液体の「電気の流れやすさ」でプラズマの姿が変わる ―液体の種類と配置から放電状態を制御する新たな知見―
液体の「電気の流れやすさ」でプラズマの姿が変わる
―液体の種類と配置から放電状態を制御する新たな知見―
本研究のポイント
- 液体の電気の流れやすさ(導電率)により、プラズマの放電状態が大きく変化。
- 電気を流しやすい液体では持続的な放電へ移行する一方、電気を流しにくい水を含む場合には、短時間の放電を繰り返す異なる状態を形成。
- 液体の導電率だけでなく、陰極側・陽極側への配置によっても、電流や発光の特徴が変化。
概要
東京農工大学大学院生物システム応用科学府一貫制博士課程の後藤彩乃 大学院生、同大学院工学府博士課程の渡邊良輔 大学院生、同大学院工学研究院生体医用工学部門の伊藤一陽 助教、化学物理工学部門の宮地悟代 教授と生体医用工学部門の吉野大輔 教授らの研究グループは、2つの液体を向かい合わせ、その間のわずかな空気の隙間にプラズマ注1)を発生させる実験系を用いて、液体の電気の流れやすさ(導電率注2))と陰極・陽極側への配置が、形成されるプラズマの放電状態を大きく左右することを明らかにしました。これまでプラズマと液体の界面では、主に「プラズマが液体にどのような作用を及ぼすか」が研究されてきましたが、本研究では、液体側の性質や配置もプラズマそのものの形成に影響することを示しました。さらに、液体の条件によって異なる放電状態が形成され、それに伴って発光や温度上昇、放電後の液体中の化学種やpHの変化にも違いが生じることを確認しました。本成果は、液体の性質と配置を利用してプラズマと液体の界面で起こる現象を制御するための基礎的知見であり、水処理、バイオ・医療、化学分析などへの応用につながることが期待されます。
本研究成果は、国際学術誌Plasma Processes and Polymers(2026年9月4日付)に掲載されました。
研究の背景
プラズマを液体と接触させる技術は、水処理や殺菌、医療・バイオ、化学分析など、さまざまな分野への応用が研究されています。プラズマが液体に触れると反応性の高い化学種が液体中に生じるため、これまで多くの研究では、主に「プラズマが液体にどのような作用を及ぼすか」という視点から現象が調べられてきました。一方で、液体の電気の流れやすさを表す導電率や、電極に対する液体の配置が、プラズマそのものの形成にどのような影響を与えるかについては、十分に明らかになっていませんでした。
そこで研究グループは、金属電極をそれぞれ液体内部に配置し、向かい合う2つの液体表面の間に2mmの空気層を設けた実験系を構築しました(図1)。この実験系を用いて、液体の導電率と陰極・陽極側への配置を変えることで、液体側の条件が形成されるプラズマの放電状態をどのように左右するのかを系統的に調べました。
研究成果
本研究では、電気を流しやすいリン酸緩衝生理食塩水(PBS)注3)と、電気をほとんど流さない超純水(UPW)注4)の組み合わせや陰極・陽極側への配置を変えながら、電流、発光、高速度撮影、温度、さらに放電後の液体の化学的変化を調べました。その結果、液体の導電率と配置によって異なる放電状態が形成され、それに伴って電気的・光学的・熱的・化学的な特徴も変化することがわかりました。主な成果は以下の通りです。
1.液体の導電率によって異なる放電状態が形成
電気を流しやすいPBSを両側に配置した場合、放電開始時のスパーク放電注5)から、電流が持続する直流グロー放電注6)へと移行しました(図2左)。一方、電気を流しにくいUPWを一方または両方に含む場合には、持続的な直流電流は生じず、短時間の電流パルスが繰り返される誘電体バリア放電(DBD)注7)に似た状態となりました(図2右)。さらに、PBSとは化学組成が異なる塩化ナトリウム(NaCl)水溶液でも、PBSとほぼ同じ導電率にすると同様のスパーク放電から直流グロー放電への移行が確認され、液体の化学組成だけでなく、導電率が放電状態を決める重要な要因であることが示されました。
2.陰極・陽極側への液体の配置によって電流や発光が変化
PBSとUPWを1つずつ用いた場合には、使用する液体の種類は同じでも、どちらを陰極側・陽極側に配置するかによって、電流パルスの発生の仕方や発光の広がり方が変化しました。特に、PBSに含まれるナトリウムなどに由来するオレンジ色の発光は、PBSを陰極側に配置した場合には液体表面付近に集中したのに対し、陽極側に配置した場合には放電空間により広く分布しました。これらの結果から、導電率だけでなく、液体を陰極側・陽極側のどちらに配置するかも、プラズマの電気的・光学的な特徴を左右することが示されました。
3.放電状態の違いが熱や放電後の液体にも反映
PBSを両側に配置して形成された持続的な放電では、気体や液体表面付近で大きな温度上昇が生じた一方、UPWを含む条件では気相の顕著な温度上昇は認められませんでした。また、放電後の液体では、PBSを両側に配置した場合に、UPWを含む場合と比べて過酸化水素などの化学種の濃度やpHが大きく変化しました。すなわち、液体の性質と配置によって選択された放電状態の違いが、発光や電流だけでなく、熱的・化学的な応答にも対応していることが示されました。
今後の展開
本研究により、プラズマと液体の界面では、液体が単にプラズマから作用を受けるだけでなく、液体自身の電気的な性質や配置が、どのようなプラズマが形成されるかを決める重要な要素であることが明らかになりました。
今後、プラズマ中の電場や電子の状態、反応性化学種の分布、液体表面から生じる微小な液滴や気流などを定量的に調べることで、液体の性質と配置が放電状態を決める物理的な仕組みをさらに明らかにしていきます。将来的には、目的に応じて液体の性質や配置を選択することで、プラズマの状態やプラズマ-液体間の反応を制御し、水処理、殺菌、医療・バイオ、化学分析などに適したプラズマ技術の設計につながることが期待されます。
図1:2つの液体表面の間にプラズマを発生させる実験系。液体を満たした2本のガラス管を向かい合わせ、液面間に2 mmの空気層を設けた。金属電極はそれぞれ液体内部に配置されており、液体の種類や陰極・陽極側への配置を変えてプラズマの状態を比較した。スケールバーは2mmを示す。
図2:液体の導電率によって異なるプラズマの放電状態。電気を流しやすい液体を両側に配置した場合には、放電開始時のスパーク放電から持続的な直流グロー放電へ移行した(左)。一方、電気を流しにくい液体を含む場合には、持続的な放電には移行せず、短時間のストリーマ放電が繰り返し発生した(右)。画像は高速度カメラで撮影したプラズマの発光。
謝辞
本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(FOREST、課題番号:JPMJFR222S)の支援を受けて実施されました。
用語解説
注1)プラズマ
気体を構成する原子や分子の一部が電子とイオンに分かれた状態。雷や蛍光灯の内部などにも見られる。本研究では、向かい合う2つの液体表面の間の空気中にプラズマを発生させた。
注2)導電率
物質がどの程度電気を流しやすいかを表す指標。導電率が高いほど、電気を流しやすいことを意味する。
注3)リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
複数のイオンを含み、pHを一定範囲に保つ性質を持つ水溶液。生物・医学分野の実験で広く用いられている。
注4)超純水(UPW)
イオンなどの不純物を極めて低い濃度まで除去した水。本研究で使用したUPWは、PBSに比べて電気を非常に流しにくい液体。
注5)スパーク放電
気体の絶縁が破れて短時間に大きな電流が流れる放電。
注6)直流グロー放電
比較的安定して電流が流れ続ける気体放電の一種
注7)誘電体バリア放電(DBD)
短時間の放電が繰り返し発生する放電方式の一つ。本研究では、UPWを含む条件で、持続的な直流電流を伴わず、これに似た電流・発光挙動が観察された。
論文情報
タイトル:Discharge regime selection governed by liquid conductivity and configuration in a liquid–gas–liquid plasma system
著者:Ayano Goto, Ryosuke Watanabe, Kazuyo Ito, Godai Miyaji, Daisuke Yoshino*
掲載誌:Plasma Processes and Polymers
掲載日:2026年9月3日
URL:http://dx.doi.org/10.1002/ppap.70251
◆本研究に関する問い合わせ先◆
東京農工大学大学院工学研究院生体医用工学部門
教授 吉野 大輔(よしの だいすけ)
TEL:042-388-7113
E-mail:dyoshino@go.tuat.ac.jp
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