〔2026年10月5日リリース〕数は変わらず、中身が変わる ―大量捕獲がツキノワグマの年齢構成に及ぼす影響―
数は変わらず、中身が変わる
―大量捕獲がツキノワグマの年齢構成に及ぼす影響―
ポイント
- 人間の生活圏へのツキノワグマの大量出没に伴う大量捕獲(駆除)が、山のツキノワグマ(以下、クマ)の年齢構成にどのように影響するのかを調べました。
- メスを対象に、捕獲されたクマの年齢と捕獲された年の情報をもとに、山に生息するクマの年齢構成を過去17年にわたって復元しました。
- 大量捕獲が繰り返されることで、もともと捕獲される割合の高い高年齢のメスが多く失われていました。その結果、生息数は大きく変わらない一方で、 繁殖の中心を担う7歳以上のメスの割合が低下し、若い個体の割合が増加するという年齢構成の変化が明らかになりました。
- クマの個体群を持続的に管理するためには、生息数だけでなく、生息するクマの年齢構成にも目を向けることの重要性を示しました。
概要
クマは、人との軋轢を抑えつつ地域個体群を維持するという、管理上の幅が狭い生きものですが、年齢構成など基本的な情報が十分でなく、生息数だけでは捕獲の影響を十分に捉えられないことが課題でした。国立環境研究所の栃木香帆子特別研究員、東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介教授らの国際共同研究チームは、日本の本州中部に生息するクマの越後・三国個体群を対象に、過去17年間にわたるメスの個体群(注1)の年齢構成の推移を再現することで、数年に一度の頻度で繰り返されてきた大量出没に伴う大量捕獲が年齢構成に与えてきた影響を定量的に評価しました。
その結果、大量出没時にはメスのクマは加齢とともに捕獲される割合が高くなり、大量捕獲が繰り返されるほど、繁殖の中心を担うとされる一定の年齢以上のメスが多く失われることが分かりました。17年間でこの地域に生息するとされるメスの生息数そのものは大きく変化していないにもかかわらず、7歳以上の高年齢のメスの割合が減り、若い個体の割合が増加するという年齢構成の変化が、10年以上かけて徐々に進行してきたことが明らかになりました。この結果は、クマの個体群を管理していく上で、生息数という単一の指標だけでなく、年齢構成といった詳細な情報も考慮してモニタリングすることの重要性を示しています。
本研究は、国立環境研究所の栃木香帆子特別研究員(研究当時、東京農工大学大学院連合農学研究科)、東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介教授(兼任 東京農工大学農学部附属野生動物管理教育センター・センター長)、国立環境研究所の深澤圭太主幹研究員、米国イリノイ大学のMaximilian L. Allen(マクシミリアン・エル・アレン)博士(兼任 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院・特任准教授)、群馬県立自然史博物館の姉崎智子主幹(学芸員)、長野県環境保全研究所の黒江美紗子研究員、栃木県林業センターの丸山哲也氏、ミュージアムパーク茨城県自然博物館の山﨑晃司館長(研究当時、東京農業大学地域環境科学部)らによって実施されました。
本研究成果は、『Global Ecology and Conservation』(2026年7月23日付)に掲載されました。
研究の背景
野生動物の保全や管理の現場では、対象となる動物が何頭生息し、それらが増減しているのか、といった個体群の健全性を示す生息数の情報が、どの対策を実行するかを選択する際の判断材料の一つになります。しかし、個体群の健全性を示す情報は生息数(総数)だけではありません。どの年齢の個体が、どの程度生息しているのか、という年齢構成もまた、繁殖に参加できる個体の割合を示すことにもつながり、個体群の存続に大きく影響します。とくにクマのように寿命が長く、繁殖の開始が遅く、繁殖間隔も長い動物では、数年程度の生息数の増減を見るだけでは、実際に山の中で起きている現象を見逃してしまう恐れがあります。
日本では2000年代以降、秋になるとクマが人間の生活圏に大量に出没する現象が、数年おきに、各地で繰り返され(以後、大量出没年)、そのたびに大量の捕獲(駆除)が行われてきました。大量出没年には、全国でそれ以外の年(以降、平常年)の数倍以上の数のクマが捕獲されることも珍しくありません。こうした出没は、秋の主要なクマの食物であるブナ科樹木の果実(ドングリ)の凶作(注2)に伴う、クマの行動の変化が引き金の一つであることが知られています。
現在の日本では、捕獲されるクマのほとんどは、人里への出没、農業被害や問題行動などによって人間社会に被害を及ぼす恐れがあると判断された場合に実施される、許可捕獲(いわゆる、有害駆除など)によります。一般に、クマは行動のパターンや行動圏(注3)の広さは個体によって異なるため、被害を及ぼす個体は特定の属性(警戒心が薄い亜成獣(注4)など)であることが多いとも言われます。しかし、大量出没年には平常年以上に多くの数のクマが捕獲されることから、平常年とは違った特徴の個体(性別や年齢)が多く捕獲されている可能性があります。
そこで本研究では、長期にわたって行政が大規模に収集してきた捕獲個体の年齢情報と、野外の追跡・観察調査から得られた繁殖や死亡に関する情報を組み合わせることで、17年におよぶクマのメス個体群の年齢構成とその変化を復元し、復元された個体群の年齢構成に大量捕獲が及ぼしてきた影響を定量的に評価することを目的としました。
研究方法と成果
日本の本州中部に生息する越後・三国個体群(図1)の長野県、群馬県、栃木県を対象範囲とし、2001年から2017年にこれら3県で捕獲され、3県によって収集されたメス(計1478頭)の捕獲数、捕獲年と捕獲時の年齢の情報を用いました。さらに、同じ個体群で行われている研究プロジェクトで得られたクマの繁殖率と自然死亡率の推定値(関連プレスリリース参照)を事前情報として組み込み、age-at-harvest model(注5)を構築し、各年・各年齢のメスの生息数と捕獲のされやすさ(捕獲確率)を推定しました。
まず、どの年がこの地域の大量出没年に当たるのかを、その年に捕獲される個体の割合を推定するモデルによって決定しました。その結果、この地域では2006年、2010年、2012年、2014年、2016年、2017年の6年が大量出没年と推定されました。また、モデルで推定された各年が大量出没年である確率は、人身被害の被害者数が多い年ほど、ブナ科樹木の果実(ドングリ)が凶作の年ほど高くなっていました。
次に、大量出没年と平常年の捕獲確率を比較したところ、大量出没年の捕獲確率はすべての年齢層で平常年のおよそ2〜4倍でしたが、その増加の程度は年齢によってほとんど変わりませんでした(図2)。つまり、大量出没年の捕獲そのものは特定の年齢層の個体に偏っているわけではなく、すべての年齢層で同じように捕獲圧がかかることを示しています。一方で、捕獲確率の年齢の偏りは平常年の時点から存在しており、高年齢のメスほど高いことがわかりました。実際、7歳以上のメスの捕獲確率は0~6歳のおよそ2倍を示し、この傾向は17年間すべての年で確認されました。このように、もともと高年齢ほど高かった捕獲確率が、大量出没年にさらに高まることで、生息数が限られ、繁殖の中心を担っている高年齢のメスが、結果として高い割合で失われることになります。
さらに、実際の個体群と、大量出没に伴う捕獲圧の上昇がなかったと仮定した場合の個体群について、生息数と年齢構成を比較しました。推定される生息数は調査期間を通じて大きくは変わらず、実際の17年間は個体群の増加率(注6)は0.98とわずかな減少傾向にとどまりましたが、大量出没に伴う大量捕獲がなかったと仮定した場合には1.02とわずかな増加傾向になると推定されました。それに対して、年齢構成には明確な違いが現れました。実際の個体群では7歳以上の高年齢の個体の割合が減少し、代わりに1~6歳の個体の割合が増加しました。この変化は、初めて大量出没が発生した2006年の翌年の2007年ごろから徐々に現れ、2015~2016年にかけて統計的に有意になり、時間の経過とともに傾向が強くなりました。高年齢の個体、つまり繁殖可能な個体が減ったことに伴って0歳の子の頭数も減少する傾向も認められましたが、0歳の子が個体群に占める割合の低下が長期的に続く変化かどうかは、今回の解析からは明らかになりませんでした。また、今後の予測される安定齢構成(注7)を計算すると、7歳以上のメスの割合は、大量捕獲がないと想定した場合には23.8%となるのに対し、これからも定期的に大量捕獲が発生すると仮定した場合には12.5%にまで低下すると推定されました(図3)。
越後・三国個体群のメスは平均5.4歳で初産を迎え、その後は約2.4年間隔で20歳ごろまで繁殖を続けることが分かっています(関連プレスリリース参照)。7歳以上という年齢層は、まさに繁殖の中心を担う世代にあたります。生息数の総数だけを見ていては分からない年齢構成の変化が、繁殖の担い手である個体が失われることを通じて、10年以上かけて進んでいたことになります。
今後の展開
クマの大量出没時には、人命の安全安心を守る上でも出没後の速やかな個体の捕獲は避けては通れません。そのため、こうした捕獲が個体群にどのような影響を及ぼすのかを把握しておくことも重要です。本研究は、大量出没に伴う大量捕獲が繰り返されることで個体群の年齢構成を変化させうることを、ツキノワグマで初めて定量的に示したものです。この結果は、これからのクマの管理において何をモニタリングすべきか、という点に重要な示唆を与えます。
現在、日本のクマの管理計画における捕獲数上限は、主に推定生息数に基づいて設定されており、年齢や性別といった個体群の中身に関する情報までは考慮されていません。しかし、本研究の結果は、生息数が大きく変わらない場合でも、捕獲の仕方によっては繁殖可能な年齢のメスの割合が徐々に低下しうることを示しました。現場で年齢や性別を選んで捕獲することは実際には困難であるからこそ、日ごろから捕獲個体の性齢といった属性情報を把握することが必要となります。それによって、生息数に占める繁殖可能な年齢のメスの割合などを、個体群の状態をモニタリングする指標の一つとすることができます。
その基盤となるのが、捕獲個体からの試料の継続的かつ体系的な収集です。たとえば、捕獲個体から継続的に歯を採取して年輪から年齢を推定し、その情報を蓄積することは、その地域に残る個体群の年齢構成とその変化をとらえるための重要な基礎情報となります。今後、行政・研究機関・現場の関係者が連携してこうした情報を蓄積し続けることが、人とクマのあつれきを軽減しながら、健全なクマの個体群を持続的に管理していくうえで不可欠です。
なお、本研究で用いた個体は、主に人間の生活圏に近い地域で捕獲された個体がほとんどです。そのため、本結果は個体群の一部の状況を示している可能性がある点にも留意が必要です。また、推定された生息数の絶対値には大きな幅があるため、生息数の値そのものよりも年ごとの相対的な変化(増減)に着目することが適切と考えられます。今後、分布の中心部に生息するクマまで含めて個体群全体の姿をとらえるには、カメラトラップやヘアトラップ、GPS追跡など、捕獲によらない調査も組み合わせることが求められます。
本研究で用いたモデルは、どこでも入手可能な捕獲個体から採取したサンプルを用いる点で他の地域個体群に応用することができます。クマに限らず寿命の長い動物では、個体群への撹乱の影響が数十年にわたって残ることがあります。人とクマのあつれきを緩和するための捕獲が意図しない影響をもたらさないよう、その先に生じる影響を見据えながら管理を進めていく必要があります。
図1:日本におけるツキノワグマの分布域(左の図)と越後・三国個体群の位置図(右の図)。
左右の図の黒色の範囲は2017年の分布範囲を示します。右の図のうすい赤色の範囲は越後・三国個体群の全体の範囲、赤色の枠は本研究での対象範囲(長野県・群馬県・栃木県)を示します。
図2:メスのツキノワグマの年・年齢ごとの捕獲確率の違い。
緑色が平常年11年分、黄色が大量出没年6年分の捕獲確率の平均値を示します。
謝辞
本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS科研費 JP20J21115、JP23K26942)、および環境省・独立行政法人環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20254002)の支援を受けて実施しました。
用語解説
注1)ある地域における同じ種の生物個体の集まり。
注2)野生の樹木では、果実(種子)の生産量が年によって大きく変動する。とくにブナ科の樹木では、広い範囲の個体の間で豊作・凶作の年が同調しやすい。
注3)ある個体が普段活動する場所・空間。
注4)動物の成長段階の一つで、子ども(幼獣)を脱したものの、まだ完全、特に生理的に大人(成獣)にはなっていない若い状態のこと。
注5)捕獲個体の年齢構成が年ごとにどう変化したかをもとに、生息数や年齢ごとの捕獲されやすさを逆算する統計モデル。捕獲されて個体群から失われた個体の記録から、その地域に生きて残っていた個体群の姿を年ごとにさかのぼって導き出すことができる。
注6)1年間で生息数が何倍になるかを表す値。1より大きければ増加、1より小さければ減少を意味する。
注7)現在の繁殖率・死亡率・捕獲確率がそのまま続いた場合に、長期的に落ち着くと予測される年齢構成。
関連プレスリリース
2023年8月22日リリース「メスの野生ツキノワグマの一生を探る ~個体群レベルの繁殖と死亡を定量的に評価~」
タイトル:Increased culling reshapes the age structure of female Asian black bears through the loss of older age classes
著者:Kahoko Tochigi, Keita Fukasawa, Maximilian L. Allen, Tomoko Anezaki, Misako Kuroe, Tetsuya Maruyama, Koji Yamazaki, Shinsuke Koike
掲載誌:Global Ecology and Conservation
掲載日:2026年7月23日
DOI:10.1016/j.gecco.2026.e04345
URL:https://doi.org/10.1016/j.gecco.2026.e04345
◆研究に関する問い合わせ先◆
東京農工大学 大学院農学研究院自然環境保全学部門 教授
小池 伸介(こいけ しんすけ)
TEL:042-367-5647
E-mail:koikes(ここに@をいれてください)cc.tuat.ac.jp
◆報道に関する問い合わせ先◆
東京農工大学 総務課広報室
E-mail:koho2(ここに@をいれてください)cc.tuat.ac.jp
国立環境研究所 企画部広報対話室
E-mail:kouhou0(ここに@をいれてください)nies.go.jp
ミュージアムパーク茨城県自然博物館 企画課
E-mail:webmaster(ここに@をいれてください)nat.museum.ibk.ed.jp
長野県環境保全研究所 自然環境部(飯綱庁舎) 浜田、黒江
TEL:026-239-1031(代表)
E-mail:kanken-shizen(ここに@をいれてください)pref.nagano.lg.jp
プレスリリース(PDF:1.3MB)
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- 東京農工大学 小池伸介教授 研究者プロフィール
- 東京農工大学 小池伸介教授 研究室WEBサイト
- 小池伸介教授が所属する 東京農工大学農学部地域生態システム学科