米国・ハワイ州における稲作復活に向けたプロジェクトを開始 —ハワイでコシヒカリの陸稲栽培に成功—

米国・ハワイ州における稲作復活に向けたプロジェクトを開始
— ハワイでコシヒカリの陸稲栽培に成功 —

 国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院生物生産科学部門の安達俊輔教授、同大学院工学研究院先端機械システム部門の山中晃徳教授を中心とする研究チームは、ハワイ大学マノア校College of Tropical Agriculture and Human Resilience (CTAHR)のTomoaki Miura教授らの研究チームとともに、米国・ハワイ州カウアイ島の農家と協力し、同州における稲作復活を目指すプロジェクトを開始しました。かつてハワイ州では、日系移民を含む入植者によって広く稲作が行われ、一時はアメリカ本土にコメを輸出するほどの大産地として知られていました。しかしその後、カリフォルニアなどの大規模稲作に押され、ハワイにおける商業稲作は完全に姿を消しました。本プロジェクトは、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)の支援のもと、東京農工大学が中心となり、ハワイにおける稲作の復活を目的とした研究を行うものです。2025年3月からコシヒカリとひとめぼれの陸稲注1)栽培を開始し、日本国内で栽培した陸稲と遜色ない収量を確保しました。本結果は、12月5日に開催される第114回日本作物学会関東談話会において報告の予定です。さらに、9月3日にハワイ大学マノア校にて実施した150人規模の参加者による試食会では、ハワイ産米が高い評価を得ました。これらの成果は、全米の中でも米の需要が特に高いハワイ州において、米の自給による食料自給率向上の可能性を示すものです。また、米国のみならず日本における食料安全保障、地域経済活性化、文化交流、食育の観点からも大きな意義を有しています。

背景
 米国・ハワイ州は、我が国と同様に食料自給率が低く、多くを域外からの輸送に頼っていますが、島しょ地域であり自然災害などで輸送が絶たれるリスクを背負っています。主食のひとつであるコメを地域内で安定的に生産できる選択肢を持つことは、食料の価格変動や物流遅延への備えとなります。加えて、日本由来のコメ品種を活用した稲作は、ハワイに根づく多文化社会の中で食文化の交流を促進し、観光・外食産業や学校給食、地産地消の取り組みとも親和性が高いと考えられます。

研究体制
 ハワイ州カウアイ島の地元農家圃場(圃場A)と東京農工大学フィールドサイエンスセンター・フィールドミュージアム(FM)府中圃場(圃場B)で、コシヒカリとひとめぼれを陸稲注1)栽培しました。圃場Aでは現地農家Jerry Ornellas 氏、圃場Bでは本学技術職員の協力を得て実施しました。本研究は、日本学術振興会「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」(JPJS00420230003)の支援を受けて実施しました。本学のJ-PEAKSでは、連携大学である電気通信大学と東京外国語大学に加え、参画大学であるハワイ大学マノア校などの海外大学とともに、国際的社会課題を解決できる国立大学群を形成し、大学がもつ「知」を集め、世界の「産」へと展開することで、研究力の強化さらには教育の充実と質向上を目指しています。

研究成果
 本研究は、ハワイでも日本品種の陸稲栽培が可能であることを実証し、短い生育期間でも登熟注2)が進み、国内の陸稲と同等水準の収量が期待できることを示しました。これは、ハワイの輸入依存の緩和だけでなく、休耕地や小規模圃場の活用、農家の作目多角化にもつながり、日本での稲作のあり方にも重要な示唆を与えます。

今後の展開
 今後は、ハワイで栽培されたコメの食味・品質の評価や地域消費者・実需者(飲食・観光)との連携、現地農家・教育機関との実証拡大を進めます。また、雑草対策のほか、播種期・施肥・灌漑の最適化や機械化・省力化技術を取り入れていきます。これにより、地元に根ざしたハワイ産の米という新たなブランドを社会に提供し、食料自給率向上・地域雇用促進・若手人材育成、さらには我が国の陸稲栽培技術向上へと波及させることを目指します。

用語解説
注1)陸稲(りくとう)
   水を張らない畑状態で栽培するイネ。雑草管理や水管理が水稲と異なる。

図1:ハワイ州カウアイ島の地元農家圃場での陸稲栽培

 

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院農学研究院
  生物生産科学部門 教授
  安達 俊輔(あだち しゅんすけ)
   TEL:042-367-5671
   E-mail:adachi(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp

 

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