〔2016年8月23日リリース〕有機合成化学の基本反応をわずかな電気エネルギーで効率的に行うことに成功

有機合成化学の基本反応をわずかな電気エネルギーで効率的に行うことに成功

東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門の千葉一裕教授、工学研究院応用化学部門の岡田洋平助教らは、有機化合物合成の基本となる「炭素―炭素結合」を作るディールスアルダー反応(反応名になっている本反応の発見者は1950年ノーベル化学賞受賞)をわずかな電気エネルギーで効率的に引き起こすことに成功しました。この成果により、今後、毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒を用いない持続可能な化学反応の開発に繋がることが期待されます。

本研究成果は、英国王立化学会Chemical Science誌に掲載されるのに先立ち、6月30日にWEB上で掲載されました。
URL: http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2016/sc/c6sc02117d#!divAbstract

現状:有機合成化学は,稀少な天然物や医薬品ならびに機能性材料を人工的に作るために無くてはならない技術です。特に近年では、毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒から脱却した、環境に優しい手法(グリーンケミストリー)の開発が求められています。1950年のノーベル化学賞の受賞対象となったディールスアルダー反応は、半世紀以上前に発見された化学反応でありながら、有機化合物の基本となる「炭素-炭素結合」を作るための有力な手法として現在でも幅広く用いられています。この化学反応は出発原料に含まれる原子が全て目的とする生成物に組み込まれるため、「原子の無駄(アトムエコノミー)」が全くありません。しかし、この化学反応に使える出発原料は限られており、この限界を突破しようとする試みが幅広く研究されてきました。

ディールスアルダー反応を含め、多くの化学反応は出発原料を混ぜているだけではほとんど進みません。通常、このような化学反応には「きっかけ」として毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒が必要です。ディールスアルダー反応においても特別な試薬や触媒を用いる研究例が報告されてきましたが、より安価で環境に優しい手法が必要とされています。

研究体制:本研究は東京農工大学の岡田洋平(大学院工学研究院助教)、山口勇将(元大学院連合農学研究科博士後期課程)、尾崎惇史(大学院生物システム応用科学府博士前期課程)、千葉一裕(大学院農学研究院教授)の研究チームで実施しました。

研究成果:本研究では、毒性の高い試薬や高価な触媒の替わりに、電気エネルギーを「きっかけ」としてディールスアルダー反応を引き起こすことに成功しました。対象としたディールスアルダー反応は出発原料を混ぜているだけでは全く進みませんが、ここに乾電池(1.0-1.5 V)程度の電気エネルギーをかけることで効率的に引き起こすことができるようになりました。さらに、必要な電力量もごくわずかで済むことから、環境に優しい持続可能な化学反応が実現できます。

本研究はJSPS科研費15H04494、16H06193の助成を受けたものです。

今後の展開:毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒を用いない「グリーンかつクリーンな」ものづくりへのニーズは、今後ますます高まっていくことが予想されています。本研究の成果を活かし、今後はディールスアルダー反応をさらに発展させていくだけでなく、環境に優しい新たな化学反応の開発に繋がることが期待されます。

◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院
応用生命化学部門 教授
千葉 一裕(ちば かずひろ)
TEL/FAX:042-367-5667

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