2009年08月12日:小さな磁石を作る細菌のゲノムを解読 細菌間での磁石合成の設計図の受け渡し

小さな磁石を作る細菌のゲノムを解読 細菌間での磁石合成の設計図の受け渡しのご紹介です。

2009年8月12日
国立大学法人 東京農工大学
独立行政法人 製品評価技術基盤機構


東京農工大学の新垣篤史助教(大学院共生科学技術研究院生命機能科学部門)と独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の研究グループは、このほど小さな磁石を作る微生物(磁性細菌)のゲノムの解読に成功し、磁石を作る細菌に共通する遺伝子のセットを明らかにしました。磁性細菌は、体内で磁石を合成する不思議な細菌で、その磁石をコンパスのように利用して移動していると考えられています。どのようにして磁石を合成する能力を獲得したのかについては今まで不明でしたが、今回の解析から、異なるグループに属する細菌間での遺伝子の受け渡しによるものであることが明らかとなりました。つまり、元は持っていなかった磁石を作る能力は、いくつかの遺伝子セットを受け取ることで獲得できた事を示すものでした。今回の解析結果は、Genome Research誌でオンライン版にて公開されると共にNITEのホームページからも詳細なゲノム解析データが公開されています。今回の解析結果をもとにして、獲得した遺伝子セットによる磁石の合成メカニズムの解明が進むと期待されます。産業有用微生物としての磁性細菌の作る磁石の利用は、病気の診断・遺伝子型の判別・環境測定などの検査試薬としてや、新薬開発を行う手法の開発、磁気記録用材料の開発など様々なものが進められています。概要は、以下のとおりです。

◆概 要◆
磁性細菌は比較的酸素の少ない泥の中を好む細菌で、体内の磁石をコンパスのように利用することで地磁気を検知し、生育に最適な環境に移動していると考えられています(北半球に生息する磁性細菌はN極へ移動し、南半球に生息する磁性細菌は逆にS極に移動するなど面白い性質を持っています)。このような性質を持つ細菌は、進化的な起源の異なるいくつかの微生物のグループに見られることから、どのようにして磁石合成能力を獲得していったかは、これまで全く不明とされていました。
今回のゲノム解析により、この磁性細菌は磁石を作らない近縁の微生物と比べてゲノムサイズが大きく、この余分とも言える部分に磁石合成に関わる遺伝子が含まれていることが分かりました。また、他のグループに属する磁性細菌との比較や、磁石合成に関わる遺伝子のセットの周辺に見られる特徴から、磁石合成の設計図となる部分が微生物間で受け渡しされていることが分かりました。こうした能力を得ることで、激しい環境の変化に対応しているものと考えられました。
今回の解析結果をもとにして、細菌によって磁石が合成される仕組みの解明が加速的に進むと期待されます。また、磁性細菌の作る磁石は、周りを薄膜で覆われていることから水溶液中での分散性に優れるなど、人工的に合成された磁石にはない特性を持っています。この応用に向けては、DNAやタンパク質と磁石を結合した機能性粒子を作製する技術により、遺伝子型の判別や病気の検査を高感度に行う手法の開発が進められており、これを取り扱う自動化装置によって、処理の高速化・高精度化も達成されています。その他、磁石で薬剤を患部など目的の場所に誘導・固定・放出の制御を可能とするドラッグデリバリーシステムや、磁気記録用材料への応用が期待されています。
本研究の詳細は、2009年8月12日、Genome Research誌(IF 11.224)オンライン版で先行発表されました。

【ゲノム情報データベースDOGANについて】
全ゲノム情報は、以下のURLで公開しています。
DOGAN:http://www.bio.nite.go.jp/dogan/Top(別ウィンドウで開きます。)

【微生物株及びゲノムDNAクローンの入手について】
微生物、及びDNAクローンについてはNITEの生物遺伝資源部門(NBRC )から入手が可能です。
(微生物名は、Desulfovibrio magneticus RS-1(=NBRC 104933))
NBRC: TEL: 0438-20-5763 FAX: 0438-52-2329
URL: http://www.nbrc.nite.go.jp/(別ウィンドウで開きます。)

◆本件に関する問い合わせ◆
●東京農工大学大学院 共生科学技術研究院生命機能科学部門 助教 新垣篤史
TEL:042-388-7021 FAX:042-385-7713

資料

新聞等掲載状況

平成21年8月13日 時事通信社
平成21年8月14日 日経産業新聞
平成21年8月15日 日刊工業新聞
平成21年8月28日 科学新聞

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