自発的な配向分極を示す新規有機化合物を開発 ―有機デバイスの界面設計技術への応用―
自発的な配向分極を示す新規有機化合物を開発
―有機デバイスの界面設計技術への応用―
国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門の田中正樹助教、同大学院工学府生命工学専攻の杉本鈴奈、同大学院工学研究院生命機能科学部門の中村暢文教授らの研究グループは、分子間相互作用の制御に着目した分子設計に基づき、真空蒸着により成膜することで強力な配向分極を自発形成する新規極性分子を開発しました。また、開発した配向分極薄膜を有機半導体デバイス内の薄膜界面に挿入することで電荷輸送特性、光電変換特性を制御できることを明らかにしました。この成果は、有機半導体デバイス内部で電荷や励起子の挙動を制御することを可能とし、低消費電力ディスプレイ・高効率太陽電池の実現や従来にない機能を有する新規デバイスの実現に貢献すると期待されます。
本研究成果は、Small(2月9日付)に掲載されました。
論文タイトル:Spontaneously Formed Orientation Polarization Thin Films for Engineering Organic-Organic Interfaces
URL:https://doi.org/10.1002/smll.202506399
背景
有機発光ダイオード(OLED)や有機太陽電池(OPV)等の有機半導体デバイスは、異なる特性を有する機能性有機薄膜の積層構造であり、デバイス特性はそれぞれの有機半導体分子の性質だけでなく、薄膜界面の状態にも強く依存することが知られています。デバイス特性の向上や新たな機能の創出のために、有機/有機薄膜界面の物性を精密に制御する手法の確立が求められています。
田中助教らの研究グループはこれまでに、真空蒸着により成膜することで強力な配向分極を自発的に形成する極性有機化合物を開発してきました(Nat. Mater. 21, 819-825 (2022)、Nat. Commun. 15, 9297 (2024)、Commun. Mater. 6, 92 (2025))。自発的な配向分極(SOP、注1)技術を用いることで、薄膜形成後の後処理を必要とせず自発分極を形成できるため、有機半導体デバイスの積層構造内に自在に分極状態を作り出すことが可能です。しかし、強い配向分極を示す分子の種類は限られており、SOP技術をデバイス設計へ幅広く応用するためには新たな分子設計指針の構築が必要とされます。
研究体制
本研究の一部は、JST創発的研究支援事業(JPMJFR223S)、JSPS科研費(JP23K13716、JP25K01842、JP23H05406)、公益財団法人 新世代研究所、公益財団法人 旭硝子財団、公益財団法人 稲森財団、公益財団法人 花王芸術・科学財団の助成を受けて行われました。
研究成果
本研究では主に、①強力なSOPを示す新規極性分子の開発と②SOP層の有機半導体デバイスへの応用を行いました。開発した極性分子は既存材料の中では最高レベルの配向分極特性を示し、さらに、この強力なSOPが有機半導体デバイス内の電荷輸送の制御(整流性)や太陽電池特性の向上に寄与することを明らかにしました。
① 強力なSOPを示す新規極性分子の開発
本研究では、フルオレンおよびフタルイミドから成るFDI骨格に対して、異なる含フッ素骨格を付加した極性分子群を開発し、分子末端に長鎖フッ化アルキル基を導入した極性分子FDI-2FC5が特に強力な配向分極特性を示すことを明らかにしました(図1)。SOPにより生じる薄膜の表面電位の膜厚に対する成長率(GSP slope)は最大で−350 mV/nm以上の値を示し、既報の材料系に比べて極めて強力な配向分極層を形成することが可能になりました。これは、蒸着薄膜中でFDI-2FC5分子が35%程度の高い配向度を示したことに由来しており、FDI骨格とフッ化アルキル基の組合せにより分子内に非対称的な分子間相互作用を設計したことで、高い分子配向特性を示したと考えています。
② SOP層の有機半導体デバイスへの応用
縦型有機半導体デバイス内の有機薄膜界面において、数nm程度の膜厚のSOP層が整流作用の制御に有効であることを明らかにしました。整流作用とは多くの電子機器で不可欠な、電流を一方向にのみ流す効果であり、pn接合ダイオード等で一般的に観測されます。本研究では、OLEDなどに用いられる正孔輸送性有機薄膜とSOP層を積層(正孔輸送層/SOP層/正孔輸送層の構造)することで整流作用が生じることを明らかにしました(図2(a))。整流作用の極性はSOP層の分極極性に依存することも確認しており、有機半導体デバイス内で電荷の蓄積・再結合の位置を自在に制御することにも応用できると期待できます。
また、OPVの活性層(光を電気に変換する層)として最も一般的なドナー(D)/アクセプター(A)積層構造の界面に対してSOP層を挿入することで、光電変換効率を向上できることも明らかにしました(図2(b))。OPV特性への効果は分極の極性に依存し、本研究で用いた順構造OPVの場合は特に、正の分極を示すSOP層は短絡電流密度の向上、負のSOP層は開放電圧の増大に効果的であると明らかにしました。分極の極性によって、D・A分子間の電荷移動促進による再結合ロスの低減や界面のエネルギー準位制御など異なるメカニズムに基づく特性改善が期待できるので、D・A分子の組合せや光電変換効率を制限する因子に応じてSOP分子を使い分けることが可能です。
今後の展開
本研究により、強力なSOP形成のために有効な非対称な分子間相互作用をもたらす効果的な分子設計の指針が明らかになりました。特に本研究では含フッ化アルキル極性分子を新規開発しましたが、同研究グループの先行研究では非フッ素系SOP分子の開発にも成功しており、今後は構成元素に着目した強分極材料の開発にも着手します。また、有機半導体デバイスの高性能化に密接に関係する薄膜界面の物性を制御する技術の確立を進めることで、OLEDやOPVの高性能化による低消費電力ディスプレイや高効率太陽電池の実現に加えて、従来にない機能を有する新規デバイスの開発にもつながると期待しています。
用語解説
注1)自発的な配向分極(SOP)
真空蒸着による成膜過程で、極性分子が永久双極子モーメント(分子内部での電荷の偏りの程度)を平均的に膜厚方向に配向すること。これにより配向分極薄膜が形成される。蒸着薄膜の表面に、膜厚に比例して増大する表面電位が発生する。表面電位の膜厚に対する変化率(GSP slope)は配向分極の強さを表す指標であり、絶対値が大きいほど強い分極が形成されていることを意味する。
図1 (a) 本研究で開発したFDI極性分子の化学構造、(b) 極性分子の永久双極子モーメントと蒸着薄膜のGSP slopeの関係。GSP slopeは薄膜の単位膜厚あたりの表面電位であり、配向分極の強さを表す指標である。図は掲載論文をもとに作成したものである。
図2 (a) SOP層を利用した整流ホールオンリーデバイスの電流密度-電圧特性。SOP層を挿入することで負電圧印加時に流れる電流が抑制され、整流作用が生じたことがわかる。(b) D/SOP/A積層型受光素子の電流密度-電圧特性(光照射下)。m-MTDATA層の光吸収帯に合わせて365 nmの波長の光を照射した結果である。図は掲載論文をもとに作成したものである。
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
生命機能科学部門 助教
田中 正樹(たなか まさき)
TEL/FAX:042-388-7467
E-mail:m-tanaka(ここに@を入れてください)me.tuat.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)