遺伝子のスイッチで、細菌がつくる磁石の性能を向上 ―保磁力が1.2倍に―

遺伝子のスイッチで、細菌がつくる磁石の性能を向上
―保磁力が1.2倍に―

本研究のポイント 

  • 細菌がつくる磁性ナノ粒子を、遺伝子のスイッチを調節することで大きく成長させることに成功 
  • 粒子の大型化に伴い、磁石としての性能を示す「保磁力」が野生株に対して最大1.2倍に向上
  • 用途に合わせた磁性ナノ粒子を、常温・常圧の温和な条件で生産する技術への応用に期待

概要
 東京農工大学大学院工学府生命工学専攻博士前期課程大学院生(研究当時)の熊野未菜、同大学院生の望月奏良、東京農工大学大学院工学研究院生命工学部門の新垣篤史教授らの研究グループは、カリフォルニア大学アーバイン校のDavid Kisailus(デービッド キサイラス)教授らとの共同研究により、磁性細菌注1)の遺伝子の働きを切り替える「スイッチ」を調節することで、細菌が細胞内でつくる極小の磁石(磁性ナノ粒子)を段階的に大きく成長させ、磁石としての性能を示す保磁力注2)を最大1.2倍に高めることに成功しました。
 磁性ナノ粒子は、大きさが数nm~数十nm程度の微小な磁石であり、磁気記録媒体や医療など幅広い分野で利用されていますが、その多くは高温・高圧を要する方法で製造されています。磁性細菌は温和な条件で磁性ナノ粒子を合成できるため、省エネルギーな生産手段として注目されてきましたが、用途に応じて粒子のサイズや磁気特性を制御して作り分ける技術は確立されていませんでした。
 本研究では、磁性ナノ粒子の成長に関わる遺伝子の発現量を、添加する誘導剤(遺伝子のスイッチを入れる物質)の濃度によって調節できる遺伝子組換え株を作製しました。その結果、粒子のサイズを野生株の1.6~2.1倍まで段階的に大きくできることを示しました。さらに、粒子の大型化に伴って、磁化の向きの変わりにくさを示す保磁力が段階的に増加し、最大で1.2倍に向上することを明らかにしました。
 本成果は、目的に応じた磁気特性を持つ粒子を生物の力で設計・生産する、新たなバイオものづくりにつながるものです。本研究成果は、2026年8月30日付「Advanced Functional Materials」のオンライン版に掲載されました。

研究の背景
 自然界には、周囲から無機イオンを取り込んで結晶をつくり、生存に役立てている生物が数多く存在します。磁性細菌もその一つで、細胞内に鉄イオンを取り込み、磁鉄鉱(マグネタイト)からなる磁性ナノ粒子を合成する原核生物です。
 磁性ナノ粒子は、磁気記録媒体や、がん治療法の一つである磁気ハイパーサーミアなど、幅広い分野で利用されています。しかし、現在の製造方法の多くは高温・高圧を必要とするため、より省エネルギーな合成手法が求められています。これに対し、磁性細菌は常温・常圧の温和な条件で粒子を合成できることから、この課題を解決する手段として注目されてきました。
 一方で、磁性ナノ粒子に求められる磁気特性は用途によって異なります。しかし、磁性細菌が合成する粒子のサイズや磁気特性を精密に作り分ける技術は確立されておらず、産業応用に向けた大きな課題となっていました。

研究成果
 磁性細菌が磁性ナノ粒子をつくる過程には、複数の遺伝子が関わっていることが知られています。新垣教授らの研究グループは、これまでに、酸化鉄結晶の成長に関わる特定の遺伝子の発現量を調節することで、粒子の形を制御できることを示してきました。本研究では、この知見をもとに、結晶成長に関わる複数の遺伝子に着目しました。これらの遺伝子を一つのスイッチ(発現制御系)でまとめて操作できるようにし、培養時に加える誘導剤の濃度に応じて、遺伝子の働きを一括して調節できる遺伝子組換え株を作製しました(図1)。この組換え株で遺伝子群の働きを強めると、細胞内でつくられる磁性ナノ粒子が大きくなりました。さらに、誘導剤の濃度を変えることで粒子の大きさを段階的に調節でき、野生株の1.6~2.1倍のサイズとなりました(図2)。加えて、粒子が大きくなるにつれて、磁化の向きの変わりにくさを示す「保磁力」も段階的に増加し、最大で野生株の1.2倍に向上しました(図3)。これらの遺伝子が粒子の形成に関わることはこれまでも知られていましたが、複数の遺伝子をまとめて調節することで、粒子の大きさだけでなく保磁力まで段階的に変えられることを示したのは、本研究が初めてです。

今後の展開
 本研究では、誘導剤の濃度によって遺伝子発現量を調節することで、野生株よりも大きな磁性ナノ粒子を段階的に作り分けるとともに、大型化に伴う保磁力の変化を定量的に示しました。
 今後、他の遺伝子についても発現量や組み合わせを調整することで、粒子の形状やサイズをより多様に制御し、用途ごとに求められる磁気特性を備えた粒子を作り分けられるようになると考えられます。これにより、目的に応じた磁性ナノ粒子を温和な条件で生産する、新たなバイオものづくりへの展開が期待されます。

図1:遺伝子の働きを制御して磁性ナノ粒子を大型化する仕組み。
遺伝子の発現を誘導すると、細胞の中で磁性ナノ粒子の成長に関わるタンパク質が多く合成され、粒子の大型化につながる。
図2:磁性細菌の合成する磁性ナノ粒子の大きさの変化。
遺伝子の誘導剤の濃度が高いほど、細胞内でつくられる磁性ナノ粒子の大きさが段階的に大型化した。右下図は、磁性細菌の
電子顕微鏡画像。
図3:磁性ナノ粒子の磁気特性の評価。
遺伝子のスイッチを入れて大型化させた磁性ナノ粒子(オレンジ色)と、スイッチを入れずに合成された磁性ナノ粒子(灰色)の磁化曲線を比較した。横軸上での曲線の幅が広いほど、保磁力が大きいことを示す。大型化した粒子では幅が広く、保磁力が高まっていることがわかる。

  謝辞
 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(25K22177)、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)(JPMJPF2104)の支援を受けて実施されました。

用語解説
注1)磁性細菌
川や海などに生息する細菌の一種。細胞内に、鎖状に並んだ酸化鉄 (Fe3O4)から成る磁性ナノ粒子を合成し、方位磁針のように磁場の方向に沿って移動する性質を持つ。

注2)保磁力
磁石の磁化の向きを反転させるために必要な磁場の強さ。保磁力が大きいほど、外部から磁場を加えても磁化の向きが変わりにくい。

論文情報
タイトル:Genetically Engineered Magnetotactic Bacteria Enable the Synthesis of Enlarged Magnetite Crystals with Enhanced Coercivity
著者:Mina Kumano, Sora Mochizuki, Kodai Kimura, Ezra Sarmiento, Tadashi Matsunaga, David Kisailus, Atsushi Arakaki
掲載誌:Advanced Functional Materials
掲載日:2026年8月30日
DOI:10.1002/adfm.77946
URL:https://advanced.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adfm.77946

 
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院生命工学部門
教授 新垣 篤史(あらかき あつし)
TEL:042-388-7021
E-mail:arakakia(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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