2013年9月24日 X線自由電子レーザーパルスの特性を生かした高効率X線吸収分光法の開発

X線自由電子レーザーパルスの特性を生かした高効率X線吸収分光法の開発
-超高速の化学反応を追跡するフェムト秒時間分解でのX線吸収分光が可能―

理化学研究所(理研、野依良治理事長)、高輝度光科学研究センター(土肥義治理事長)、京都大学(松本紘総長)と東京農工大学(松永是学長)は、X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free Electron Laser)を利用した新しいX線吸収分光法を考案し、理研のXFEL施設「SACLA」での実証実験に成功した。
これは、高輝度光科学研究センターの片山哲夫博士研究員、理研放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)の矢橋牧名グループディレクター、 理研光量子工学研究領域(緑川克美領域長)の小城吉寛上級研究員、京都大学大学院理学研究科の鈴木俊法教授、東京農工大学大学院の三沢和彦教授らの共同研究グループによる成果である。

原子・分子をかたちづくる電子の分布や原子核の空間的な幾何構造は、それらの化学反応性と深く関わっている。X線吸収分光法は、このような物質の電子的・幾何的構造を観察するための最も有力な方法の1つである。例えば、化学反応が起こる時間と同じくらい短い時間だけX線パルス光を物質に照射して観察すれば、 化学反応を時々刻々と追うことができ、その全容を解明することも可能だ。しかし、これまでX線吸収分光に広く用いられてきた放射光のX線パルスの時間幅は数十ピコ秒(1ピコ秒=1兆分の1秒)と大きく、化学反応でみられる1フェムト秒(1000兆分の1秒)程度の超高速現象の途中経過を追跡することは困難だった。XFELは、 放射光の1万分の1の10フェムト秒程度の時間幅のX線パルスを発生できる光源で、これを利用した化学反応のリアルタイム観測に大きな期待が寄せられている。

ただ、放射光源と比べて、現状のSACLAでは1秒間に発生できるX線パルスの数が20パルスと少なく、時間単位の計測効率で劣る。したがって、XFELの有効な利用には、1パルスで得られる情報量がなるべく多い高効率な分光法の開発が必要だった。共同研究グループは、X線吸収の光子エネルギー依存性(X線吸収スペクトル)について、XFELのパルスがもつエネルギー幅の範囲を1パルスで一括計測する新手法を開発した。1パルスで吸収スペクトルを一括計測するには、試料に照射する前後のX線のスペクトルを同時に計測する必要がある。本手法では、XFELの出力を透過型回折格子を利用して2本のX線ビームに分割し、参照X線と試料透過X線のスペクトルをX線パルスごとに同時計測することで、吸収スペクトルを算出する。この手法で得られたスペクトルは、従来法で計測された吸収スペクトルと良く一致し、その有効性が実証された。本手法は、今後、化学反応のリアルタイム観測といった時間分解計測などのXFELを用いたX線吸収分光に広く応用されていくことが期待できる。
なお、本研究は文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略課題の支援を受けて実施された。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Applied Physics Letters』オンライン版に9月25日(日本時間:9月26日)に掲載されます。

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