材料の一つです。磁性ナノ粒子の磁気的な性質は、粒子の大きさや形に大きく依存することから、用途に合わせた粒子の大きさと形の制御が求められます。一般的に、形や大きさの制御された磁性ナノ粒子を合成するには、高温高圧の条件が必要とされ、特殊な装置とこれを稼働するための大きなエネルギーが要求されます。また、望む大きさや形の磁性ナノ粒子を予め設計して合成することは、特に困難な課題とされています。

研究成果:研究グループは、「磁性細菌」と呼ばれる細菌が自然界の温和な環境中で形や大きさの制御された磁性ナノ粒子を合成する点に着目し、特にその制御機構の解明に向けて研究を進めてきました。従来の研究において、磁性細菌Magnetospirillum magneticum AMB-1株の磁性ナノ粒子の結晶成長に関わるmms7遺伝子を同定しました。mms7遺伝子を欠損した変異株を作製したところ、元の株が球状の磁性ナノ粒子を合成するのに対し、変異株は細長い柱状の磁性ナノ粒子を合成することを見出しました。また、mms7遺伝子と共に粒子形成に関わる複数の遺伝子を同時に欠損した変異株は、化学的な手法では合成のできないダンベル状の粒子を合成することを明らかにしてきました(図1)。
今回、このダンベル状の磁性ナノ粒子を作る変異株に対し、mms7遺伝子を再導入することで、粒子形態を球状に回復させることに取り組みました。この時、培地に添加する誘導剤の濃度に応じて、mms7遺伝子の発現量を調節する仕組みを人工的に持たせました(図2)。その結果、誘導剤の添加量に応じて、細菌の中で合成される磁性ナノ粒子の形態が、ダンベル状、柱状、球状と段階的に制御されることを示しました(図3)。また、この形態の変化に伴って、粒子の平均粒径も大きくなることを示しました。

今後の展開:今回用いたmms7遺伝子以外にも、磁性細菌は、磁性ナノ粒子の結晶成長に関わる遺伝子を複数持つことが知られています。これらの複数の遺伝子を同時に発現調節することで、多様な形やサイズの磁性ナノ粒子を目的用途に合わせて自在に設計して作ることが可能になると考えられます。形や大きさの制御された磁性ナノ粒子は、MRI造影剤、がん治療における磁気ハイパーサーミア用の材料、高感度免疫測定や遺伝子検査用の試薬、高密度磁気記録媒体用の材料、ビニルエーテル等のポリマー合成用の触媒などとしての応用が期待されます。

注)磁性細菌
川や海などに生息し、大きさが数十~100ナノメートルの酸化鉄磁性ナノ粒子を合成する細菌。細胞の中に磁性ナノ粒子が一列に整列していることから、磁場に応答する性質を持つ。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 准教授 新垣 篤史(あらかき あつし)
TEL:042-388-7021
FAX:042-385-7713

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