2色模様の花ができるしくみを解明 RNA干渉とフラボノイドによる遺伝子発現調節を発見
2色模様の花ができるしくみを解明
RNA干渉とフラボノイドによる遺伝子発現調節を発見
東京農工大学大学院連合農学研究科 博士課程の栗山和典(研究当時)、同大学院農学研究院 生物制御科学部門の福原敏行教授、森山裕充教授、同大学院工学研究院 生命機能科学部門の津川裕司教授、京都大学農学研究科 農学専攻園芸科学講座の大野翔准教授、立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構の田原緑助教、テキサスA&M大学の小岩尚志教授(東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院 特任教授)の研究グループは、ペチュニアやダリアにおいて2色模様の花ができるしくみを解明しました。本研究において、植物の2次代謝物であるフラボノイド(注1)が、RNA干渉(注2)による遺伝子発現制御を調節することを示しました。植物色素アントシアニン(注3)は、RNA干渉により遺伝子発現が調節されることで蓄積量が決定され、花の色や模様が決まることが多数報告されています。この成果は、花や果実の色の調節や野菜や果実のフラボノイド・アントシアニン含量の調節などに応用が期待されます。
本研究成果は、Plant and Cell Physiology(2月2日付)に掲載されました。
論文タイトル:Bidirectional feedforward regulatory loop of Dicer-like 4 and flavonoid aglycons causes floral bicolor patterning in petunia and dahlia
URL:https://doi.org/10.1093/pcp/pcag013
背景
ダリア、ペチュニア、アサガオ、オシロイバナなどには、花弁の中に赤や紫色などの有色領域と白い領域が共存する2色模様の花を咲かせる品種が知られています。アサガオやオシロイバナなどでは、トランスポゾン(転移因子)と呼ばれる動く遺伝子がこの2色模様を引き起こす原因として報告されています。一方、ダリアやペチュニアの星咲系統・覆輪系統の品種では、RNA干渉と呼ばれる遺伝子発現制御機構により白い領域が発生することが報告されていました。ダリアの「結納」品種やペチュニアの星咲・覆輪系統では、アントシアニンおよびフラボノイド生合成の鍵酵素であるカルコン合成酵素(CHS)遺伝子(注4)から転写されるmRNAを分解するRNA干渉(転写後遺伝子サイレンシング)(注2)が誘導されていることが報告されています。ただ、なぜ花弁の一部でのみRNA干渉が誘導され白色領域が出現するのかは分かっておらず、同じ花弁の中でRNA干渉が誘導され白色になる領域と、RNA干渉が誘導されずにアントシアニンが蓄積して有色となる領域が共存するしくみも未解明でした。本研究では、ダリアおよびペチュニアの2色咲品種を用いて、花弁に有色領域と白色領域が共存し、綺麗な2色模様ができる分子機構を解明することを目的としました(図1)。
研究体制
東京農工大学大学院連合農学研究科 博士課程の栗山和典(研究当時)、同大学院農学研究院 生物制御科学部門の福原敏行教授、同大学院農学研究院 生物制御科学部門の森山裕充教授、同大学院工学研究院 生命機能科学部門の津川裕司教授、京都大学農学研究科 農学専攻園芸科学講座の大野翔准教授、立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構の田原緑助教、テキサスA&M大学の小岩尚志教授(東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院 特任教授)らによって実施されました。本研究は、JSPS科研費JP19K22304, JP22K16169, JP25H01425, JP25H01426, JP21J12088、JST研究費JPMJFR230H、笹川科学研究助成No.2020-5018および東京農工大学グローバルイノベーション研究院の助成を受けて実施されました。
研究成果
ダリアの2色咲品種「結納」およびペチュニアの星咲系統・覆輪系統の花弁において、RNA干渉誘導に必須な酵素ダイサー(注5)と、その酵素活性を阻害しうるフラボノイドアグリコン(注6)に着目し、「花弁の有色領域では、フラボノイドアグリコンによってダイサーの酵素活性が阻害されている」との仮説をたて研究を行いました(図1)。その結果、ダリア・ペチュニアの2色咲品種の花弁において、ダイサー活性は白色領域にのみ検出され、有色領域では検出されませんでした。対照的に、フラボノイドアグリコンを含むフェノール化合物は、有色領域に特異的に蓄積していました。また、ダリア・ペチュニアの有色領域から調製した酵素画分からフラボノイドを除くとダイサー活性が復活すること、ペチュニア花弁の白色領域から調製した酵素画分にフラボノイドアグリコンを添加するとダイサー活性が阻害されることが分かりました。さらに、ダリア花弁からプロトプラスト(注7)を調製し細胞外から2本鎖RNAを導入しダイサー活性を検出する実験では、白色領域から調製したプロトプラストでのみダイサー活性を検出しました。これらの研究成果から、ダリア・ペチュニア2色咲品種の花弁の有色(赤色)領域では、アントシアニンと同じ生合成経路で合成されるフラボノイドアグリコンの蓄積によりダイサー活性およびRNA干渉が阻害され、CHS遺伝子発現およびアントシアニン色素の生合成が維持され有色(赤色)になる。一方、CHS遺伝子に対してRNA干渉が誘導された白色領域では、アントシアニン・フラボノイドアグリコン共に合成されずダイサーの酵素活性およびRNA干渉が維持され白色になる。このようなダイサーとフラボノイドによるフィードフォワード制御機構によりダリアやペチュニアの綺麗な2色模様が形成されると考えられました(図2)。
本研究により、植物の2次代謝物であるフラボノイドアグリコンが、ダイサーの酵素活性を阻害することでRNA干渉による遺伝子発現制御を調節することを示しました。この機構により有用な農業形質・花の2色模様が生まれたことが明らかとなりました。
今後の展開
RNA干渉を利用して「ウイルス抵抗性パパイヤ」など有用な農業形質を有する遺伝子導入植物が作出されてきましたが、これらの遺伝子組換え植物は、日本では栽培・流通は厳しく規制されています。一方、遺伝子組換え技術を用いない育種過程を経て作出された作物・花卉にも、RNA干渉により生じた有用農業形質が多数報告されています。今回報告したダリア、ペチュニアの2色咲品種以外にも、アサガオ、リンドウ、ブーゲンビリアなどの花卉では、RNA干渉を利用した2色咲品種が人気品種として広く流通しています。また、私たちが普段食べているダイズでも、RNA干渉によりCHS遺伝子の発現が抑制されアントシアニン色素(黒色)の生合成が起きず黄色い種皮ができます。ダイズの2色模様品種「くらかけ」の種皮では、ダイサーとフラボノイドアグリコンのフィードフォワード機構により2色模様が形成されることを私たちは昨年報告しました(2025年10月24日東京農工大学プレスリリースhttps://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2025/20251024_01.html)。
このように、本研究成果と私たちの昨年の研究成果から、花およびダイズの2色模様がほぼ同じしくみ(分子機構)で形成されることが明らかにされました。ペチュニア・ダリア・ダイズ以外にも、ダイサーとフラボノイドの遺伝子発現調節により有用な農業形質が形成されていると考えられることから、本研究成果は、花・果実の色の調節や野菜・果実のフラボノイド・アントシアニン含有量の調節などの応用に貢献が期待されます。
用語解説
注1)フラボノイド (Flavonoid)
植物が生成する有機物で、カルコンから派生する2次代謝物の総称。アントシアニンなどの植物色素、ダイズのイソフラボン、緑茶のカテキンなど、多様な有用天然物質を含む。
注2)RNA干渉 (RNAi)・転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)
RNA干渉(RNAi)は、2本鎖RNAから生成した小分子RNA (small interfering RNA, siRNA)が、アルゴノートタンパク質に取り込まれ、siRNAと相同な塩基配列を有するmRNAが切断されて遺伝子発現が抑制される現象。転写後遺伝子サイレンシング(Post-Transcriptional Gene Silencing, PTGS)とも呼ばれる。
注3)アントシアニン (Anthocyanin)
主に赤、紫、青を示す植物色素で、フラボノイドの一種。ブルーベリーやナスなどに多く含まれ、抗酸化作用を持つ。天然色素や着色料として利用されている。
注4)カルコン合成酵素(CHS)
フェニルアラニンに由来するクマロイル-CoAとマロニル-CoAから、フラボノイド生合成の初期中間体であるカルコンの合成を触媒する酵素。フラボノイド生合成の鍵酵素。
注5)ダイサー (Dicer)
長鎖2本鎖RNAを切断し21~24塩基のsiRNAを生成する酵素。長い2本鎖RNAをサイ(Dice)の目に切るのでDicerと命名された。植物にはダイサーが4種類知られており、DCL4が主にRNA干渉 (PTGS)に関与する21塩基のsiRNAを生成する。
注6)フラボノイドアグリコン (Flavonoid aglycon)
フラボノイドは糖が付加された配糖体として蓄積される。フラボノイドアグリコンは、配糖化されていないフラボノイド。
注7)プロトプラスト
植物組織に細胞壁分解酵素を処理し細胞壁を分解・除去した裸の植物細胞。
図1:本研究に用いた2色咲品種のダリアおよびペチュニアの花:左からダリア「結納」、ペチュニア星咲品種「カーペットブルースター」、ペチュニア覆輪品種「バカラレッドピコティー」
図2:ダリア・ペチュニアの2色模様の花ができるしくみ:ダイサーとフラボノイドアグリコンのフィードフォワード制御機構
ダリア・ペチュニアの2色咲品種の花弁の有色(赤色)領域では、アントシアニンと同じ生合成経路で合成されるフラボノイドアグリコンの蓄積によりダイサーの酵素活性およびRNA干渉が阻害され、CHS遺伝子発現およびアントシアニン色素の生合成が維持され有色(赤色)になる。一方、CHS遺伝子に対してRNA干渉が誘導された白色領域では、アントシアニン・フラボノイドアグリコン共に合成されずダイサーの酵素活性およびRNA干渉が維持され白色になる。
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院
生物制御科学部門 教授
福原 敏行(ふくはら としゆき)
TEL/FAX:042-367-5627
E-mail:fuku(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
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