電気で作る次世代の医薬品―廃棄物の少ないペプチド合成技術を目指して―

電気で作る次世代の医薬品
―廃棄物の少ないペプチド合成技術を目指してー

 国立大学法人東京農工大学大学院農学府の新城(永原)紳吾産学官連携研究員、平塚剛毅(研究当時)、同大学院グローバルイノベーション研究院の岡田洋平教授、同大学院農学研究院応用生命化学部門の北野克和教授、ならびに千葉一裕学長は、電気のエネルギーを用いるアミド結合形成反応を活かして、ペプチド医薬品として知られる「イカチバント」を合成することに成功しました。この成果により、今後、ペプチド合成における環境負荷を低減し、医薬品としての製造が加速されることが期待されます。

本研究成果は、Organic Letters誌(アメリカ化学会)への掲載に先立ち、2月5日にWeb上で公開されるとともに、同誌のSupplementary Coverに採用されます。
論文タイトル:Halide-Mediated Electrochemical Peptide Synthesis Applicable to Highly Sterically Hindered Amino Acids
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.orglett.5c05139 

背景
 近年、低分子(小さな分子)でも高分子(大きな分子)でもない「中分子」サイズのペプチドが、次世代の医薬品として注目を集めています。ペプチドは、アミノ酸のカルボキシ基とアミノ基を「脱水縮合」によって繋ぎ合わせるアミド結合形成反応を繰り返すことで合成されます。この反応は、本質的には廃棄物として水のみが生じるクリーンなプロセスであり、生物は常温常圧の条件下、酸やアルカリを用いることもなく、多数のアミド結合を形成し、様々なペプチドを合成しています(図1)。しかしながら医薬品となるペプチドの多くは、通常生物が利用しない「非天然型」のアミノ酸を用いています。そこでフラスコの中で化学合成することが求められるのですが、この場合には、「縮合剤」と呼ばれる試薬を用いてカルボキシ基を活性化することが必要不可欠です(図2)。縮合剤は、目的とするアミド結合を形成した後は廃棄物として蓄積してしまいますので、可能な限り使用量を削減することが重要です。また、蓄積する廃棄物を回収し、再利用することができる技術の開発も、ペプチドの化学合成において喫緊の課題となっています。

図1. 理想的なペプチドの合成(廃棄物は水だけ)

図2. ペプチドの化学合成(縮合剤としてジイソプロピルカルボジイミドを用いる例)

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院農学府の新城(永原)紳吾産学官連携研究員、平塚剛毅(研究当時)、同大学院グローバルイノベーション研究院の岡田洋平教授、同大学院農学研究院応用生命化学部門の北野克和教授、ならびに千葉一裕学長の研究チームで実施しました。

研究成果
 本研究チームではこれまで、現行のペプチド合成において主流となっている、不溶性の樹脂を担体として用いる固相法に代わり、可溶性の「タグ」を担体として用いる液相法の開発に取り組んできました。タグを用いる液相法に電気のエネルギーを用いるアミド結合形成反応を組み合わせることで、典型的な縮合剤を用いることなく様々なペプチドを合成することに成功しています(2021年10月15日プレスリリース)。この方法では、典型的な縮合剤に代わり、トリフェニルホスフィンと呼ばれる試薬を用います(図3)。トリフェニルホスフィンそのものは縮合剤の役割を果たすことができませんが、ここに電気のエネルギーをかけて「ラジカルカチオン」へと変換することで、カルボキシ基を活性化してアミド結合を形成することができるようになります。トリフェニルホスフィンは、目的とするアミド結合を形成した後は「ホスフィンオキシド」として蓄積してしまうのですが、本研究チームでは、これを回収し、再利用できることを報告しています。この方法によって、これまでにいくつかのペプチド医薬品を合成することに成功しているものの(Chem. Sci. 2021, 12, 12911–12917, Chem. Eur. J. 2024, 30, e202402552)、非天然型の嵩高いアミノ酸を用いる場合には、反応の効率が著しく低下してしまうことも確認されていました。
 本研究では、反応に「ヨウ化物イオン」を加えることで嵩高いアミノ酸であっても効率的に繋ぎ合わせられることを見出し(図4)、ペプチド医薬品として知られる「イカチバント」を合成することに成功しました(図5)。これは、ホスフィンラジカルカチオンではなく「ホスホニウムイオン」が縮合剤としての役割を果たしていることが大きな原因であると考えられています(図6)。

 

図3. 電気のエネルギーを用いるアミド結合形成反応

図4. ヨウ化物イオンの効果

図5. イカチバントの構造

図6. ホスフィンラジカルカチオンとホスホニウムイオン

今後の展開
 電気のエネルギーによって発生させたホスホニウムイオンを活用することで、典型的な縮合剤を使うことなく、嵩高いアミノ酸を含むペプチド医薬品を合成することに成功しました。今回の成果により、今後、ペプチド合成における環境負荷を低減し、医薬品としての製造が加速されることが期待されます。

 

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院 
 教授
  岡田 洋平(おかだ ようへい)
   TEL/FAX:042-367-5667
   E-mail:yokada@cc.tuat.ac.jp

 

 

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