クマの出没が増えるなか、地域の人々は何を感じているのか? 〜秋田市におけるツキノワグマとクマ対策への意識調査〜
クマの出没が増えるなか、地域の人々は何を感じているのか?
〜秋田市におけるツキノワグマとクマ対策への意識調査〜
本研究のポイント
- 全国的にもツキノワグマの市街地での出没が多発している秋田市でインタビュー調査を行い、クマ対策に関わっている方や住民の方々のツキノワグマに対する印象や、クマ対策がどのように受け止められているかを分析しました。
- ツキノワグマが人の生活圏に出没するようになった背景には、気候変動や餌資源の豊凶作など生態学的な要因に加え、人口減少や農地の放棄など社会的要因があると、住民の方々は認識していました。
- 秋田市内でも中心部と郊外の住民の間の認識の差、また、県外、特に「クマが出ない都会の人々」との認識の差に対する発言が多く見受けられました。
- 出没地域における住民の日常がどのような影響を受けているかを把握することは、今後クマ対策を実施する上で重要となります。
概要
東京農工大学農学研究院自然環境保全学部門 宮下絵夢フェリチタス准教授とオックスフォード大学生物学部WildCRU 宮崎彩響子博士課程学生、Darragh Hare研究員らの研究グループは、2025年の夏に秋田県秋田市で行政関係者と市民にインタビューを行い、同地でのツキノワグマの市街地への出没実態とクマ対策に対する意見データの収集と分析を行いました。
調査の結果、住民は餌資源の豊凶作などの生態学的要因だけではなく、人口減少と農地の放棄などの社会的要因によって、人の生活圏に出没するツキノワグマが増加していると認識していました。また、緊急銃猟などの新たな管理対策に対しては、おおむね賛成の意見が多かったなか、駆除の判断をするべきかの段階に対しては意見の差がみられました。秋田市内でも中心部と郊外の住民との間で、クマ出没や管理対策に関する認識の差がみられました。また、県外、特に「クマが出ない都会の人々」はクマが出没する日常に対しての理解がないという意見が多数出ました。
日本国内はもちろん、世界各地でも地方の人口減少によって、人と野生動物の間の境界が曖昧になり、野生動物が人の生活圏に進出するケースが増加しています。このような状況下、問題に直面する秋田市の住民の声から多くの教訓を得ることが期待されます。
本研究成果は、「Ambio」(2026年10月22日付、オンライン先行掲載)に掲載されました。
研究の背景
近年全国各地で人の生活圏に出没するツキノワグマの数が増加しています。目撃数は地域によっては大幅に増え、人的被害も発生しています。その中でメディアによって頻繁に取り上げられているのは、東北地方、特に秋田県です。この状況を受け2025年9月には住宅地でも市町村の判断でクマを駆除できる「緊急銃猟」が改正され、2026年9月30日時点で91回実施されています。
効果的な対策を検討していくためには、ツキノワグマの生態に関する知識ギャップを埋めるとともに、日常生活に直接に影響を受けている住民の方々が現状をどのように受容しているかを把握することが重要となります。本研究では、ツキノワグマの生活圏での出没が多発している秋田県秋田市内でクマとクマ対策に対しての社会的認識(=ヒューマンディメンション注1)を明らかにすることを目的としました。
研究成果
本研究では、秋田県秋田市で2025年6月に8人の行政関係者と35人の住民の方々への半構造化インタビュー注2)を通して、意見データを収集しました。テーマ分析注3)の結果から大きく4つのテーマが明らかになりました。
- 人口減少や農地の放棄などの社会的要因が人の生活圏でのツキノワグマの出没頻度を増加させているという認識 インタビュー調査を行った住人35人の中24人(69%)がクマの出没頻度が上がったのは過去5年以内と認識していました。特に里山の人口減少によって、今までクマと人を分けていた緩衝地帯が劣化したことが原因だとし、うち14人(40%)は緩衝地帯を再構築しなければ共存は難しいと述べました。
- 行政担当者と住民の間でのクマ対策キャパシティに対する認識の違い 目撃した場合の対処方法や駆除基準など、クマ対策の指針が秋田県の行政より住民向けに発信されていますが、これらの指針と住民の認識には差がありました。また、13人(37%)は県の指針に従って通報などを行うと述べましたが、6人(17%)は県の対策が十分ではないと述べました。
- 秋田県内と県外、秋田市の中心部と郊外の住民の間のクマ問題に関する認識の差 インタビュー調査を行った住人のうち15人(43%)は全国ニュースのクマ問題の取り上げ方が正確ではないと述べ、17人(49%)は秋田市のクマ問題や対応が報じられてから県外からの批判が増加していると述べました。また、20人(57%)は秋田市の住民と県外に住む人の間では、日常生活におけるクマ問題の現状が根本的に違うと強調しました。秋田市内でも中心部と郊外の住民の間で、ツキノワグマの影響や共存の可能性、安全面に関して意見の差がみられました。
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緊急銃猟や目撃情報システムなどに対する認識や実施実態 秋田県が運用しているツキノワグマの目撃・出没情報共有システム「クマダス」に関して、インタビュー参加者の約半数の19人(54%)が主にクマダスから情報を得ていると述べました。一方、12人(34%)は頻繁なアラートに慣れてしまったと述べ、10人(29%)はクマダスに目撃情報を報告しないと述べました。緊急銃猟に対しては、13人(37%)がその実施に賛成の意を示した一方、8人(23%)は捕獲・放獣など他の対策では不可能な場合の最終段階として扱うべきだと述べました。最も多かった意見(20人、57%)は緊急銃猟を実施する際の猟師や住民の安全確保に対する不安でした。また、11人(31%)は駆除より放獣をするべきであると述べました。
今後の展開
全国各地域でクマの出没・捕獲・駆除が相次ぐ中、地域住民の声を丁寧に聞き取り、対策に反映させることがますます重要になっています。一方、効果的で地域の実情に合ったクマ対策を考えるためには、人々の経験や意識だけでなく、クマの生態や行動についての知見も組み合わせ、総合的に理解することが必要です。今後は秋田市に加え、クマの出没や被害が多い他の地域での調査を進め、地域ごとの共通点や違いを明らかにしていく予定です。こうした研究を通じて、人とクマの関係についての理解を深め、地域の実情に応じた、より効果的な対策の検討につなげていきたいと考えています。
図1:クマ対策の様子。左上から右回り:水田を含めた秋田市の都市周辺部;クマダス上で令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の秋田市内のクマ目撃情報;住宅街を含めた秋田市の都心部;クマ鈴など自己対策の商品。(出典:https://doi.org/10.1007/s13280-026-02497-6,撮影:宮崎彩響子)
謝辞
本研究の現地調査は、オックスフォード大学ウースター・カレッジおよびオックスフォード大学大学院地理学科の支援を受けて実施しました。また、秋田県庁、秋田県警察、秋田市役所、秋田魁新報社、秋田県立大学、国際教養大学をはじめ、インタビューにご協力いただいた行政関係者および地域住民の皆様に深く感謝申し上げます。
用語解説
注1)ヒューマンディメンション
主に環境保全の分野における人間事象や社会的側面を、社会科学的な手法で解明する研究分野。
注2)半構造化インタビュー
事前に用意した質問項目に沿って進めながらも、相手の回答やその場の状況に応じて柔軟に追加の質問や深掘りを行う調査手法。
注3)テーマ分析
インタビューなどの質的データから共通する意味のパターン(テーマ)を抽出・整理する手法。
論文情報
タイトル:Human dimensions of Asiatic black bear presence in Akita City, Japan
著者:Sakiko Miyazaki*, Darragh Hare, Emu-Felicitas Ostermann-Miyashita
掲載誌:Ambio
掲載日:2026年10月22日
DOI:10.1007/s13280-026-02497-6
URL:
https://doi.org/10.1007/s13280-026-02497-6
◆研究に関する問い合わせ先◆
【研究に関すること】
東京農工大学大学院農学研究院自然環境保全学部門
准教授 宮下 絵夢フェリチタス(みやした えむふぇりちたす)
E-mail:miyashita-ostermann(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
- 東京農工大学 宮下絵夢フェリチタス准教授 研究者プロフィール
- 宮下絵夢フェリチタス准教授が所属する 東京農工大学農学部地域生態システム学科