有蹄類が木に登ると、幹が曲がって、枝葉が増える? ―タイワンカモシカが登る木の特徴を解明―
2026年11月2日
有蹄類が木に登ると、幹が曲がって、枝葉が増える? ―タイワンカモシカが登る木の特徴を解明―
本研究のポイント
- タイワンカモシカが登る木の特徴を樹木に残る食べ跡を調べることにより明らかにしました。
- 食べ跡の最高地点は6.8mで、キリンよりも高い場所に生える葉を食べられることが示されました。
- タイワンカモシカの登る木は、幹が水平方向に折れ曲がり、枝分かれの数が多かったことから、木登り行動により樹木の形を変化させている可能性が示唆されました。
- タイワンカモシカは木登りにより、長期的に多くの葉が食べられる樹木を自ら作り出している可能性があります。さらに、タイワンカモシカは生息地の物理的構造を改変する生態系エンジニアである可能性も示唆されました。
概要
東京農工大学農学部附属野生動物管理教育研究センターの髙田隼人特任准教授と国立屏東科技大学(台湾)のNick Ching-Min Sun助教授、台湾野生動物学会のKurtis Jai-Chyi Pei会長、浅間山カモシカ研究会の手塚夏季らの研究グループは、タイワンカモシカが登る木の特徴を樹木に残る食べ跡を調査することにより解明しました。食べ跡の最高地点は地上高6.8mで、最も高い場所の葉を食べるとされてきたキリンよりも高い場所の葉を食べられることが示されました。タイワンカモシカに登られた木は登られていない木に比べて、幹が水平方向へ折れ曲がり、枝分かれの数が多いことが明らかになりました。
このことは、タイワンカモシカが繰り返し木に登って葉を採食することにより、幹の形が変形し、枝葉の量が増加した可能性を示唆します。樹木の垂直方向への成長を抑え、枝葉の量を増やすことは、長期的に多くの葉を利用できる樹木の形成につながることから、タイワンカモシカは木登りにより自らの採食に適した樹木を作り出している可能性があります。
さらに、樹木の形の物理的な変化は、他の生物のすみかや食べ物のあり方を変化させるため、タイワンカモシカは生態系エンジニアとしての役割を持つ可能性があります。これらの発見はタイワンカモシカの行動や生態系の中での役割を理解することだけでなく、台湾の森林生態系の保全や管理を進めるうえで重要な情報となると期待されます。
本研究成果は、Scientific Reports(2026年10月27日付)に掲載されました。
研究の背景
有蹄類注1)は地上をすばやく移動することに適応した四肢を進化させたため、サルの仲間のように木に登る種は極めて稀で(有蹄類全体の3%以下)、木登り行動が樹木に与える影響は研究されてきませんでした。有蹄類は木登りに適した体の構造を持たないため、木から落ちるリスクが高いと考えられます。そのため、より安全に登れる木や栄養豊富な葉をつける木を選んで登っているかもしれません。さらに、有蹄類はサルの仲間に比べて体が大きく、葉を食べる量も多いので、木登りをすることにより、樹木の形や森林の構造に影響を与えているかもしれません。
タイワンカモシカは木登りを行うことが知られる、極めて珍しい有蹄類の一種です(図1、プレスリリース:タイワンカモシカは世にも奇妙な木登りカモシカだった )。タイワンカモシカは木登りのおかげで、同じ場所に生息する他の有蹄類(キョンとサンバー)が食べることができない柔らかい木の葉を食べることができ、これにより種間での食べ物をめぐる競争を回避していると考えられています(プレスリリース:タイワンカモシカはまるでキリン?台湾における森林性有蹄類3種の独特な食い分け)。タイワンカモシカは有蹄類の中では小柄な体格ですが(体重約20kg)、それでも繰り返し木に登れば、樹木の形を変形させる可能性が十分にあります。そこで、タイワンカモシカが登る木の特徴を調べました。
研究成果
調査は2025年12月の6日間、台湾の中央部に位置する玉山国立公園の約0.5㎢の調査地内で実施しました(図2)。調査地の標高は1,840から2,070mで、常緑広葉樹を主体とする雲霧林注2)が主に拡がっていますが、一部には土砂崩れの跡地にできた開放環境も含みます(図3)。調査地内をできる限りまんべんなく歩き、歩いたルートの両脇5m以内に生える、胸高直径注3)が2.520㎝の樹木を対象に調べました。具体的には、木に残るカモシカの食べ痕の有無、木の生えていた場所の植生タイプ(常緑広葉樹林、常緑針葉樹林、開放環境)、木の胸高直径、幹の水平方向に対する角度、枝分かれの数、幹の地面方向へ向かうアーチ状の折れ曲がり構造の有無(図3)を記録しました。
合計で301本の樹木を調査し、その内105本でカモシカの食べ痕が確認されました。食べ痕の最高地点は地上高6.8mで、最も高い場所の葉を食べるとされてきたキリンよりも高い場所の葉を食べられることが示されました。カモシカの食べ痕のある木は食べ痕のない木に比べて、開放環境に多いことが示されました(図4)。開放環境は森林の中に比べて日射量が多く、植物の葉の成長量や栄養価が豊かなことが知られています。そのため、カモシカは栄養価の高い葉をつける開放環境の木を選んで登っていたことが示唆されました。
さらに、枝分かれの数が多く、幹の折れ曲がり構造がある樹木ほど、カモシカの食べ跡が頻繁に確認されました(図3、4)。枝分かれの数が多いとカモシカの足場が増え、さらに幹の折れ曲がりもカモシカが樹上で体勢を維持するのを容易にします。そのため、このような構造を持つ樹木を頻繁に登ることが示唆されました。
樹木は通常、日射を求めて垂直方向へ成長するため、幹がアーチ状に折れ曲がることは不自然です。つまり、カモシカが繰り返し木登りを行うことにより、幹の垂直方向への成長を抑え、折り曲げた可能性があります。また、有蹄類による木本の集中的な採食は、枝分かれの増加を促進することが知られるため、枝分かれの多さもカモシカの集中的な採食が生み出した可能性があります。このことから、カモシカは木登りにより、自らの採食に適した樹木を作り出している可能性が示唆されました。
今後の展開
本研究は、これまで知見の乏しかった有蹄類の木登り行動と、それが樹木に与える影響を示唆した初めての研究です。本研究により、タイワンカモシカが木登りにより、自らの採食に適した樹木を作り出している可能性が示されました。さらに、木登りにより樹木の形が物理的に変化することは、カモシカ自身のみならず、樹木をすみかや餌資源として利用する他の生き物にも影響を与えている可能性があります。このような生息地の物理的改変を通して他の生き物に影響を与える種を「生態系エンジニア」と呼びます。採食を通じて植物の物理的環境を改変する生態系エンジニアとしては、アフリカゾウやヘラジカなどの大型草食獣で知られますが、タイワンカモシカのような小型種ではこれまでに報告がありません。今後、カモシカの木登りによる樹木の形の改変が他の動物種に与える影響を明らかにしていく必要があります。
一方で、タイワンカモシカは台湾のみに生息する希少な野生動物であり、その基礎的な生態や生態系の中で果たす役割の理解は、本種の保全対策を進めるうえで重要な情報源となります。本研究では、森林にパッチ上に点在する開放環境がタイワンカモシカの重要な餌場となることが示されました。本種の保全対策のためには、こうした食物資源の維持と増殖が重要であると考えられます。タイワンカモシカの生態は未だに多くの謎に包まれており、保全のためには今後更なる研究が求められます。
謝辞
本研究は、JSPS科研費JP23KK0277とJP22K14909の助成を受けて実施されました。
用語解説
注1)有蹄類
蹄を持つ動物群のこと。偶蹄目(牛や羊)と奇蹄目(馬やサイ)が含まれる。
注2)雲霧林
熱帯や亜熱帯の山地において、雲や霧が頻繁にかかり、湿度が高く冷涼な環境に発達する森林のこと。
注3)胸高直径
木の幹を成人の胸の高さ(約1.2m)で測った直径のこと。
論文情報
タイトル:Climbing ungulates as modifiers of tree morphology: a case from the Formosan serow
著者:Hayato Takada*, Natsuki Tezuka, Nick Ching‑Min Sun, and Kurtis Jai‑Chyi Pei
掲載誌:Scientific Reports
掲載日:2026年10月27日
DOI:10.1038/s41598-026-77603-5
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-026-77603-5
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学 農学部附属野生動物管理教育研究センター
特任准教授 髙田 隼人(たかだ はやと)
TEL:042-367-5826
E-mail:takadah(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
- 東京農工大学 髙田隼人特任准教授 研究者プロフィール
- 東京農工大学 髙田隼人特任准教授 研究室WEBサイト
- 髙田隼人特任准教授が所属する 東京農工大学農学部地域生態システム学科