〔2015年8月26日リリース〕つる植物における自他識別能力の発見

国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院の深野祐也日本学術振興会特別研究員PDと国立大学法人弘前大学農学生命科学部の山尾僚助教は、つる植物のヤブガラシを用いた実験により、つる植物が自株と他株を識別し、巻き付きパターンを変化させる(自株には巻き付きづらい)ことを発見しました。この発見は、これまでに知られていなかった植物の新しい自他識別システムであり、これまでの研究では植物が持つ識別能力が大きく見逃されていたことを示しています。今後は、この現象の普遍性や生理メカニズムについて、さらなる解明が期待されます。

本研究成果は、日本時間8月26日午後4時に、
Proceedings of the Royal Society of London, B 英国王立協会紀要に掲載されました。

現状:自他識別、つまり自個体と他個体を識別する能力は、生物にとって非常に重要な能力です。例えば、私たちが持っている免疫システムは体内へ侵入した他生物を排除するために脊椎動物で進化した自他識別能力です。一方、植物も自他識別能力を進化させています。例えば、一部の植物では、隣に生えている株が、無性生殖で増えた自株か他株かによって根の伸長パターンを変え、自株との競争を避けていることが報告されています。しかし、植物の地上部分では、このような自他識別反応は知られていませんでした。
つる植物の巻き付き運動は、ダーウィンの時代から研究されており、わずかな接触刺激に反応し、短時間で巻き付きを開始することが知られています。一方で、巻きつかれた植物は成長を抑制されます。そのため、われわれは、つる植物は自分への巻き付きを避けるために、自他識別能力を進化させているのではないかと予想しました。

研究成果:われわれは、つる植物の1種、ブドウ科ヤブガラシ属のヤブガラシ(図1参照)を対象に実験を行い、つる植物が巻き付く相手として自株と他株を識別し、自株には巻き付きにくいことを発見しました(図2参照)。これは、植物における新しい自他識別システムの発見であり、つる植物が自株への巻き付きを避けるために自他識別を進化させたことを示唆しています。
また、この実験では、ヤブガラシは地下茎や茎で繋がった自株に対しては巻き付きにくいのですが、いったん切断し別の鉢で栽培した自株に対しては、他株と同じように巻き付くこともわかりました。このことは、ヤブガラシの自他識別においては、株が連結して生理的に同調していることが自己と識別される条件であり、離れていても遺伝的に同一であれば自己と識別する免疫などの既知の自他識別とは根本的に違ったメカニズムを持っていることを示唆しています。しかし、このメカニズムの詳細に関しては、今のところ全くわかっていません。

今後の展開:ヤブガラシの自他識別能力は、コントロールされた実験下でも、野外環境下でも同じように観察されたため、野外のつる植物の成長や空間パターンの形成、さらには他の植物の成長に与える影響において重要な役割を果たしていることが示唆されます。今後は、ほかの野生のつる植物やキュウリ・ブドウなどの栽培作物もこの自他識別を持っているのかを検証し、つる植物における自他識別能力が生態系や農業においてどのような役割を果たしているのかを明らかにする必要があります。加えて、株の連結による自己識別がどのような生理メカニズムによって行われているのかについても解明が期待されます。

◆研究に関する問い合わせ◆

東京農工大学大学院農学研究院
日本学術振興会 特別研究員PD
深野 祐也(ふかの ゆうや)
TEL/FAX:042-367-5629

弘前大学農学生命科学部生物学科
森林生態学研究室 助教
山尾 僚 (やまお あきら)
TEL/FAX:0172-39-3822

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