高性能テラヘルツ検出器に向けたスペーサーレス基板一体型メタサーフェス吸収体の開発に成功 ~超薄・超低応力・高プロセス整合性・低コストな次世代 THz・赤外センシング基盤~

高性能テラヘルツ検出器に向けたスペーサーレス基板一体型メタサーフェス吸収体の開発に成功
~超薄・超低応力・高プロセス整合性・低コストな次世代 THz・赤外センシング基盤~

発表のポイント

  • 国テラヘルツ(THz)波を約95%吸収する、シリコン基板一体型の新しいメタサーフェス吸収体を開発しました。
  • 従来の高性能吸収体に必要だった絶縁体のスペーサー層を使用せず、シリコン基板の微細な凹凸を利用して高い吸収率を実現しました。
  • 吸収体の薄型・軽量・低応力化に加え、既存の半導体・MEMS製造工程への組み込みやすさと低コスト化が期待できます。
  • MEMSボロメータなどのTHz検出器に集積することで、高感度・高速・広帯域のTHz受信システムへの展開が期待されます。

本研究成果は、Advanced Optical Materials(6月4日付)に掲載されました。また、カバー論文として選定されました。
論文タイトル:Spacer-Less Substrate-Integrated Metasurface for Near-Unity Terahertz Absorption
URL:https://doi.org/10.1002/adom.71328

概要
 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院知能情報システム工学部門の張 亜准教授、同大学大学院工学府の趙 子豪氏、原田 和歩氏、劉 千氏、平川 一彦客員教授、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の諸橋 功研究マネージャー、英国サウサンプトン大学の方 煦講師らの共同研究チームは、テラヘルツ(THz)波注1)を約95%吸収する、スペーサーレス基板一体型メタサーフェス注2)(substrate-integrated metasurface: SIM)吸収体を開発しました。従来の高性能な金属-絶縁体-金属(metal–insulator–metal: MIM)型吸収体では、金属層の間に絶縁体のスペーサー層注3)を追加する必要があり、その厚み、重さ、残留応力が、薄膜・微細構造のTHz検出器注4)への組み込みを妨げていました。本研究では、シリコン基板に微細な凹凸を設け、基板自体を吸収構造の一部として利用することで、追加のスペーサー層なしに高い吸収率を実現しました。構造を薄く、軽く、低応力にでき、既存の半導体・MEMS工程とも組み合わせやすいため、MEMSボロメータ注5)などを用いた高感度・高速・広帯域THz受信システムへの展開が期待されます。

現状
 テラヘルツ(THz)波は、電波のように物質を透過しやすい性質と、光のように物質の細かな情報を読み取れる性質をあわせ持つ電磁波です。そのため、非破壊検査、セキュリティ検査、バイオ・医療診断、次世代通信など、さまざまな分野への応用が期待されています。
 一方で、THz波は検出が難しい電磁波領域でもあります。ボロメータなどの熱型THz検出器では、入射したTHz波をできるだけ効率よく熱に変換することが、検出感度を高めるうえで重要です。しかし、従来の薄い金属膜やアンテナ型吸収体では、吸収率が10~20%程度にとどまることが多く、高感度化に向けた大きな課題となっていました。
 この課題を解決する方法として、金属-絶縁体-金属(MIM)型メタサーフェス吸収体が研究されてきました。MIM型吸収体は、金属層、絶縁体層、金属層を重ねた構造により、THz波を高い効率で吸収できる有力な方式です。しかし、このMIM構造は優れた電波吸収性能を示す一方で、各層の間に絶縁のための層(スペーサー層)を追加する必要もあり、全体の厚みが数マイクロメートルから数十マイクロメートルに達するため、薄膜(厚さ1マイクロメートル程度)あるいは微細構造が必要なTHz検出器に組み込むことが極めて困難です。

研究体制
 本研究は、国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院知能情報システム工学部門の張 亜准教授、同大学大学院工学府の趙 子豪氏、原田 和歩氏、劉 千氏、平川 一彦客員教授、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の諸橋 功研究マネージャー、英国サウサンプトン大学の方 煦講師から構成される共同研究グループによって実施されました。
 なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)[JPMJTR23R2]、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI)[JP21K04151、JP24K00937]、日本学術振興会 二国間交流事業(JSPS Bilateral Program)[JPJSBP120265703]、英国王立協会(The Royal Society)[IEC\R3\253008]、および国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)先端ICTデバイス研究開発推進センターの設備提供による支援を受けて行われました。

研究成果
 1.スペーサーレス基板一体型メタサーフェス吸収体の開発
 研究チームは、シリコン基板そのものを吸収体の一部として利用する、新しいメタサーフェス吸収体を開発しました。具体的には、シリコン基板をTHz波の波長より十分小さい微細凹凸構造に加工しました。作製した構造では、段差の深さは約1マイクロメートル(μm)で、上下の表面にそれぞれ厚さ150ナノメートル(nm)のアルミ薄膜を形成しました。これにより、追加のスペーサー層なしで、従来の金属-絶縁体-金属型吸収体と同様の共振吸収機能を持つ構造を実現しました。
 この構造では、シリコン基板そのものがTHz波の吸収を支える機能的な誘電体領域として働きます。そのため、従来のMIM型吸収体で必要だった追加のスペーサー層を用いる必要がありません。研究チームは、この構造をスペーサーレス基板一体型メタサーフェス(SIM)吸収体と名付けました(図1)。

図 1 スペーサーレス基板一体型メタサーフェス(SIM)吸収体の構造模式図。(a)凹型SIM吸収体、(b)凸型SIM吸収体。
(出典:Zhao et al., Advanced Optical Materials, e71328 (2026), Fig. 1a-b. © 2026 The Author(s). CC BY 4.0. DOI: https://doi.org/10.1002/adom.71328)

 2.高効率THz吸収の実証
 電磁界シミュレーションの結果、SIM吸収体はTHz波を高効率に吸収できることが示されました。特に、SIM吸収体では最大98%以上のTHz吸収が得られることが分かりました。また、金属パッチの長さ、パッチ間隔、エッチング深さを変えることで、吸収する周波数を調整できることも確認されました。
 さらに、作製した試料をTHz時間領域分光法により測定したところ、設計した周波数帯(1.8 THz)において約95%のTHz吸収を実験的に確認しました。設計した吸収ピーク付近では、測定で得られたピーク周波数とピーク吸収率がシミュレーションと一致しており、本構造が高効率なTHz吸収体として機能することが実証されました(図2)。

     

図2 SIM吸収体のTHz吸収スペクトル。シミュレーション(左)と測定結果(右)の比較。測定結果(右)の1.8 THzのところで約95%の高い吸収率を示しています。
(出典:Zhao et al., Advanced Optical Materials, e71328 (2026), Fig. 5a-b. © 2026 The Author(s). CC BY 4.0. DOI: https://doi.org/10.1002/adom.71328)

今後の展開
 今後は、本SIM吸収体をMEMSボロメータなどのTHz検出器に実際に組み込み、吸収効率の向上が検出感度、応答速度、機械的安定性に与える効果を検証していきます。特に、本構造では、吸収部表面に微細な凹凸構造を形成し、その上に金属膜を一層成膜するだけで高いTHz吸収を実現できるため、吸収体として追加される実質的な厚みは数十ナノメートル程度に抑えられると期待されます。さらに、吸収周波数を選択できる設計、多帯域型・広帯域型の設計、およびセンサーアレイ化を進めることで、小型・高性能な次世代THz・赤外センシング基盤としての発展を目指します。

各機関の役割分担
・東京農工大学:デバイスの設計・作製、シミュレーション、実験データ取得・解析
・情報通信研究機構(NICT):デバイスの作製

用語解説
注1)テラヘルツ(THz)波
光と電波の中間の周波数帯域に位置する電磁波。物を壊さずに調べる検査や、材料評価、セキュリティ検査などでの利用が期待される。
注2)メタサーフェス
表面に微細な構造を並べることで、電磁波の吸収、反射、透過などを制御する人工的な表面。
注3)スペーサー層
金属層と金属層の間に入れる薄い絶縁体の層。高い吸収には役立つが、検出器に組み込む際には、追加の厚み、熱的・機械的な負荷、残留応力の原因にもなる。
注4)テラヘルツ(THz)検出器
THz波を検出・計測するセンサー。量子型、電波型、熱型などに分類される。
注5)MEMSボロメータ
ボロメータは電磁波を吸収したときに生じる温度変化を利用して検出するセンサーである。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型は、半導体微細加工技術を用いて小型化した検出器の一例。

 

◆研究に関する問い合わせ◆
 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院
 先端電気電子部門 准教授
 張 亜(ちゃん や)
 TEL/FAX:042-388-7663
 E-mail:zhangya(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
 Beyond Connectivity研究開発推進ユニット
 テラヘルツ研究センター
 テラヘルツ連携研究室 研究マネージャー
 諸橋 功(もろはし いさお)
 E-mail:thz-lab-inquiry(ここに@を入れてください)ml.nict.go.jp

◆報道に関する問い合わせ◆
 国立大学法人東京農工大学 
 総務課広報室
 E-mail:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
 広報部 報道室
 E-mail:publicity(ここに@を入れてください)nict.go.jp
 

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