米国・ハワイ州における陸稲栽培ポテンシャルの検証 -高収量の秘密は強い日射と温暖な気温-

米国・ハワイ州における陸稲栽培ポテンシャルの検証
-高収量の秘密は強い日射と温暖な気温-

 東京農工大学大学院農学府の本田爽太郎特任助教、堀内尚美特任助教、滝明花音大学院生、田中一生産学官連携研究員、大学院農学研究院農業環境工学部門の山下恵教授、大学院環境資源物質科学部門の吉田誠教授、大学院生物生産科学部門の大川泰一郎教授、大学院工学研究院先端機械システム部門の山中晃徳教授、大学院グローバルイノベーション研究院の安達俊輔教授らの研究グループは、ハワイ大学マノア校College of Tropical Agriculture and Human Resilience (CTAHR) のTomoaki Miura教授、Jonathan L. Deenik教授と共同で、米国ハワイ州において約60年ぶりの稲作を実施しました。カウアイ島カパアに位置する農家圃場を借用し、日本の代表的品種「コシヒカリ」と「ひとめぼれ」を陸稲条件で栽培したところ、生育期間は日本に比べて約1か月間短くなった一方、収量は日本国内で栽培した陸稲と同程度でした。さらに、ハワイで収穫したコメは大粒で、品質は日本の本学圃場で栽培した陸稲を上回っていました。この理由として、ハワイにおける強い日射と温暖な気温が関与していることが子実特性と環境データとの関係から示唆されました。本成果は、全米のなかでもコメの需要が特に高く、かつ移入依存度の高いハワイにおける食料自給率の向上や、気候変動下における新たな稲作モデルの構築に貢献することが期待されます。

本研究成果は、Frontiers in Agronomy(5月4日付)に掲載されました。
論文タイトル:Comparative analysis of yield formation and grain quality of Japanese rice cultivars under upland cultivations in Hawaiʻi and Japan
URL:https://doi.org/10.3389/fagro.2026.1826804 

背景
 ハワイ州は、コメを主要な主食の一つとしながら、その需要のほぼ100%を州外からの供給に頼っています。孤立した島嶼地域であるハワイにとって、気候変動や物流の寸断は食料供給を脅かすリスクであり、州内における食料自給率の向上が求められています。かつてハワイでは大規模な稲作が行われていましたが、水資源の競合やコストの問題などから1970年代に商業的な稲作は完全に姿を消しました。また、かつて主要産業であったサトウキビやパイナップルのプランテーションも衰退し、現在のハワイ州には数千ha規模におよぶ未利用農地が広がっており、生活環境の維持や防災の観点からも問題となっています。
 そこで本研究グループは、自然環境に配慮したハワイに適した稲作の方法を検討し、現地における稲作文化を復活させることを最終目的に定めました。このとき、大量の水を必要とする「水田稲作」ではなく、節水型で、基盤整備コストが低い「陸稲栽培」に着目しました。
 2025年3月には、ハワイにおいて日本の代表的なイネ品種である「コシヒカリ」と「ひとめぼれ」の栽培を開始し、日本品種の陸稲栽培が可能であることを実証しています(参照1)。
 本研究では、これらを踏まえ、ハワイの気候条件がイネの生育や収量、そして品質にどのような影響を与えるのかを解析しました。

研究体制
 本研究は、東京農工大学(農学府・農学研究院・工学研究院・グローバルイノベーション研究院)とハワイ大学マノア校(College of Tropical Agriculture and Human Resilience, CTAHR)による国際共同研究として実施されました。具体的には、ハワイ州カウアイ島の現地農家の協力による実証圃場と、比較対象として東京農工大学内の実験圃場の両地点において、イネの栽培試験および環境データのモニタリングを行いました。

研究成果
 本研究の結果、ハワイでの陸稲栽培における収量は3.79—4.01 t ha−1に達し、日本国内での栽培と遜色ない水準であることを実証しました。特筆すべきは、玄米の外観品質が極めて優れていた点です。日本の陸稲に比較してハワイ産の玄米は大粒で、かつ割れや濁りのない「整粒」の割合が高く、コメが白く濁る「白未熟粒」の発生も大幅に抑制されていることが確認されました。この優れた品質をもたらした要因として、ハワイ特有の気象条件が深く関わっていることを明らかにしました。ハワイでは日本よりも日照時間が短いため、短日植物であるイネでは出穂が促進されます。その結果、生育期間全体は約1か月短縮されましたが、出穂後(穂が出てから収穫まで)に限定すると、豊富で強い日射量と適度に温暖な気温が維持されていました。この環境下では1穂あたりの粒数が適度に制限されるため、光合成で作られた栄養が一粒一粒に効率よく蓄積され、大粒で見た目にも美しい高品質なコメの生産につながったと考えられます。

今後の展開
 本研究により、ハワイでの陸稲栽培が「量」と「質」の両面で優れた可能性を持つことが裏付けられました。今後は、より低コストで安定した生産技術の確立を目指すとともに、食味試験を通じたハワイ産日本米のブランド化や地産地消の推進、学校給食への導入を通じた食育への活用を検討します。また、本知見は、ハワイと同様に水資源の確保が課題となっている他の島嶼地域や、温暖化が進む地域における持続可能な稲作モデルの先駆けとなるものです。

研究費
 本研究は、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS, JPJS00420230003)、共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT, JPMJPF2104)、JSPS科学研究費補助金(JP24K01740, JP24K01741, JP25K23638)、USDA NIFA Hatch project (HAW01143-H) の支援を受けたものです。

参照プレスリリース
参照1)2025年12月5日プレスリリース「米国・ハワイ州における稲作復活に向けたプロジェクトを開始 —ハワイでコシヒカリの陸稲栽培に成功—」https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2025/20251205_01.html 



用語解説
注1)陸稲(りくとう・おかぼ)栽培
水田ではなく、畑に直接種をまいて育てる稲作の方法。大量の水を必要とする水田稲作に比べ、節水が可能で、既存の畑地を利用できるため導入のハードルが低いという利点がある。

図1:播種から約1か月後の生育状況
ハワイの強い日射と温暖な気温に恵まれて順調に育つ陸稲。本試験では、畑に直接種をまいて育てる「陸稲栽培」を行いました。

図2:現地で収穫された日本のイネ
カウアイ島の農家圃場で収穫された直後の様子。ハワイの豊かな気候のもと、一粒一粒がしっかりと実っていることが分かります。

図3:ハワイ産と日本産の玄米の外観比較
本試験で収穫された「コシヒカリ」と「ひとめぼれ」。ハワイ産の陸稲は大粒で、白く濁った粒が少なく、高い透明感を持つのが特長です。

 

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院
 教授
 安達 俊輔(あだち しゅんすけ)
  TEL:042-367-5671
  E-mail:adachi(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp

   

 

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