2013年4月9日:植物ホルモンアブシシン酸の応答経路を大規模に解明

植物ホルモンアブシシン酸の応答経路を大規模に解明しました概要です。

2013年4月9日
国立大学法人東京農工大学

植物ホルモンアブシシン酸の応答経路を大規模に解明
~干ばつ・塩・低温等のストレス耐性機構の理解が大きく前進~

国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院 生物システム科学部門の梅澤泰史准教授と理化学研究所 環境資源科学研究センターの篠崎一雄センター長は、京都大学および米国ミズーリ大学と共同でモデル植物シロイヌナズナを用いて植物ホルモンアブシシン酸(ABA)の応答経路を大規模に解析し、これまでに知られていなかった複数の応答機構を明らかにした。この解明の成果により、今後、乾燥・塩・低温ストレスや病害応答など、植物の環境ストレスの耐性強化をはかることを可能とした。

現状:近年、干ばつや温暖化等の異常気象による農業生産への影響がしばしば問題となっているが、植物の環境耐性をコントロールする鍵となるのがABAである。これまで、植物のABA応答では細胞内で起こるタンパク質のリン酸化が引き金となること、またSnRK2と呼ばれるタンパク質リン酸化酵素が重要であることを明らかにしてきた(前回のプレスリリース参照注2))。しかし、SnRK2がリン酸化する標的タンパク質の大部分が不明であり、重要な課題となっていた(図1)。

研究体制:SnRK2の標的タンパク質の探索にあたっては、細胞内のリン酸化タンパク質の大規模解析技術とSnRK2の働きが抑えられた遺伝子破壊株の利用が突破口となった。これらの課題解決のため、東京農工大学、理化学研究所、京都大学石濱泰教授、米国ミズーリ大学Peck准教授らの研究グループの四者が、それぞれの持つ強みを生かして共同研究を行った。

研究成果:東京農工大学および理化学研究所のグループは、SnRK2遺伝子を3つ破壊した三重変異体srk2deiを作製し、この変異体ではABA応答が失われることを見いだした。一方、京都大学やミズーリ大学は、植物のリン酸化タンパク質を大規模(~数千個)に解析できる「リン酸化プロテオーム」解析技術を確立した。それぞれの強みを生かすことで、植物の細胞内でABAや乾燥ストレスに応答するリン酸化タンパク質を大規模に同定するとともに、野生型とsrk2dei変異体との比較から、SnRK2標的タンパク質の候補を複数同定することに成功した(図1)。また、植物のABA応答における① 新しい制御因子、②既知因子の新しい制御メカニズム、③新たなリン酸化経路の存在、などこれまで知られていなかったABA応答機構を発見した(図2)。

今後の展開:タンパク質のリン酸化は普遍的なシグナル伝達の手段であり、リン酸化レベルの変動は生物を理解する基本的な情報の一つとして学術的な価値が高い。本研究では、ABAや乾燥ストレスに応答するリン酸化タンパク質を多数同定したが、この中には植物の乾燥耐性や耐塩性の改良に役立つものが含まれている可能性が高く、将来的にはより干ばつに強い作物品種の開発等の発展研究が期待される。

掲載論文:Umezawa, T., Sugiyama, N., Takahashi, F., Anderson, J.C., Ishihama, Y., Peck, S.C. and Shinozaki, K.
“Genetics and phosphoproteomics reveal a protein phosphorylation network in the abscisic acid pathway in Arabidopsis thaliana.” Science Signaling Vol.6, rs8 (2013)

◆本件に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院
生物システム科学部門 准教授
梅澤 泰史(ウメザワ タイシ)
TEL/FAX:042-388-7364

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