遺体に残されたタネから探る!? 付着種子散布を介した哺乳類と植物の種間関係を解明

遺体に残されたタネから探る!?
付着種子散布を介した哺乳類と植物の種間関係を解明

 国立大学法人東京農工大学大学院連合農学研究科の佐藤華音氏(博士課程2年、滋賀県立琵琶湖博物館・学芸員)、同大学院農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介教授、富山県 立山カルデラ砂防博物館の白石俊明主任学芸員、ミュージアムパーク茨城県自然博物館の後藤優介主任学芸員、フランス国立農業・食料環境研究所(INRAE)のChristophe Baltzinger博士らの国際共同研究チームは、交通事故で死亡した14種の哺乳類の体表に付着した植物の種子を採取することで、付着種子散布(注1)を介した哺乳類と植物の種間関係を群集(注2)の規模で解明しました。種子の付着が確認された哺乳類の88%はタヌキをはじめとする中型の哺乳類でした。また、種子が付着した哺乳類は秋に多いことが明らかになりました。

本研究成果は、スウェーデンの生態学誌「Oikos」オンライン版(1月21日付)に掲載されました。
論文名:Community-wide epizoochorous interactions revealed from roadkilled mammals
著者名:Kanon Sato, Toshiaki Shiraishi, Shimpei Sakamoto, Kenta Sawada, Yusuke Goto, Christophe Baltzinger, Shinsuke Koike
URL: https://doi.org/10.1002/oik.12094

研究背景
 自力で移動することができない植物にとって、種子散布(注3)は子孫を残し、生育場所を広げることが出来る重要な機会です。「ひっつき虫」とも呼ばれ、動物の体表(体毛や羽毛)に種子が付着することで、動物に種子を運ばせる付着種子散布は、私たちにとって身近な自然現象でありながら、動物と植物の群集規模において、どの動物種が、どの植物種の種子を運んでいるのかといった種間の関係すら明らかではありませんでした。これまでの研究では家畜や一部の動物種の剥製を対象に、種子の付着の有無を確認するといった事例がほとんどでした(参照1)。しかし、実際の野外では幅広い種類の野生動物の体表に種子は付着していると考えられます。そこで研究チームは、交通事故によって死亡した哺乳類の交通事故遺体(以下、遺体)に注目し、遺体の体表に付着した種子を採取することで、付着種子散布における哺乳類と植物の種間関係の解明に取り組みました。

研究体制
 本研究は東京農工大学大学院連合農学研究科の佐藤華音氏(博士課程学生、滋賀県立琵琶湖博物館・学芸員)、同大学院農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介教授、富山県 立山カルデラ砂防博物館の白石俊明主任学芸員、坂本心平氏、澤田研太氏、ミュージアムパーク茨城県自然博物館の後藤優介主任学芸員、フランス国立農業・食料環境研究所(INRAE)のChristophe Baltzinger博士で構成された国際共同研究グループによって実施されました。本研究の一部は、JSPS科研費 (JP 24KJ1027) 、東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院の支援を受けて行われました。

研究成果
 2006年から2023年の18年間に富山県内で回収された哺乳類の遺体200個体(計14種)を対象に、体表に付着した種子を採取しました。対象の遺体の21%にあたる42個体(計9種)の体表に、269個(計16種、うち不明3種)の植物の種子が付着していました(図1)。最も多くの数の種子が付着していた哺乳類種はタヌキ(21遺体に計156個の種子)で、続いてニホンテン(4遺体に計66個の種子)でした。付着していた種子の種数が最も多かったのもタヌキ(12種が付着)で、ニホンアナグマ、ニホンテン、ハクビシン(いずれも3種が付着)と続きました。
 最も多くの動物種から回収された種子はイノコヅチで(図1)、種子が付着していた遺体の59.5%に当たる25個体(計5種)から見つかりました(図2)。また、遺体に種子が付着していた割合は、春と夏に比べて秋が高かったです(図3、注4)。これは、付着種子散布植物の多くが秋に種子を実らせることが関係していると考えられます。しかし、ヤブジラミとヤブニンジンの種子は夏にだけ遺体から発見されました。

今後の展開
 従来の付着種子散布の研究では、家畜を中心とした大型哺乳類が、付着種子散布の散布者として注目されてきました。一方で本研究グループは、以前の研究(剥製を用いた実験(参照1))で中型哺乳類の種子散布者としての可能性を示唆しました。
 本研究では、実際の野生動物を調べたところ、中型哺乳類が種子を運んでいることが示されました。特に本結果からは、これまであまり注目されてこなかったタヌキが、実際には体表に多くの種子を付着させることで、植物の種子散布の成功に貢献している可能性が示唆されました。
 ただし、遺体の回収数は哺乳類種によって違いがあり、回収数が少なかった動物種は、種子散布者としての働きが過小評価されている可能性があります。そのため、今後は解析する遺体の数や種類を増やすことが求められます。さらに、動物の体表に付着して運ばれる種子の量や種類は、動物の体の大きさや体毛の性質(長さや硬さなど)によって異なります。そのため、今後は各動物種のどの体部位に、どういった種類の種子が付着しているといったことを明らかにすることで、種子を運ぶ哺乳類種と植物との関係や各動物種の種子散布の成功への貢献の違いが解明されることが期待されます。

参照プレスリリース
参照1)2023年4月12日リリース
「ひっつき虫は誰が運ぶ?~動物に付着する種子の量に影響する要因の解明~」
 https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2023/20230412_01.html

用語解説
注1)植物のなかで種子を動物の体表(体毛や羽)に付着させることで種子を散布させる種子の散布様式。また、このような様式で散布される種子を、俗称としてひっつき虫やくっつき虫と呼ぶ。
注2)ある一定地域に生息する生物種の集団。
注3)植物の種子が親植物から分散する現象。
注4)3月から5月を春、6月から8月を夏、9月から11月を秋、12月から2月を冬とした。

    

図1. 付着種子散布を介した、哺乳類と植物の種間関係を示したネットワーク図。帯の色の違いは哺乳類種の違いに対応しています。帯の幅は体表に付着していた種子の量、哺乳類種名の横の括弧内の数字は付着していた種子の種数を表します。赤字の植物種名は、種子に付着するための鉤などの特別な構造をもたない種を表します。図はSato et al. (2026) Oikosを基に作成。

 

図2. 最も多くの動物種から種子が回収されたイノコヅチ。左は植物体に種子が結実している状態。右は種子がタヌキの遺体の体毛に付着している様子。

図3. (a)調査対象とした交通事故遺体の個体数と(b)実際に種子が付着していた交通事故遺体の季節ごとの個体数。色の違いは哺乳類種の違いを表します。図はSato et al. (2026) Oikosを基に作成。

 

 

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門
   教授 小池 伸介(こいけ しんすけ)
   E-mail:koikes(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

◆報道に関する問い合わせ◆ 
 東京農工大学 総務課広報室
   Tel:042-367-5930
   E-mail:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 富山県 立山カルデラ砂防博物館 総務課
   TEL:076-481-1160
   E-mail:info(ここに@を入れてください)tatecal.or.jp

 ミュージアムパーク茨城県自然博物館 企画課
   担当:川村 詩音
   TEL:0297-38-0923
   E-mail:kawamura.shion(ここに@を入れてください)blue.ibk.ed.jp


 

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