超音波で骨粗鬆症による骨の質的変化を検出 ―音響誘起電磁法でラット大腿骨の圧電信号低下を確認―

超音波で骨粗鬆症による骨の質的変化を検出
―音響誘起電磁法でラット大腿骨の圧電信号低下を確認―

本研究のポイント 

  • 超音波照射によって骨コラーゲンに生じる微弱な電気分極(圧電信号)を捉えるASEM法を用い、ラット大腿骨の骨粗鬆症に伴う変化を検出しました。 
  • 2種類のラット骨粗鬆症モデルを用いて検証し、骨量が低下した大腿骨では圧電信号も低下することを確認しました。
  • 本成果により、ASEM法を、骨密度だけでは捉えにくいコラーゲンに関わる「骨質」を評価する新しい非侵襲診断技術へ応用できる可能性が示されました。

概要
 東京農工大学大学院工学研究院生体医用工学部門の生嶋健司教授(ASEMtech株式会社代表取締役兼CEO)、日本シグマックス株式会社の小島良績研究員、ASEMtech株式会社代表取締役副社長の新実信夫氏、東北大学大学院医学系研究科の矢部裕氏、同研究科およびAnylom株式会社代表取締役の萩原嘉廣氏らの研究グループは、超音波照射で骨に生じる微弱な電気分極(圧電信号)を検出する音響誘起電磁法(ASEM法)注1)を用い、ラット大腿骨の骨粗鬆症に伴う変化を捉えました。マイクロCTで骨量低下を確認した部位では、圧電信号が健側より有意に低下しました。本成果は、骨密度とは異なる骨の質的情報を非侵襲で評価する技術の基盤となり、将来の骨折リスク評価の高度化に寄与することが期待されます。
 本研究成果は、「Ultrasound in Medicine & Biology」(2026年9月22日付)に掲載されました。

研究の背景
 日本の骨粗鬆症患者は約1,590万人と推定されており、超高齢社会において骨折の予防は重要な課題です。2022年の国民生活基礎調査では、「骨折・転倒」は要支援・要介護となる原因の13.9%を占め、認知症、脳血管疾患に次ぐ第3位となっています。
 骨の強さは、骨塩量を表す「骨密度」と、コラーゲン線維の状態や微細構造などから成る「骨質注2)」の両方で決まります。現在、骨粗鬆症の診断にはX線による骨密度測定が広く用いられていますが、骨折リスクに関わる骨質を簡便かつ非侵襲的に評価する方法は、いまだ十分に確立されていません。骨のコラーゲンには、力が加わると電気分極が生じる圧電性があります。研究グループは、この性質を利用して骨質の変化を捉えられるか検証しました。

研究成果
 ASEM法は、超音波照射によって骨コラーゲンの圧電性に由来する電気分極(圧電信号)を生じさせ、その微弱な電気信号を共振アンテナで検出する手法です。骨に電極を取り付けることなく、超音波の照射位置を走査することにより、信号分布を画像化できます。測定原理を図1に示します。

図1:ASEM法の原理(提供:ASEMtech株式会社)

図2:膝関節不動化モデルにおける対照側(左)と不動化側(右)の大腿骨の実験結果。上から外観写真、超音波エコー画像、ASEM画像を示す(出典:下記「論文情報」のFig. 6(a)を一部日本語化。© 2026 The Authors. CC BY 4.0)。

 本研究では、糖尿病モデルと、ラットの片側膝関節を12週間固定した膝関節不動化モデルを用いました。マイクロCTで骨粗鬆症変化を確認し、大腿骨後面のASEM信号を測定したところ、糖尿病モデルでは骨幹端部と骨幹部、膝関節不動化モデルでは遠位骨端部と骨幹端部で信号が有意に低下しました。
 通常の超音波エコー像では対照側と不動化側の違いが明瞭でない一方、ASEM画像では不動化側の信号低下が確認されました(図2)。また、糖尿病モデルでは、脱灰後も骨幹端部の信号低下が認められました。これらの結果は、ASEM法が骨コラーゲンに関わる骨質の変化を検出できる可能性を示しています。

今後の展開
 超高齢社会では、骨粗鬆症による骨折を未然に防ぎ、高齢者の自立した生活と健康寿命を守ることが重要です。骨粗鬆症は自覚症状に乏しく、骨折して初めて気付くことも多いため、骨折リスクを早期に把握し、予防や治療につなげる検査が求められています。
 ASEM法により、従来の骨密度検査では捉えにくいコラーゲンに関わる骨質を評価できれば、骨折リスクをより多面的に判断できる可能性があります。今後は、ASEM信号とコラーゲンの状態や骨強度との関係を明らかにするとともに、生体内で安定して測定できる装置・解析法を開発し、ヒトへの応用を目指します。

謝辞
本研究は、JSPS科研費 JP18K09092およびJP22K19912の助成を受けて実施しました。

用語解説
注1)音響誘起電磁法(ASEM法)
音波によって物質内部に誘起される電気・磁気分極を、共振アンテナで検出して画像化する
方法。本研究では、骨コラーゲンの圧電性に由来する電気分極を測定した。
注2)骨質
骨強度を決める要素のうち、骨密度だけでは表しきれない骨の性質。コラーゲン線維の量、配向、構造や架橋、骨の微細構造などが含まれる。

論文情報
タイトル:Detection of Osteoporotic Changes in Rat Femoral Bone Using the Acoustically Stimulated Electromagnetic (ASEM) Method
著者:Yoshitsugu Kojima, Nobuo Niimi, Kenji Ikushima, Yutaka Yabe, Yoshihiro Hagiwara
掲載誌:Ultrasound in Medicine & Biology
掲載日:2026年9月22日
DOI:10.1016/j.ultrasmedbio.2026.08.019
URL:https://www.umbjournal.org/article/S0301-5629(26)00343-1/fulltext

 
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学 大学院工学研究院 生体医用工学部門
教授 生嶋 健司(いくしま けんじ)
E-mail:ikushima(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

関連リンク(別ウィンドウで開きます)

CONTACT