光と熱の「ハイブリッド給電」を可能にする新技術を開発 ~熱電変換による次世代IoT電源への展開に期待~
光と熱の「ハイブリッド給電」を可能にする新技術を開発
~熱電変換による次世代IoT電源への展開に期待~
国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院の久保若奈教授、工学府知能情報システム工学専攻博士前期課程の爲廣英純氏(当時)、同専攻博士前期課程の上野紅奈氏らは、レーザー光を熱に変換する干渉型薄膜吸収体を搭載した熱電デバイスにより、新たな光ワイヤレス給電技術を実証しました。
開発した無線給電機構は、均一な熱輻射環境下で環境発電を可能とするメタマテリアル熱電変換技術と組み合わせることで、データ通信機器からIoTデバイスに至るまで、多彩な機器をメンテナンスフリーで駆動できる次世代給電システムとしての展開が期待されます。
本研究成果は、IEEE Journal on Wireless Power Technologies(4月8日付)に掲載されました。
論文タイトル:Optical Wireless Power Transmission using Thermoelectric Device with Thin-Film Absorber
URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/11477105/
現状
光ワイヤレス給電(Optical Wireless Power Transmission: OWPT)は、レーザー光やLED光などの光エネルギーを用いて電力を非接触で供給する技術であり、IoTデバイス等を離れた場所から駆動させるための有望な技術として注目されています。現在、受光部には主に太陽電池(光電変換)が用いられていますが、太陽電池は光が照射された面のみが発電に寄与するため、受光面全体に光を当てる精密な制御が必要でした。すなわち、限られた照射条件下で、いかに効率的かつ柔軟にエネルギーを回収するかという問いは、次世代のワイヤレス給電プラットフォーム構築において大きな壁となっています。
研究体制
本研究は、東京農工大学大学院工学研究院知能情報システム工学部門の久保若奈教授、工学府知能情報システム工学専攻博士前期課程の爲廣英純氏(当時)、上野紅奈氏らの共同研究チームで実施しました。この研究は科学研究費助成事業学術変革盤研究(A)(JP24H02232)、および日立財団(1574)からの支援によって行われました。
研究成果
本研究では、薄膜吸収体を搭載した熱電デバイスを用いた新たな光ワイヤレス給電方式を提案し、その特性を実験的に検証しました(図1)。本手法では、入射した光を薄膜吸収体によって一度熱に変換し、その温度差を利用して熱電発電するため、従来の光電変換とは異なる動作原理を有しています。波長450 nmのレーザー光(出力1 W)を用いた給電実験において、出力電力2.0 mW、変換効率0.2%を達成しました(図2)。この出力電力は、IoTデバイスを駆動させるのに十分な発電量といえます。さらに重要な結果として、光をデバイスの一部にのみ照射する微小領域への照射においても、発生した局所的な熱が吸収体基板全体に拡散する現象を確認しました。これにより、直接光が当たっていない領域を含む複数の熱電素子が同時に発電に寄与することが明らかとなりました。このような熱拡散を利用した発電は太陽電池では実現できない特性であり、受光面全体への精密な光照射を必要とせずに効率的な電力取得を可能にします。本研究により、熱電デバイスを用いたOWPTの実現可能性と、その独自の優位性が示されました。
今後の展開
本技術は、均一な熱輻射環境で発電するメタマテリアル熱電変換[1–5]と統合することで、画期的なハイブリッド給電システムへ展開できる可能性があります。近年、センサーの高機能化に伴い、温度や振動などを常時モニタリングするための低消費電力動作が求められる一方で、データ通信時には一時的に高い電力が必要となります。このように、平常時には低電力、通信時には高出力という相反する電力要求をいかに両立させるかが課題となっています。提案するシステムは、この課題を解決する新しい電源技術として期待されます。このシステムでは、メタマテリアル熱電変換がIoTセンサーの自律駆動に必要な微弱電力を常時供給し、データの遠隔送信時など大きな電力が必要な場面では、本研究のOWPTによって追加のエネルギーを一時的に供給します (図3)。このように、独立した2つの熱電メカニズムをシステムレベルで統合するデュアルデバイスは、低電力から高電力までをカバーする汎用性の高いエネルギープラットフォームとして、次世代の自立型IoTデバイスの普及を加速させると期待されます。
参考文献・特許
[1] S. Saito, A. Yamamoto, Yu-Jung Lu, T. Tanaka, and W. Kubo*, “Artificial thermal flow control on mono-leg thermoelectric device”, Discover Nano, 20, 44 (2025).
[2] R. Nakayama, S. Saito, T. Tanaka, and W. Kubo*, “Metasurface absorber enhanced thermoelectric conversion”, Nanophotonics, 13, 1361-1368, 2024.
[3] 久保若奈, “メタマテリアルによる熱電変換”, 応用物理 93 (9), 531, 2024.
[4] 久保若奈 “メタマテリアル熱電変換とその展開”, Optronics, 514 (10), 98-102, 2024.
[5] 久保若奈 ”均一な熱輻射環境における熱電発電を可能にするメタマテリアル熱電変換” 電気計算 2026年4月号 20-25, 2026.4
図1 (a) 薄膜吸収体の模式図,(b, c) 断面および平面の走査型電子顕微鏡(SEM)像。(b) および (c) のスケールバーはそれぞれ 300 nmおよび 100 nm を示す。(d) 薄膜吸収体の吸収スペクトルの測定値(赤線)と計算値(黒線)の比較。
(図はIEEE Journal on Wireless Power Technologies(2026),DOI: 10.1109/JWPT.2026.3682232より改変)
図2 出力電力の、450 nmの波長の光を照射した際における、薄膜吸収体電極(赤)および対照電極(黒)での熱電デバイスの発生特性。
(図はIEEE Journal on Wireless Power Technologies(2026),DOI: 10.1109/JWPT.2026.3682232より改変)
図3 メタマテリアル熱電変換と熱電型OWPTを組み合わせたハイブリッドシステムの概念図。24時間発電およびスケーラブルなIoT電源供給を実現する。
(a) 環境センシング時には,一様な熱放射環境下において,メタマテリアル熱電変換によってIoTセンサが駆動される。(b) 無線データ伝送時には,熱電型OWPTに光を入射させることで,無線通信デバイスを駆動し,データの無線送信を行う。(c) メタマテリアル熱電変換と薄膜吸収体を用いたOWPTを組み合わせたハイブリッドシステムの統合方法の模式図。熱電素子の両側にそれぞれの吸収体を配置する構成を想定している。
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院工学研究院
知能情報システム工学部門 教授
久保 若奈(くぼ わかな)
Tel:042-388-7314
E-mail:w-kubo(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学総務課広報室
E-mail:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
- 東京農工大学 久保若奈教授 研究者プロフィール
- 東京農工大学 久保若奈教授 研究室WEBサイト
- 久保若奈教授が所属する 東京農工大学工学部知能情報システム工学科